南極地球物理学ノートNo. 36   (2015.01.28)

南極大陸でおきた奇妙な地震

渋谷和雄


keyword: リスボン地震、1998年南極プレート内地震、Glacial Earthquake(氷河地震)、International Seismological Centre、Bedmap2



1. はじめに

人の一生に比べ、大地震(被害地震)の再来サイクルはとても長い。長年そこに住んでいる人達でさえ、何故ここでこんな大地震が起きたのか?と感じるケースが多々ある。一般には大地震は起きないとされているヨーロッパでも場所によっては数百年スケールの繰り返しで被害地震が起きている。リスボン地震はその典型例とされ、1531年の歴史地震後、200年以上経った1755年11月1日に津波による死者1万人を含む6何人近い死者を出した大地震が発生している(リスボン大地震と呼ばれる)。この大地震はポルトガルのみならず、広範囲に政治的・社会的影響を及ぼしたが、それは、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」で詳しく説明されている。

リスボン大地震の震源位置(推定36˚N, 11˚W)はイベリア半島南西端沖200 kmのマイクロプレート沈み込み帯にあり、推定規模はMw ~ 8.5-9.0とされている。



2. 南極プレート内の奇妙な大地震

Mw ~ 8クラスの大地震は普通、収束するプレート境界(海溝型境界)付近で発生する。南極プレート境界は南極半島付近を除いて明らかに発散型境界で、Mw~5-6の地震は定常的に起きてもMw ~ 8クラスの地震は起きないとされていた。ましてや、テクトニックに安定なプレート内ではMw = 8クラスの巨大地震は、近代的な観測網による観測databaseが整備されはじめた1900年以来、長らく知られていなかった。そのため、1998年3月25日03:12:26UTにバレニー諸島(Balleny Islands)近くの62.9˚S, 140.7˚E(Fig. 1の星印)で発生した南極プレート内地震(Mw ~ 8.1)は驚きをもって迎えられた。

note36_図01
Fig. 1. 南極大陸(68˚S以南)で起きた地震の震源をBedmap2 (Fretwell et al., 2013)の基盤地形図上に表した。DRV下方(北方)の赤い星印は1998年3月 25日の巨大地震(Mw~8.1)の震源。この震源はGRACE 重力異常の負の領域(violet斜線域: ~ -80 nGal/m)の端にある。白抜きの数字はTable 1のリストに対応する地震の番号で多くは上記重力異常の負領域の端にあり、Cape Adea付近に集中している。円状の白い点線・破線の中心には250 my前の隕石衝突による正の重力異常域(黄色の斜線域: +20~40 nGal/m)があり、衝突によるmass con (von Frese et al., 2009)と解釈されている。赤い星印付近の地殻一帯の海洋プレート成長は衝突による円状のpre-stress場の影響を受けている。Table 1下段のK, A~Hの詳細については本文参照。Fretwell et al. (2013)とvon Frese et al. (2009)をもとに重ね合わせ改変した。DML: Dronning Maud Land, WL: Wilkes Land, VL: Victoria Land, TAM: Transantarctic Mountains, CL: Coats Land.

この地震はフランスの越冬基地(Dumont d’Urville基地:66.7˚S, 140.0˚E , Fig. 1のDRV)では有感地震であった。当時、私は昭和基地の越冬隊長であったが、昭和基地から送ったお見舞いFAXに対して、Dumont d’Urville基地のRichard Gaud隊長がFig. 2のように、全員揺れを感じ、棚から物が落ち、1週間は話題に上るであろうと伝えてきた。DRVまでの距離(約670 km)から考えて津波の到来もあったはずだが、明確な記述はなかった。

note36_図02
Fig. 2. 1998年3月25日の巨大地震に昭和基地から送ったお見舞いFAXへのDumont d'Urville基地Richard Gaud隊長からの返電FAX

この地震発生の4ヶ月後には、発生メカニズムの解釈第一報がEOS に掲載された(Wiens and Wysession, 1998)。東西方向に275 kmの断層で、左横ずれ、ほぼ垂直のずれ成分が含まれるとしていて、生産されたプレートの冷却過程下での引っ張り熱stressによる発生であろうとしたが、従来の海洋地殻プレート内地震に比べ3倍の規模を持つ理由や、プレート拡大年代、トランスフォーム断層との位置関係などにおいてテクトニックな発生メカニズムには判らない点も多いとした。但し、氷床質量から500 kmは離れているのでGIAが理由とは考えにくいとした。

