南極地球物理学ノート No. 43 (2016.05.27)

白瀬氷河流域の質量収支(Net Mass Balance)

渋谷和雄・中村和樹・土井浩一郎


Keyword: ALOS PALSAR画像、ASTER 画像、RACMO2.1、SMB, IMD, NMB, Bamber-DEM, FDM



1. はじめに

南極地球物理学ノートNo. 40、No.41,No. 42において、我々は白瀬氷河の流動の特徴、流動量の季節変化、経年変化量などを明らかにした。経年変化推定においては 2006年に打ち上げられALOS衛星のL-band SAR (PALSAR) と1996年のJERS-1 SAR結果の比較が有用であった。PALSARはJERS-1 SARに比べ、画素の分解能が約2倍良くなったこともあり、GLでの流動速度推定の精度も向上した。流動速度の決定精度が向上すれば、年間あたりの流出量(Ice Mass Discharge: IMDと略記)の推定精度も良くなるはずであるが、氷厚の推定精度も関係するので話はそれほど単純ではない。また、なによりも表面質量収支(Surface Mass Balance: SMB)と呼ばれる年間当たりの積雪量(質量増加量)を正確に把握する必要がある。積雪量と流出量の両方が精度よく推定されて初めて増減量(Net Mass Balance: NMB)がプラス・マイナスの符号を含めて精度よく推定できる。このノートではNakamura et al. (2016) に基づき白瀬氷河本流域のNMBを求めたので紹介する。



2. NMBを求める方法

氷床の質量収支を推定する方法として、衛星重力(例えばGRACE, GOCEなど)で推定できる球面調和展開係数の時間変化から質量増減を推定する方法がある。これは西南極の氷質量が全体として減少傾向にあること(Velicogna et al., 2014など)を明らかにするなど、106-8 km2規模のglobalな広がりを持つ領域の場合には有効である。しかし、104-6 km2のregional~localな広がりでの変動の場合には、補正に用いるGlacial Isostatic Adjustment (GIA)(Post Glacial Rebound; PGR, 後氷期地殻隆起と呼ばれることもある)モデルに内在する地殻―マントル粘性係数の深さ分布にあいまいさがあるため、地殻変形(隆起・沈降)による見かけの質量変化補正に大きな割合の推定誤差を伴うので、必ずしも有効とは言えない。

一方、区切った領域、区切った期間での衛星高度計データの積算値からNMBを推定する方法もある。この場合の難点は、堆雪の深さに対する密度変化(firn depth distributionと言う)が場所と堆雪条件により大きく変化し、水質量に換算する際に推定誤差が大きくなる点である。また、レーダー高度計の測定精度は3-10 cmであり、測定高度データの分布が大まかには5 km gridに平均1点なので、104-6 km2のregionall~localな広がりの場合には、十分な精度のデータが得られるとは言い難い。

一方、ここで用いる方法は質量収支法(mass budget method)と呼ばれ、積雪量(入力質量;input)と流出量(出力質量; output)を独立に(別個に)推定する。この方法はinput-output method (Shepherd et al., 2012) と呼ばれることもある。質量収支法において、気候モデルで推定する積雪量をSMB、画像相関法を用いて推定するGLからの流出量をIMDと表すと、NMBは

NMB = SMB – IMD – MWD             (1)

と単純な式で表わすことができる。ここで、MWD (Melt Water Discharge) は地上観測では得られない氷床内部での融解によりGLから外へ流失して行く氷質量である。上記いずれの方法でも現状ではMWDの正確な定量評価が難しく、(1)式を

NMB ~ SMB – IMD             (1)’

で近似する。



3. 白瀬氷河流域面積の推定

(1)’式の適用で大事な点は、SMBとIMDを推定する流域を同一に設定することである。氷床は表面地形の等高線に直交する方向に流れ下るので、等高線の尾根が流域区分を定める。氷床表面地形の大局的決定の端緒はLevanon et al. (1977) の気球高度計実験であったがすぐに、衛星レーダー高度計にとって代わられた。Fig. 1aはShepherd et al. (2012)に基づくレーダー高度計による流域区分であるが、SHIの西方に位置するDronning Maud Land流域(DMLと略記)がひとつの大きな区分で表わされている。しかし実際には、Harald Drainage Basin (HD), Ragnhild Drainage Basin (RD), Asuka Drainage Basin などとさらに分割され、Ageta et al. (1997) とTakahashi et al. (1997) に基づいてFig. 1bのような流域区分になっている。SHIに関する両者の違いは、Fig. 1aでは明瞭でないSoya Drainage Basin (SOY)がFig. 1bでは明瞭に区分されていることである。SOYへの積雪は、白瀬氷河ではなく、宗谷海岸から床状流れで流失するので、(1)’式においては、SOYは除外して評価する必要がある。

note43_図01
Fig. 1a.  白瀬流域(SHI)に隣接するDronning Maud Landの流域区分。
Nakamura et al. (2016) から転載したが、原図はShepherd et al. (2012)。

note43_図02
Fig. 1b.  Fig. 1aのSHIにはSOYが含まれているが、実際は別流域
である。また、SHIの点線左側の小流域は本流Aではなく支流B
から排出される。Nakamura et al. (2016) から転載。

