南極地球物理学ノート No. 39   (2015.08.31)

南極・昭和基地における絶対重力測定4 ― やっと求められた変動傾向

東 敏博・福田洋一・渋谷和雄



1. はじめに

FG5を用いた絶対重力測定については、第36次隊がFG5#104を用いて1994-95年に最初の(第1回目の)測定を行った。それ以降、第42次隊が2000-2001年に2回目、第45次隊が2003-2004年に3回目、そして第51次隊が2009-2010年に第4回目の測定を行っている。3回の結果から、重力の減少傾向が認められたが(Fukuda et al., 2005)、第4回目及び2011-2012年に行われた今回(第5回目)の測定結果を併せ、東ら(2013)により有意に明らかな減少率が推定されたのでその結果をまとめた。


2. 第53次隊での測定

第53次隊が使用したFG5の器械番号はMicro-g LaCoste社のFG5#210で、第45次隊以来、2回目の測定になる。重力計一式を2011年12月2日、しらせ5003からヘリで昭和基地に搬入し、落下槽の真空引きやHe-Neレーザーの調整を経て、2012年1月2日から測定を開始した。写真1はIAGBN (A)点における測定の様子を示している。順調なデータ取得が続いたが、1月8日電源関連のトラブルから光ケーブルからのレーザー出力が得られなくなり、2月18日に測定再開できた。このFG5は以後の越冬期間中も運用される予定になっているが、夏期間(1月2日―8日)の1週間データを第5回目として、解析を行った。

note39_図01

写真1. IAGBN(A)点上に設置されたFG5(#210)。ヘリウム液化機が不要になった2000年以降、室内はすっきりした。



3. データ処理

FG5付属の処理ソフトg-Soft (Micro-g LaCoste Inc., 2008)を用いてデータ処理を行った。第51次隊の解析ソフトも同じg-Softであるが、その時のversion 7.07307よりupgradeされている。
各種補正項目は下記の通りである。
(1)光速補正: c = 299 792 458 m/sに準拠、従来と同じ。
(2)固体潮汐、海洋潮汐、極潮汐補正については第51次隊と同じ。
(3)大気圧補正:標準大気圧を984.08 hPaとして、admittanceは-0.32 μGal/hPaを採用。
(4)重力鉛直勾配:-3.34μGal/cmを採用。

Fig. 1はこうして得られた全データの測定値分布図(ヒストグラム)で、IAGBN (A)のC点での値は982524322.7 (±0.1) μGalと求められた。なお、Table 1は測定結果の詳細を表にしたものである。

note39_図02
Fig. 1.  全ドロップ測定値の分布図(ヒストグラム)


Table 1.  第53次隊による絶対重力測定結果概要

測定期間:   2012年1月2日―8日
有効落下数: 21,524 drops
処理ソフト:  g-Soft version 8.090227
器械高:    116.02 cm (Micro-g LaCoste Inc.による測定値)
標準気圧:   984.08 hPa
気圧admittance: -0.32 μGal/hPa
重力鉛直勾配: -3.34μGal/cm
IAGBN (A) C点(金属標識)での重力値: 982524322.7 (±0.1) μGal



4. 器差の比較

5回の測定のうち、第1回と第4回は国土地理院所有のFG#104が使用され、第2回と第4回は同じく国土地理院所有のFG#203が使用された。一方、第3回と第5回は京都大学所有のFG#210が使用されている。重力補正方法の違いにより得られる最終重力値に系統的な相違が出ることがあり得るが、同じFG5を用いている限り計測方式は同一なので、結果に差がでるとしたら我々ユーザーの知らない器械定数の僅かの差に起因するものであろう。

複数台のFG5を用いた相互比較は繰り返し行われ(Vitushkin et al., 2010;水島・上田、2012)、1-2μGal以下の系統差(オフセット)はないとされている。今回、各FG5に対して4-8年間隔で2点のデータが得られているので、それらをプロットするとFig. 2の結果になり、微小な器差の存在を強く示唆する結果になった。即ち、各重力計データを結ぶ点線による勾配を基に器差を求めると、FG5#104(黒丸)の重力値を基準にすると#203(ダイアモンド)は2.0 μGal大きく、#210(三角)は1.1 μGal小さいという結論になった。但し、#203については2004年のデータがあるが、レーザー関係の不具合でdrop dataのバラつきが大きかったことが知られているので、Fig. 2から省いてある。この3台のFG5については国内相互比較でも#203 > #104 > #210なので、南極実験結果と整合性がある。

note39_図3
Fig. 2. 器械番号ごとの最終測定値の変化には、わずかであるがバイアス(点線参照)が認められた。


5. 重力の経年変化

重力の経年変化を求めるためには、Fig. 2で明らかになった器差補正のほかに、いくつかのデータ処理方法の違いを揃える必要がある。例えばg-Softのversionが異なるが、それによる観測誤差は0.1 μGal程度とされている(Micro-g LaCoste Inc., 2008)。また1週間程度連続測定を行えば、海洋潮汐補正モデルの相違による誤差は殆ど無視し得る。一方、採用した標準気圧の違いはバイアス誤差を生じる。第36次隊が986.7 hPaを採用したのに対して、他の観測隊の採用値は984.08 hPaなので、第36次隊の結果を他の隊次の結果と揃えるためには(986.7 hPa – 984.08 hPa) x 0.32 μGal/hPa = 0.84μGal/加算する必要がある。また、第36次隊と第51次隊は重力鉛直勾配として-3.339μGal/cmを採用したが、他の隊次は-3.34μGal/cmを採用しているので、C点での高さに揃えるためには、第36次、第51次隊の結果に対して(-3.34 + 3.339) μGal/cm x ~100 cm =-0.1 μGal引き算、すなわちした0.1 μGal加算してやる必要がある。Table 2はこのような補正を行ったのちの各エポックデータの最確値、Fig. 3はそのデータプロットよる重力値変化グラフである。回帰解析によると-0.24 μGal/yrの重力減少で、非常に高い相関係数(r = 0.997)で特徴づけられる。

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note39_図05
Fig. 3.  器差補正後の各隊次の測定結果により推定された重力減少率

得られた重力値減少傾向は、高さの変動傾向と関係があるはずである。そのためには実測に基づくdh/dtの評価が必要で、詳しい議論はその実測値を示してから行うことにする。



参考文献

Fukuda, Y., Higashi, T., Takemoto, S., Iwano, S., Doi, K., Shibuya, K., Hiraoka, Y., Kimura, I.,
McQeen, H., Govind, R. (2004): Absolute gravity measurements in Australia and
Syowa Station, Antarctica. in Gravity, Geoid and Space Missions GGSM2004,
(eds.) C. Jekeli, L. Bastos and J. Fernandes, IAG Symposia 129, 280-285,
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水島茂喜・上田和永 (2012): 絶対重力計の国際比較の進展、日本測地学会第118回講演会要旨、19-20.

東敏博・土井浩一郎・早河秀章・風間卓仁・太田晴美・大園伸吾・羽入朋子・岩波俊介・青山雄一・
渋谷和雄・福田洋一 (2013): 南極昭和基地における絶対重力計FG5による重力測定と
重力経年変化、測地学会誌、第59巻第2号、37-43頁。(with English abstract)

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