1999年になると、相次いで2編の論文がGRLに掲載された。Nettles et al. (1999)は、プレート構造との関係を調べ、以下の結論を導いた。地震発生場所は35-55 myの海洋性地殻内で、余震の発生パターンから、断層はいくつかの横ずれ断層群から成り、最終的な破壊長さは約300 kmに達した。破壊の進行方向は化石化したfracture zoneの走向(南北方向)とほぼ直交している。本震でのモーメント解放は2つのsub-eventからなり、最初のsub-eventは断層東端の破壊開始点にあり、第2のsub-eventはその西220-280 kmで起きた。その2つのsub-eventの時間差は~65 sである。そして両sub-eventのS波の相対振幅から発振機構は相対的に約10˚回転していたとした。一方、Kuge et al. (1999)は長周期表面波の解析から、モーメントテンソルのnon-double-couple成分が強いことを示している。また、遠地P及びSH波の波形から、複数のstrike-slipを示す波群が明瞭である、としている。そこで、彼らは2つの異なるepisodeから成る複合破壊モデルを提案し、最初は梯形状の2つの横ずれ破壊(~16 x 1020 Nm)が起き、その後に約100 sの継続時間を持つ正断層型破壊(~4 x 1020 Nm)が起きたとすれば、観測された大きなnon-double-couple成分が説明可能としている。いずれの解析結果も、この地震がひとつの単純な断層モデルでは表現できないことを示している。



3. 南極大陸内の奇妙な地震

1998年3月25日に南極プレート内の海洋地殻で起きた地震は、2章に見たように、単純な断層破壊では説明できない奇妙な起こり方をしていた。それでは、南極大陸内の地震活動はどうなっているのであろうか?

Table 1は68˚S以南に震源のある地震リスト(1948-2012年)である。上段はInternational Seismological Centre (ISC, UK)のカタログに記載されている地震で、mb > 4.0であれば大抵の場合、Nstaの数が示すように~10以上の観測点で記録されていて、震源決定精度もO-C残差のrms < 2 sが示すように、決して悪くない。しかし、観測点が大陸沿岸にまばらにしかなので、震源深さを精度よく決めることが難しく、大抵の場合は、0 km, 10 km, 33 kmなどに固定されていて(0.0f, 10.0f, 33.0fなどと表示)、従って、求められた緯度(Lat)、経度(Lon)にも誤差が見込まれる。しかし、誤差は数十kmになったとしても100 km (約1˚) にはならないであろう。

Table 1. 68˚S以南で起きた地震。Column 1は番号、column 2は発生年月日、 column 3は発震時刻(UT)、column 4は発震時刻の誤差、column 5と6は震央位置(緯度、経度)、column 7は深さ(fは予め深さを固定したことを示す)、column 8は観測した点の数、column 9は震源を決定した機関、column 10は実体波マグニチュードで( )内は決めるのに用いられた観測点(振幅)の数。ISC on-line bulletinからhttp://www.isc.ac.uk/sgi-bin/web-db-v4?request...としてdownload保存した。
 

Date

Time

rms (s)

Lat (˚)

Lon  (˚)

 

Depth (km)

Nsta

 

Author

mb

1

 

1968/04/29

09:03:48.3

-

-68.19

122.40

 

33.0

-

 

ISC

4.9

2

 

1974/10/15

07:31:42.9

1.68

-70.55

161.30

 

33.0f

21

 

ISC

3

 

1980/05/17

08:42:37.8

1.11

-71.45

-104.91

 

10.0f

61

 

ISC

4.9(5)

4*

 

1982/11/04

00:14:19.3

2.33

-80.79

36.86

 

0.0f

9

 

ISC

4.5(3)

5

 

1983/09/20

03:27:15.4

-

-68.87

122.12

 

0.0

-

 

ISC

4.4

6

 

1984/06/15

04:18:57.9

-

-68.66

-111.96

 

10.0

-

 

ISC

5.1

7

 

1989/10/10

06:04:45.3

0.88

-70.35

-115.01

 

10.0

91

 

ISC

5.4(8)

8

 

1993/05/31

08:34:22.7

1.1

-72.46

174.80

 