SHIの流域面積は以下のように推定した。大略は衛星高度計の定める境界に従うと見なせるので、Bamber et al. (2009) の1 km DEM gridを極投影座標図に投影し、Fig. 1aのSHI内に含まれるgrid数を数える。そこから、Fig. 1bに基づきSOY内の1 km grid 数を差し引く。SOY-SHI流域境界の画定はこの図上では難しくみえるが、この境界域におけるGPSによる氷床流動方向測定、氷床表面傾斜測定、表面歪み方向計測などの実測地上測量によって、明瞭に区別できる。例えば、SOYからプリンスオラフ海岸に向かう流動は330º方向であるが、SHIから白瀬氷河に向かう流動は312º方向である。このような流域区分を経てSHIの総面積は2.125 x 105 km2と求められた。



4. 白瀬流域SMBの推定

SHIの全流域における積雪量を直接測定により高密度の点で求めることは実際上不可能である。従って、気候モデルに基づくシミュレーションで評価するのが常道である。気候モデルにはいろいろな種類があるが、雪面と大気との境界である接地層でのエネルギー交換による質量収支のモデル化が必要で、素過程の物理機構に関する研究積み重ねを経て、オランダのグループが昇華(sublimation)、 削剥(erosion)を考慮した「現実的積雪モデル」を開発した。そのモデルはRACMO2.1 (Regional Atmospheric Climate Model version 2.1; Lenaerts et al., 2012a, b, c)と呼ばれ、(1)’式中のSMBが精度よく推定できるようになった。

ここでは、良く使われるERA-Interim (1979-2011)気候モデルに上記RACMO2.1を組み込み、27 km grid (0.25 º grid) に対してLenaerts et al. (2012c) が求めた南極域SMB分布を利用する。Fig. 2aはSHI領域全体の年毎SMB分布であるが、2008年までは12~14 kg m-2 yr-1であったのが、2009年から~25 kg m-2 yr-1へと急増したように見える。SMBとIMDを対応させる時、長期間平均を取る必要があるが、それではその期間が具体的に10年平均なのか、20年、30年なのか、それぞれの積算の開始時期はいつなのか、などを決める決定的な指標は見つかっていない。そこで、ここで考えるSMBについてはRACMO2.1が与える全期間(1979年から2011年まで)である32年間の平均値を用いる。

note43_図03 Fig. 2a. RACMO2.1モデルに基づく27 km gridからSHI流域に含まれるSMBデータを積算して求めた積雪量の各年分布。Nakamura et al. (2016) から転載。

RACMO2.1では27 km gridにSMB値が付与されているので、沿岸氷床域では地形grid (1 kmサイズ)とのマッチングをうまく取らないと、SMBを実際より過大評価する可能性が高い。それを避けるため、各grid内において海岸線から海側にはみ出す面積割合分のSMBを除去して、過大評価にならないよう抑えている。しかし、後に述べるように、沿岸域ではモデルそのもののSMBが過大評価されているのでその補正も必要になる。Fig. 2bはRACMO2.1のSMB平均値を地形に被せてカラー図示したものである。8つのサブ領域(catchmentと呼ぶ)に分け、50 kg m-2 yr-1ごとに大きい方を暖色系、小さい方を寒色系の色分けで表示いている。色の移り変わりは大まかには地形の等高線に従っていて、高度が高くなるほど、降雪量が減少するという経験則と合致している。

note43_図04
Fig. 2b. 積雪量は沿岸で大きく、氷床高度が高くなるにつれ減少する。
SHI流域のSMB値を8の区分に色分け表示でしめした。暖色系ほど
大きく、寒色系ほど小さい。Nakamura et al. (2016) から転載。