10.0f

227

 

ISC

5.1(26)

9

 

1995/01/12

04:26:03.8

0.73

-82.04

-44.10

 

10.0f

14

 

ISC

4.4(5)

10

 

1995/03/31

03:32:44.5

0.58

-70.80

167.44

 

10.0f

19

 

ISC

4.3(4)

11

 

1996/01/16

15:58:18.0

1.61

-81.22

158.46

 

10.0f

18

 

ISC

4.0(4)

12

 

1996/01/28

04:55:32.1

0.48

-73.73

109.66

 

0.0f

5

 

ISC

3.9(1)

13

 

1996/03/06

08:33:53.2

-

-69.42

-110.27

 

10.0

-

 

ISC

5.1

14

 

1997/01/18

05:01:32.6

0.46

-71.32

-95.82

 

29.7f

18

 

ISC

4.2(8)

15

 

1997/05/20

16:46:56.0

1.52

-73.74

167.70

 

10.0f

12

 

ISC

4.0(6)

16

 

1997/12/25

22:13:07.1

0.19

-71.16

-22.82

 

33.0f

9

 

ISC

3.9(3)

17

 

1998/03/25

03:46:28.1

-

-71.74

160.70

 

0.0

4

 

EIDC

4.2(2)

18

 

1998/03/26

03:21:02.4

-

-69.56

149.85

 

0.0

-

 

EIDC

3.4

19

 

2000/01/12

14:08:08.9

-

-68.99

164.43

 

33.0

-

 

ISC

4.4

20

 

2001/03/11

23:54:55.8

-

-68.48

150.70

 

0.0

-

 

IDC

3.7

21

 

2002/03/20

22:40:03.8

0.7

-74.02

-46.81

 

10.0f

15

 

ISC

4.0(6)

22

 

2003/03/26

05:44:51.1

-

-68.84

167.47

 

0.0

-

 

IDC

3.9

23

 

2003/10/21

07:15:59.6

1.11

-83.86

133.04

 

26.4

32

 

ISC

4.2(8)

24

 

2004/08/04

06:58:42.6

-

-69.73

-169.31

 

10.0

-

 

IDC

4

25

 

2005/10/11

01:10:44.1

-

-68.24

164.06

 

10.0

-

 

ISC

4.6

26

 

2007/03/31

13:44:12.2

1.19

-70.85

170.56

 

10.0f

10

 

ISC

3.6(2)

27

 

2007/05/19

14:22:21.1

0.93

-71.71

-116.39

 

10.0f

79

 

ISC

4.3(14)

28

 

2008/01/25

13:13:01.1

0.76

-72.00

163.88

 

0.0f

-

 

IDC

3.3(2)

29

 

2008/04/03

04:04:27.7

0.54

-73.46

-136.25

 

16.9

49

 

ISC

4.5(4)

30

 

2010/06/01

01:56:48.1

1.46

-80.79

158.72

 

10.0f

17

 

ISC

4.2(5)

31

 

2011/08/19

03:02:57.2

1.21

-71.74

167.50

 

10.0f

20

 

ISC

4.1(6)

32

 

2011/11/21

17:24:44.6

1.88

-84.23

134.32

 

10.0f

11

 

ISC

3.9(5)

33

 

2012/01/13

13:44:35.0

1.34

-77.41

-148.91

 

10.0f

22

 

ISC

4.5(9)

34

 

2012/01/13

14:27:13.4

1.74

-77.22

-148.84

 

10.0f

72

 

ISC

4.6(14)

35

 

2012/06/01

05:07:01.6

1.45

-77.19

-148.87

 

7.8

1013

 

ISC

5.5(59)

36

 

2012/06/01

20:15:51.8

1.47

-76.86

-150.38

 

10.0f

20

 

ISC

4.2(8)

37

 

2012/08/03

06:06:09.9

1.06

-76.31

164.07

 

10.0f

-

 

NEIC

5.1(18)

                         

K*

 

1968/6/26

18:20:53

-79.56

20.33

 

1.0

3

4.3

A

 

2010/11/24

17:14:43.0

-77.74

47.29

 

AWI

B

 

2010/12/12

05:42:20.5

-

71.74

12.38

-

 

AWI

-

C

 

2012/05/07

03:25:45.0

-

-68.88

9.99

-

 

AWI

-

D

 

2012/07/04

02:26:28.2

-

-73.83

49.30

-

 

AWI

E

 

2012/08/21

09:26:02.3

0.85

-84.42

41.48

 

7.0

-

 

NEIC

4.4(6)

F

 

2012/11/25

10:46:53.0

-

-73.98

32.57

-

 

AWI

-

G

 

2012/12/20

01:09:07.1

-

-69.82

34.59

-

 

AWI

-

H

 

2012/12/29

04:42:03.8

-

-68.10

9.31

-

 

AWI

-

                         

4*

Adams, R.D., Hughes, A.A., Zhang, A.A., 1985. A confirmed earthquake in continental

Antarctica. Geophys. J.R. astr. Soc., 81, 489-492.

K*

Kaminuma, K., 1976. Seismicity in Antarctica. J. Phys. Earth, 24, 381-395.

                         

ISC: International Seismological Centre, UK
IDC: International Data Center, CTBTO, Austria
LAO: Large Aperture Seismic Array, USA
NEIC: National Earthquake Information Center, USGS, USA
EIDC: Experimental (GSETT3) International Data Center, USA
AWI: Alfred Wegener Institute for Polar and Marine Research, Germany


上段の37個のeventにはIDCやNEIC、EIDCにより決定された震源も含まれている。 今後、ISCによる再決定でカタログ値との間で差異がでるかもしれないが、event自体が取り消されることはない。Fig. 1の数字(白色)はTable 1に記載されたeventの発生場所をBedmap 2 (Fretwell et al., 2013)の基盤地形図上に示したものである。大陸内の地震活動は確かに低いが、その中にあって、南極横断山地の南部Cape Adea付近に震源が集中しているのが目を引く。

von Frese et al. (2009)は、GRACE 重力図にはWilkes Land(Fig. 1のWL)に正異常の目玉(Fig. 1の白い点線が示す円の中心部にある黄色のハッチの領域)があり、それは直径600 kmに及ぶ隕石のクレーターが示すmass concentration の領域(衝突の衝撃で地殻が吹き飛ばされ、下から重たいマントル物質が上昇・貫入した)であるとした。1998年3月25日の大地震含め地震活動が、violetで示す負の重力異常域の縁に集中するという特徴は注目に値する。この隕石衝突は250 my(2億5千万年前)でGondwana大陸分裂の契機になったと言われ、当然ながら先に述べた海洋プレート生成年代(33-35 my)より古い。予め巨大single forceによる円環状のpre-stress場が与えられ、その影響が残っている地域に海洋底拡大したため、thermal stressのかかり方も複雑で、奇妙な破壊の様式になったのだとも解釈できる。このmass conはいずれ周辺質量とのやりとり・移動を通して緩和して行く性質のものであるから、奇妙な発振機構の巨大地震が再度起こる可能性もある。

4*はDronning Maud Land (DML)の奥地で発生したmb = 4.5の地震で、Adams et al. (1985)に記載がある。彼らの論文では南極大陸の5点で観測されたとしているが、ISCでは9点で震原再決定している。Adams et al. (1985)は、これが、南極大陸内部に初めて震原決定された地震であると主張している。それ以前にも決められたeventが無いわけではないが、それらは火山(Mt. Erebus, Mt. Melbourneが有名)性であったり、氷床の動きに関係したりもの(氷河性地震,Glacial Earthquake)であると主張し、tectonicな地震が観測されたのはこれが初めてという訳である。

この地震の約30年後の2012年、4*に近いEの場所(誤差を考えると同じ場所かもしれない)でmb = 4.4の地震が起きた(Table 1)。この地震はNeumayer基地(NEU)で検震され、AWIが記載したものであるが、昭和基地(SYO)でも記録されている(Fig. 3)。SYOまで約1700 kmの距離があるが、浅い震源で約2-3 km厚の氷層内での多重反射(例えばToyokuni et al., 2015)を示す5分近い後続波が特徴的である。これら地震の発生原因はよくは判らない。Mb = 4クラスの地震の再来周期が30年というのは、tectonicな地震としては如何にも長すぎる。しかし、この地域は表面的には起伏のない平坦な雪面であり、氷河地震(Glacial Earthquake)が発生する地理的条件にも適合していない。

note36_図03
Fig. 3. Table 1のevent "E"の昭和基地でのペンモニター記録。 上から up-down, NS, EWの三成分を示す。NS成分に比べEW成分の振幅が小さく着震時刻も明瞭ではない(矢印で示していない)。5秒の重複があるが1ライン1分で、着震時刻は21 Aug. 2012, 09h29m38sである。