Table 1の第1列は積雪量の範囲幅に従って区分した8つのサブ領域である。各サブ領域の面積は第2列のように数えられている。27 km sizeの各SMB gridに記入されている各年の積雪量が判っているので積算年平均SMB値 (Gt yr-1)が第3列のように計算されている。第4列は第3列の値を第2列の面積で割って得られる、単位面積あたりの平均SMB値 (kg m-2 yr-1)である。第4列の平均SMB値は確かに、第1列の示す範囲幅に入っている。SHI全域での積算SMB値は第8行の下(Total)に示すように13.45 Gt yr-1、 単位面積当たりのSMB値は1228 kg m-2 yr-1であった。

Table 1. Area and SMB values for the Shirase Drainage Basin.白瀬氷河流域の8つのsub-division (第1列)におけるSMB分布。
第2列は各sub-divisionの面積。第3列は積算SMB値。第4列は平均値で第1列の示す範囲内にある。
第8列下に全積算値が示され、 第9行、第10行は本流A、支流Bの値である。
Nakamura et al. (2016) から転載。

 

Isopleth contoured mass balance
(kg m–2 a–1)

Corresponding
catchment (km2)

Areal SMB
(Gt/a)

Averaged SMB
(kg m–2 a–1)

1

> 300

  3,899

 1.61

 414

2

250-300

  2,600

 0.70

 271

3

200-250

  4,170

 0.92

 221

4

150-200

  7,463

 1.29

 173

5

100-150

 14,438

 1.75

 121

6

50-100

 42,555

 2.96

 69

7

0-50

137,138

 4.23

 31

8

0 <

   222

–0.02

–72

 

Total

212,484

13.45

 1228

9

  Mainstream A (93.4%)

198,460

12.57

 1148

10

  Sub-stream B (6.6%)

 14,024

 0.89

   81

なお、SHI全域への積雪がすべてFig. 1bで示した白瀬氷河河口から流出するわけではなく、主流 (mainstream A)と支流 (sub stream B) に分割されて流出している。Fig. 1bの点線で示すように支流に対応する面積分は小さいが、それでも6.6%になる。従ってTable 1の全量を面積比で按分すれば、主流に対応する積算SMB値は第9行に示すように

SMB = 12.57 Gt yr-1                 (2)

であった。



5. IMDの推定

氷床流出量(IMD)を正確に推定するためには、GLでの氷厚を正確に推定する必要がある。GLに沿ったアイスレーダー氷厚の実測値が得られていない現状では、標高を正確に求め、free board仮定を用いて推定するのが次善の策である。ここではASTERと呼ばれるVNIR (Visible Near Infrared Radiometer) のステレオ撮像画像から得られた15-m grid DEMを用いている。ASTERの原理、得られたDEMの詳細、その精度検証はYamaguchi et al. (1998), Fujisada et al. (2005), Sekiguchi et al. (2008) などに記載されているので手法の詳細は省略する。


5.1. GLでの標高推定

Table 2は標高推定に用いたASTER画像のデータで2001年を除き、各年につき1データ取得されている。VNIRの前方視、直下視のペアから各取得日についてGLでの標高プロファイルが1本得られる。Fig. 3aの右上にTable 2に示した取得年を色分けで示している。10年間でのGL水平位置の不一致は、実際の変動というより、データに内在する測定誤差を反映していて、実際には殆ど変化していないと思われる。

Table 2. ASTER data acquisition dates. GLの標高決定のために使用したASTERシーンの
  日付。日付ごとに前方視、直下視画像からステレオ視により15 m gridのDEMが生成できる。

16 Dec 2000

27 Nov 2004

18 Jan 2007

04 Jan 2002

07 Jan 2005

23 Jan 2008

09 Jan 2003

11 Mar 2006

18 Jan 2009



note43_図05
Fig. 3a. ASTER画像のステレオ視から作成された15 m解像度のDEMを用いてGL位置を推定した。2000年~2009年データ(2001年を除く)とYamanokuchi et al. (2005) のInSARによるGL位置をプロットするとほぼ、同一の結果が得られた。 Nakamura et al. (2016) から転載。

Fig. 3aのQi (i=1, 9)は9 kmの氷流差し渡し幅に対して1 km間隔で置いた点で、この点を通る流線を上下流に延ばした時の標高プロファイルに着目する。Qi各点において下流から上流に向かって標高が急増する点がGLであると無理なく推定できる。GLの水平位置が決まればその点でのBD (Bamber-DEM)高度とそれに対応するAD (ASTER-DEM) 高度をpick-upできる。