Fig. 1には示さないがAdams (1969)は、氷河性地震の発生場所として(75.3˚S-76.2˚S, 160˚E-161˚E)のDavid Glacier, Drygalski Ice Tongueを候補に上げている。1969年1-2月の観測ではVanda基地でのS-P時間として30 sを中心に27個が観測され、決められた震源は9個に及ぶとしている。

近年、温暖化の加速による南極の環境変動を氷河地震の観測から把握しようという機運が高まっている(例えばEckstaller et al., 2006; Kanao and Kaminuma, 2006; Nettles and Ekström, 2010)。Nettles and Ekström (2010)は氷河地震の震源候補(1996-2008に発生)として14個をリストアップしたが、それらは南極半島、Filchner Ice Shelf, 110˚E、150˚Eの棚氷地域に分布している(いずれもmb ~5であるが、ISC Bulletinには記載されていない)。氷河地震の同定は氷河・氷床底面で発生するharmonic tremor, stick slip同定が鍵であるが、確証を得るためにはやはり近傍での地震網観測が欠かせない。

Table 1の下段に示されたAからHの地震のうちA, D, F, Gなど、特にGはNEUよりはSYOの方が近いから、昭和基地でも記録されていて良いはずであるが、それらしい着震記録はない。B, Cもない。従ってE以外は、本当に地震かどうか極めて疑わしい。

内陸地震として特異なのはKである。このeventはISCでは採用されておらず、Kaminuma (1976)にのみ記載がある。Kaminuma (1976)によるとこの地震はSanae (SNA), South Pole (SPA), Byrd (BYR)の3点を用いて、79.56˚S, 20.33˚W, 1 km below sea levelが震源と決定されている。発震時刻は18h20m52.8s, June 26, 1968である。1 km below sea levelは確実にbasement rockなのでtectonicな地震であるとKaminuma (1976)では主張しているが、もともと決定に用いた観測網の形状が良くないうえに観測点数も少ないので、震源の深さ精度についての保障はない(観測点数が少ない時、Table 1のように0, 1, 33 kmなどと予め震源深さを与えてしまうのが一般的である)。ただし、この場所はFilchner Ice Shelfの東、Shackleton Rangeの北端に位置し、Slessor Glacier下の断層帯という地質的に活発な地域であるという指摘は正しい。

Slessor GlacierについてはSAR解析により、氷床表面地形の変化が明瞭に捉えられている(Koike et al., 2012)。Theron Mountains (Fig. 4a; 78.7˚S-79.2˚S, 17˚W-19.5˚W)を囲む顕著なoval featureの西側には、散乱強度画像からとても目立つクレバス帯であることがわかるが、その筋状構造は1997年1月と2000年3月の間に拡大・生成したりbridgeが発達したり、大きく変化している(Fig. 4b, c)。このように顕著な表面地形の変動は時間的には急激に起きたであろうからGlacial Earthquakeを伴ったとしてもおかしくはない。一方複雑な氷床下地形はtectonicな地震を伴う活動を予感させる。Eventの素状について確証を得るためにはやはり近傍での地震網観測が必要である。

note36_図04
Fig. 4. (a) Coats Land Slessor Glacierの上流にあるTheron Mountains (78.7˚S- 79.2˚S, 17˚W-19.5˚W)にはSAR散乱強度がoval状にとても強い所がある。InSAR解析から作成したDEMに重ねると台地(暖色系が高く寒色系は低い)の縁に発達している。そのovalの西側(図の左側)には羽毛状の散乱強度の強い場所があり、拡大すると右図(b)になる。(b)左下:1997年1月31日のSAR強度画像、右下: 2000年3月14日のSAR強度画像、黄色の囲み部分を拡大すると(上図)、1997年に比べ、青いバンドで示したように散乱が強まったり(新たなクレバス帯が発生したり)、新たなブリッジ(クレバス帯をつなぐクレバス)ができたことがわかる。詳細はKoike et al. (2012)を参照。