Fig. 3bはQi (i=1,9)を横軸に、AD 高さ(○印)、BD高さ(□印)を縦軸にプロットしたもので、両者の差(△印)はQ8での9.0 mからQ9での23.2 mの範囲にある。BD高さはレーダー高度計という active sensor(自ら発振・受信する衛星センサーで高さを測定する)で得られた値、AD高さはVNIRという passive sensor(地表の物理データを受信する衛星センサーがあり、その受信データを用いて高さを推定する)による計測値なので、標高の絶対値としてはBD高さの方が正しいはずである (Sekiguchi et al., 2008)。こうして、測定密度の高いAD高さに、上記高度差の平均値17.0 mを加えれば、GL各点でのより精確な標高が密に得られることになる。こうして得られた標高はQ2の53.9 mからQ9の127.6 mの範囲にあった。Fig. 3cに、このようにして得られたQi (i=1, 9)各点での下流(左側)から上流(右側)に向かっての標高プロファイルを示した。AD高さの標準偏差δh = 4.2 mは,標高決定精度の指標であり、各点の標高とともにTable 3の第2列にまとめた。

note43_図06
Fig. 3b. Qi (i = 1, 9) を1 km間隔で横軸上にとり、その位置に対応 するASTER高度(○印)とBamber DEM高度(□印)を縦軸にプロットした。BD高度の方がAD高度より系統的に高く、両者の 差(バイアス;△印)は平均17.0 mであった。


note43_図07
Fig. 3c. Qの各点についてGL(各Qi 点において●で表示)より下流(左側)からGLより上流 (右側)にかけての標高プロファイルを描いた。標高は氷流の左側で低く、右側で高い。

5.2. GLでの氷厚推定

GLでの標高から氷厚を推定するにあたり、堆積した雪・氷の密度に関する深さ分布が必要になる。降り積もった雪の密度は表面近く(深さ0~1 m)では100-200 kg m-3 であるが、深さが増すと圧密で密度が増して行き、100 m深さになると、900-910 kg m-3 になる。この密度増加曲線は、場所によって異なるので、本来はGLで氷をサンプルし、実測して決めるのが望ましい。しかし、GL付近にヘリコプターで着陸し、雪・氷の柱状サンプルを入手するのは、一大オペレーションになってしまい現実的ではない。

南極の雪質はASTER衛星画像でも推定できる。密度が高い氷ほど青く見えて、RGB要素の混合によるDN値は白い積雪域のDN値とは明らかに区別できる。白瀬氷河GL付近のASTER画像はやまと山脈裸氷域のASTER画像(Fig. 4)と似た青色になっていて、やまと山脈裸氷域での実測による氷密度の深さ分布があれば、それで代用できるであろう。幸い、Fig. 4の星印地点ではNakawo et al. (1988)により、そのような実測による氷密度の深さ分布が得られている。それによると極く表層(0-2 m)を除いた2 m深さでは890 kg m-3 で、50 m深さまで線形的に増加して910 kg m-3 に達し、以深は910 kg m-3 で一定だったと言う。GLでもこのことが言えるとすると、そこでの氷厚d と標高h の間には以下の関係式が成り立つ。

note43_図08 Fig. 4. GLでのρice = 900 kgm-3 に対応する氷厚を推定するためには、実測による密度の深さ分布が必要である。GLの代わりに、やまと隕石氷原(星印)でのアイスコア実測値(Nakawo et al., 1988)を用いて推定した。


(d – h) ρsea = 50 ρice1 + (d – 50) ρice2        (3)

但しd は推定するGLでの氷の厚さ(m)、h は測定標高(m)、ρice1 = 900 kg m-3, ρice2 = 910 kg m-3, ρsea = 1030 kg m-3である。これら密度の値を代入すると、(3)式は

d ~ 8.583h – 4.2                        (4)

と表わすことができて、Table 3のcolumn 3に集約される。d は458.4 m (Q2)から1091.0 m (Q9)の範囲にある。また、氷厚の精度は標高h の精度で決まり、δh = 4.2 m なので(4)式により

δd ~8.583δh ~36.0 m                  (5)

である.氷厚をd±δd の形で同じく第3列に記載した。

Table 3. Summary of ice mass output values for the mainstream A. 本流Aの1 km幅の各分割部分について流出する氷質量を推定した。
第1列、各sub-division。第2列、GLでの海水に浮上し始める氷山の標高。第3列、第2列に応じた氷厚。
第4列、各分割幅の流れの厚み。 第5列、流動速度、第6列、流出氷の質量。

1

2

3

4

5

6

7

8

9

Sub-division

Surface height of iceberg

Ice thickness

Flow width

Flow velocity

Output mass

Net mass balance

Year

Position

h (m)a

d (m)b

w (m)c

v (ma-1)d

M (Gta-1)e

NMB (Gta-1)f

 

 

Q1

60.9±4.2

518.5±36.0

977±7

2320±20

1.07± 0.09

 

2007-2009

GL

Q2

53.9±4.2

458.4±36.0

977±7

2320±20

0.95± 0.09

Q3

64.8±4.2

552.0±36.0

977±7

2320±20

1.14± 0.09

Q4

93.0±4.2

794.0±36.0

977±7

2260±20

1.60± 0.10

Q5

99.1±4.2

846.4±36.0

977±7

2260±20

1.79± 0.10

Q6

95.6±4.2

816.3±36.0

977±7

2260±20

1.64± 0.10

Q7

101.7±4.2

868.7±36.0

977±7

2260±20

1.75± 0.10

Q8

126.8±4.2

1084.1±36.0

977±7

2130±20

2.05± 0.10

Q9

127.6±4.2

1091.0±36.0

977±7

2130±20

2.07± 0.10

Total

 

 

 

(8790± 63)

(14.0± 0.9)

See Table 6

 

 

aASTER DEM高度と、それに対応するBamber DEM gridの内挿点の高度差を計算し、平均バイアス値をASTER DEM高度に補正してGLでの標高を求めた。
b標高に付随する誤差はδh = ±4.2 m なので氷厚誤差は δI = 8.538δh±36.0 m になる。
c全氷流幅977 m の誤差は0.7% = 63 m なので各分割幅では~7 m 誤差になる。
d後に示す4.3の議論から流速の誤差を±20 m yr-1 と置いた。
e(2)式を用いて計算される排出体積をNakawo et al. (1988)によるρice = 910 kgm-3 を用いて質量に換算した。

5.3. GLでの流動速度

GLでの流動速度もできるだけ精確に推定する必要がある。我々はALOS PALSARで得られた画像相関法結果を用いたが、方法の詳細はNakamura et al. (2010)及びノートNo. 40, 41, 42に記載されているので、Fig. 5aに結果のみ図示する。

note43_図09 Fig. 5a. ALOS PALSARデータに画像相関法を適用して得られた流動速度の分布図。Fig. 3a と照らし合わせ、GLでの流動速度を±20 m yr-1 精度で求めることができる。

白瀬氷河の各Qi (i=1,9)点における流動速度note43_g010は画像相関法で得られるので詳細は省き、結果をFig. 5bに図示する。Qi (i=1,9)の位置を~1 km間隔で横軸に取り、標高を左軸のスケールで縦軸(○印)に、流動速度を右軸のスケールで縦軸(●印)にプロットしている。流速値の精度は±20 m yr-1で、Table 3の第5列に集約してある。流速の最確値は連続的な変化は検知できず、誤差を考慮すると3段階の値になった。

氷厚と流動速度が得られたので,各流線の流れ幅note43_g011が分かっていることから,Table 3のnote43_g012,note43_g0112,note43_g0101の積算により9本の流線ごとに流出体積量note43_g013

note43_g0132 = note43_g014note43_g0102                    (6)

で計算される。従って流出体積の総和V

note43_g015                    (6)’

であり、氷密度910 kg m-3を用いて質量に換算できる。

note43_図16 Fig. 5b. 左軸にGLの標高(○)を示し右軸にGLでの流速(●)をプロットした。GLでの標高~氷厚と流速は負の相関関係にある。

その結果は第6列にまとめられ、総流出量IMDは

IMD = 14.0 Gt yr-1         (7)

となった。(7)式の単位はGm3 yr-1ではなく、Gt yr-1であることに注意を要する。



6. NMBとその推定誤差

(1)式によるSMB = 12.57 Gt yr-1と(7)式によるIMD = 14.0 Gt yr-1を(1)’式に代入し

NMB ~ SMB – IMD = 12.6 – 14.0 = –1.4 Gt yr-1    (8)

である.(8)式に付随する誤差は誤差伝搬の規則によりSMB, IMDそれぞれの誤差 δSMB δIMDの合算になる。

Table 4はSHI領域の各年SMB値、12年平均値とその標準誤差、24年平均とその標準誤差を示している。12年平均値は1979-1990年平均の11.7 Gt yr-1から1989-2000年平均の13.6 Gt yr-1へと徐々に増え、それから1997-2008年平均の12.4 Gt yr-1へ徐々に減少し、しかしそこから2000-2011年平均の15.1 Gt yr-1へ再度増加した。付随する標準誤差(1σ)の経年変化は0.6~1.7 Gt yr-1で変動幅は広いが顕著な変化傾向は見られない。平均を取る期間を24年間に伸ばすと、平均SMB値は12.4~14.3 Gt yr-1で、やはり顕著な傾向はない。そこで、33年平均(1979-20011年)値の13.45 Gt yr-1に付随する標準誤差の2倍、2σ  = ±1.5 Gt yr-1をSMBの誤差と見なすことにした。

Table 4. The calculated averages and the associated standard errors for the long-term (from 12 years to 30 years) time series using the yearly SMB values for the SHI by Lenaerts et al. (2012c). 各年のSMB値をもとに、12年平均と標準誤差を第2列に示した。例えば1979年の12.1 Gtから1990年の18.4 Gtまでの12年平均は11.7±0.9 Gt yr-1である。以下同様に2000年から2011年までの12年平均は15.1±1.7 Gt yr-1である。また平均期間を24年に延ばした結果を第3列に示した。例えば1979年から2002年までの24年平均は12.4±0.6 Gt yr-1で、1988年から2011年までの24年平均は14.3±0.9 Gt yr-1である。表の最下段は全33年平均値13.45 Gt yr-1とその標準誤差0.75 Gt yr-1である。
Year Yearly average        
SMB(Gt)        
1979 12.1        
1980 11.6        
1981 15.3        
1982 11.6        
1983 9.2        
1984 8.8        
1985 7.5        
1986 14.1        
1987 10.1        
1988 9.7 12 years'    
1989 12.0 Average Std. error    
1990 18.4 11.7 0.9    
1991 14.3 11.9 0.9    
1992 17.5 12.4 1.0    
1993 14.3 12.3 1.0    
1994 11.9 12.3 1.0    
1995 10.0 12.4 1.0    
1996 16.1 13.0 1.0    
1997 11.5 13.3 0.9    
1998 13.3 13.2 0.9    
1999 13.7 13.6 0.8    
2000 10.7 13.6 0.8 24 years'
2001 11.7 13.6 0.8 Average Std. error
2002 12.5 13.1 0.6 12.4 0.6
2003 13.4 13.1 0.6 12.5 0.6
2004 13.8 12.7 0.5 12.6 0.6
2005 15.9 12.9 0.5 12.6 0.6
2006 9.8 12.7 0.6 12.5 0.6
2007 8.6 12.6 0.7 12.5 0.6
2008 13.6 12.4 0.6 12.7 0.6
2009 26.7 13.6 1.3 13.5 0.8
2010 18.8 14.1 1.4 13.7 0.8
2011 25.44 15.1 1.7 14.3 0.9
Average 13.45        
Std.error 0.75        

δSMB = ±1.5 Gt yr-1     (9)

IMDの不確かさは(6)’式の各項に付随する誤差により

     note43_g017 (10)

と表される。δd = 8.583δh ~36 m、δw ~7 m、 δv ~ ±20 m yr-1 だったので(10)式はδV = 0.98 km3 yr-1であり、質量としての1σ errorは~0.98 km3 yr-1 × 910 kg m-3 ~±0.9 Gt yr-1と計算される。従ってIMDの95%信頼限界2σ によりδ IMD

δIMD =±1.8 Gt yr-1         (11)

であろう。すると、NMBに付随する誤差は

δNMB = δSMB +δIMD =  (±1.5 Gt yr-1) + (±1.8 Gt yr-1) = ±3.3 Gt yr-1  (12)

である。



7. SMB地上検証データとRACMO2.1面積平均値との比較

3章で求めたSMBはRACMO2.1モデルに基づいた推定量なので、実測による裏付けに欠ける。幸い、Fig. 1bの鎖線で示すS16からドーム基地までの輸送ルートにおいては、2 kmおきにJAREが雪尺測定により年毎の積雪量を測定している。その多年にわたる平均値からWang et al. (2015)がFig. 6aのように、沿岸(S16)から1000 km内陸のドーム基地(DOME Fuji)に至るSMB分布を求めた。各ポイント値はばらつきが大きいが20 km移動平均(1993-2010年の17年平均が赤線、1975-1992年の17年平均が紫線、1993-2006年の13年平均が緑線)から、次のような特性が明らかになった。すなわち、輸送ルート上のSMB分布は(1) 沿岸域(S16から<186 kmで2000 m高度以下)、(2) 下部カタバ風域(S16から186-258 kmで高度2000-2230 m)、 (3) 上部カタバ風域(S16から258-742 kmで高度2230-3600 m)、及び (4) 内陸高原(S16から742-1006 kmで高度>3600 m)の4領域に分けられる。Fig. 6bの赤線は、輸送ルート各点に対応したRACMO2.モデルgrid値を取り出してプロットしたものである。一方、黒線は赤線のモデル分布に対応する実測SMBを基にした分布である。

note43_図019

Fig. 6a. ドームふじトラバースルートで2 km毎に測られた積雪量の移動平均から、SMBの特徴は4領域に分けられることが判った。黒丸はFig. 6bの白丸に対応した距離にプロットしたRACMO2.1の面積平均SMB値。

note43_図020

Fig. 6b. RACMO2.1モデルによるトラバースルート上でのSMB grid値を○で示し、 その距離に対応させたSMB 面積平均値を黒丸でFig. 6aにプロットした。

RACMO2.1モデル (Fig. 6b) は大局的には内陸に向かって双曲線状で減少して行くので輸送ルート上の実測SMB (Fig. 6a) と調和的である。しかし、例外が3ヶ所あり、(1) S16から0-150 kmの沿岸域では~240 kg m-2 yr-1の実測に対してモデルは300-400 kg m-2 yr-1で極端に超過している、(2) 下部カタバ風域では実測の150~500 kg m-2 yr-1に対してモデル値は200~100 kg m-2 yr-1で、モデルが超過気味である、(3) 上部カタバ風域では実測の180~80 kg m-2 yr-1に対してモデル値は100~50 kg m-2 yr-1で、モデルが不足気味である。(4)それ以遠の内陸部では、実測とモデルは良く一致している。

Fig. 6bは輸送ルートに対応したRACM2.1 grid モデル値をプロットしているが、Table 1の第4列による面積平均SMB値をFig. 6bにプロットすると白丸に示す距離が対応し、赤線上に乗る。その結果を代表的な距離としてFig. 6aに反映させると黒丸となり、モデルSMB分布の実測SMBに対する超過・不足の特徴が、面積平均SMBでもそのまま反映されていることがわかる。

双曲線状の単調な減衰曲線で示されるモデル (Fig. 6b) は、沿岸域では実測に対して明らかな過大評価、下部カタバ風域のexcess(赤線に対して黒線の凹み)と上部カタバ風域のdepression(赤線に対して黒線の膨らみ)の質量過不足はほぼ釣り合う、とまとめることができる。従ってRACMO2.1モデルが実測に対して持つ系統的偏差は

ΔSMB = Δρ kg m-2 yr-1 x A km2 x 93.4% ~ 0.48 Gt yr-1      (13)

の超過である。(13)式の結果は密度比Δρ  ~ 400 – 270 = 130  kg m-2 yr-1, >300 kg m-2 yr-1の質量超過域の面積としてA = 3899 km2を代入して得られた超過質量の近似値であり、(2)式から差し引く必要がある。



8. 先行研究による質量収支との比較

みずほ高原・白瀬氷河流域の質量収支についてはこれまでにいくつかの先行研究(例えばFujii, 1981; Pattyn and Derauw, 2002; Rignot, 2002; Nakamura et al., 2010)がある。しかし、いずれも(1)及び(1)’式におけるSMBとIMDが独立には推定されていない。先行研究の結果をまとめるとNMB ~ –3.6 ~ +1.6 Gt yr-1であるが、示されている誤差 ±2.3 ~ ±3.6 Gt yr-1の根拠と信頼限界は不明である。一方、Rignot et al. (2008;以後RI2008)では推定に関わる各項の値が示されているので、本研究結果と比較可能である。


Table 5. Comparison of the results from Shepherd et al. (2012), those from Rignot et al. (2008), and those from the present study.

  1 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 2
Item Area A F σ2 V H δV δH ΔH A-F Estimation Method σ1
Input output
Unit Mkm2 Gta-1 Gta-1 Gta-1 kma-1 m ma-1 m m Gta-1     Gta-1

Rignot et al.
(2008)


199

14.3

21.1

1(b)

2.2

1300

20

80

15

-6.8

RACM2.0
1980-2004
55 km grid


InSAR

This study 198 12.1 14.0 1.8(c) 2.1-2.3 458-1091 20 36

4.2
(d)

-1.9

RACMO2.1
1979-2011
27 km grid

Image corr. 1.5(a)
(a) 33年平均SMBの2σ 誤差である±1.5 Gt/aを入力積雪量の不確かさとみなした。
(b) 彼らの表S1において流出量Fの不確かさはσ/ F = δH/H +δV/Vで計算されている。パラメーターの値を入力するとσ = (80/1300 + 20/2200) x 21.1 =1.48~1 Gta-1で第4列の値になるが、これは1-σ 誤差である。
(c) 我々の研究では、流出量の1-σ 誤差はTable 4から±0.9 Gta-1なので、2-σ 誤差の±1.8 Gta-1 を流出量の不確かさとした。
(d) Eq. (4) によると見かけのフィルン補正は4.2 mでこれは参照氷密度910 kgm-3に対応している。 Ligtenberg et al. (2011)によるフィルン補正は16 m であるが、これは参照氷密度917 kgm-3に対応している。氷質量自体には両者で大きな違いは生じない。

Table 5の第1行がRI2008、第2行が本研究の結果をまとめたものである。第1列での両者の面積差はSOYが含まれるか否かで、結果に大きな違いはない。しかし、RI2008では第2列の積雪量(14.3 Gt yr-1)をgridサイズが55 x 55 km2と粗い一世代前のRACMO2/ANT (Van de Berg et al., 2006)で求めている。平均年数も25年(1980-2004年)と若干、短い。また、主流Aに対する面積割合を考慮しておらず、沿岸域ではモデルが実際より過大推定になることも考慮していないので、我々の結果(12.1 Gt yr-1)より大きめになっている。積雪量に関する最大の相違はRI2008では推定誤差(σ1)が与えられていないことである。

RI2008と我々の結果の最大の違いは第4列の流出量Fである。第6列のGLでの流速には顕著な差がないが、第7列の氷厚には顕著な差がある。GLでの標高の値は決して一定ではなくASTER DEMによる標高の値が示すように53.9 mから127.6 m(Table 3)と相対的な幅がある。Freeboard仮定による氷厚では、標高の差は約10倍増幅され、458 mから1091 mの範囲になる。そのため(6)式に基づく流線ごとの流出体積にも範囲幅が生じ、我々の積算結果は14.0 Gt yr-1であった。一方、RI2008による一定氷厚1300 mを用いた21.1 Gt yr-1は明らかに過大評価と言える。もうひとつの大きな違いは誤差評価(σ2)である。RI2008では、簡便式から1 Gt yr-1としているが、(10)式からこの値はより厳密に±1.8 Gt  yr-1と求めることができる。

(8)式と(13)式を組み合わせて得られる我々の最終結果、NMB = –1.9 Gt yr-1には誤差δ NMB = ±3.3 Gt yr-1(95%の信頼限界)が伴うので、たちどころに質量収支が負である、とは言い切れない。しかし、氷河流域からは融け水により流失する質量もあるので、それを考慮すれば、従来言われていた東南極は安定・質量微増という見解は、白瀬氷河流域については再検討する必要がある。



このノートは
Nakamura, K., Yamanokuchi, T., Doi, K., Shibuya, K., 2016. Net mass balance calculations for the Shirase Drainage Basin, east Antarctica, using the mass budget method. Polar Sci., 10, 111-122.
を基に再構成した。



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Q and A

Q1: Fig. 2は白瀬氷河域の毎年の積算積雪量とのことですが、永久に平均期間を延ばすわけにはいきませんね。2009年を境に、積雪量が増えてるように見えますし、最適な平均期間というのはないのでしょうか。
A1: 積雪が変わるregime shiftを示す気候上のパラメーターがあって、それを見れば変わり目がはっきりすることがない限り難しい気がします。No. 38の海洋変動の潮位変化パターンに約40年の周期性が垣間見えましたが、今の場合、まだ33年ですし当面は、打ち切らず期間をできるだけ延ばした方が良さそうです。Table 4によると12年平均でも、24年平均でも、おそらく36年平均でも、平均値11~14 Gt yr-1の標準偏差は~1 Gt yr-1で大きな差は出ません。むしろ、catchmentの面積に対応したSMB gridの精密化を図るべきで、これに関してはオランダのグループは既にDronning Maud Land地域についてはRACMO2.3という5 km gridを作成しているので、このモデルでSMBの精度向上を目指すのが先になります。

Q2: GLでの氷厚誤差は氷山のfree boardを仮定する限り、標高誤差に支配された±36.0 mより良くはならず、もう限界に近いのではないでしょうか?そして、アイスレーダーの誤差はこれより良いのでは?
A2: これはその通りだと思います。吹きおろしの風の強い地域なので1 km gridで稠密な航空機アイスレーダー観測するのは簡単ではありませんが、是非、近い将来に実現して欲しいと願っています。また、GL付近の表面氷床地形についてもドローンタイプの無人機で高解像度写真撮影して精度の良いDEMを作りアイスレーダーの結果と比較すればIMDの更なる精度向上が期待できます。

Q3: トラバースルートでの雪尺測定は単に、雪の深さを測るだけだと思っていました。何の役に立つのかいぶかしく思っていましたが、SMBモデルの検証になると知って驚きました。
A3: 1年だけの測定では有意な結果にはならないでしょうけど、30年近い蓄積データがあれば、極めて有用ですね。特に沿岸では、モデルは実際より60%も大きい積雪値になる訳ですから、積雪の物理過程を含めたモデルの改良に役立つはずです。