Table 1の2の地震についてはKaminuma (1976)にも記載がある。NOAA(おそらくNEIC)の震源決定によると、発震時刻15 October, 1974, 07h31m42.0±0.48 s, 緯度70.518˚S±7.3 km, 経度161.538˚E±10.8 km、深さ33 km (fix), mb = 4.9とのことであった。



4. 昭和基地近傍の奇妙な地震

1980年9月26日から27日にかけて、昭和基地地震計に約600個のevent(後に示すように氷崖崩落が引き起こした氷震と思われる)が記録された。そのペン書きモニター記録(上下動)をFig. 5(a)-(b)に示す。

note36_図05
note36_図06
Fig. 5a, b. Sep. 26, 1980, 1600UTから4時間分  (Fig. 5a及び5b合わせて)のSYO上下動ペンモニター記録 。1ライン1分で1頁分の2ブロックに各々60本のトレースが含まれ、1ラインは5秒のoverlapを含め左右30秒づつに分かれている。16h52m頃突然5分以上続く短周期振動が始まり、それが治まった後、S-P時間3 sの余震らしきeventが約2日続いた。ここに掲げたペンモニター記録は4時間分であるが、収束するまでの約48頁分に同一場所が震源と思われるeventが記録されている。

この一連の氷震は約6分間の振動継続時間を持つ本震(9月26日16h52m頃発生)の余震と思われる。1点観測なので正確な震源は決められないが推測できないわけではない。目立つのはFig. 3同様、長い後続波が続くことで、しかし、短周期成分が卓越しスペクトルも単純なことである。余震のS-P時間 (ts-p)がいずれも~3秒なので、SYOまでの距離Lについて

L = Vs (ts-p)/ (Vp – Vs)              (1)

が成り立つ。この地域で標準的なVp = 6.0 km/s, Vs = 3.5 km/sを代入するとL ~ 25 kmとなる。Fig. 6のように候補地はSYOを中心とする半径20~30 kmの円環内であると思われるが、島などがなく起伏の小さい均一な媒質を通ってくるので後続波の振幅がなかなか減衰しないという条件として、海氷で覆われたオングル海峡(水深は約300 – 500 m)が経路と考えるのが尤もらしい。Fig. 6のFlattungaあるいはLanghovde Glacierが候補と挙げられるが、状況的にはFlattungaの氷崖が崩落したのではないかと想像される。

note36_図07
Fig. 6. 想定される群発氷震の発生域。昭和基地地震計までのS-P時間から考えて距離~20-30 kmという条件で探すとFlattungaとラングホブデ氷河が候補に挙がる(///の斜線部)が、Flattungaの方が尤もらしい。SYO, TOT, LANは赤松(1988)によるテレメータ地震観測点(Fig. 5の地震観測時にはまだ設置されていない)で、この時の観測から、たま氷河付近(Flattungaの東方約20 km)と、SYO北西50 kmにも震源があることが判っている。

実はLützow-Holm Bayにおいても微小地震活動があり、SYO(昭和基地)、 TOT(とっつき岬)、 LAN(ラングホブデ)の3点テレメーター地震観測で赤松(1988)が震源を求めている。その震源はSYOの北西~50 kmの白瀬氷河延長上の海底峡谷でS-P時間は4.7 sと長く、議論しているeventの条件に合わない。ほかには”たま氷河”にもeventがあるが、これもSYOから~40 kmで遠い。

Fig. 5に見られるように、余震は振幅と振動継続時間の特徴から2つのグループに分けられる。Group I は継続時間が長く(50 – 200 s)かつ振幅が小さく(100 μkine pp以下)、明瞭な相が見られない。Group II は継続時間が短く(50 s以下)、自然地震同様P, Sと考えられる相を持ち、最大振幅は10 mkine ppである。

一般に自然地震の余震活動は改良大森公式(Utsu, 1961; Utsu, 1984)

              n(t) = K/ (t + c)p                                           (2)

に従う(K, c、pは定数)。tを日で数えると1.0 ~ 1.4の範囲内のあるpの値で減少して行くが、Group IIのeventについて同様の減少公式を適用した場合、tを時間で数えるとp = 1.3となることが判った(Fig. 7a)。このように、氷震余震発生数は本震の規模が小さいため、自然地震に比べ発生数も少なく、治まり方も早いが、破壊様式そのものには相似則が成り立つようである。

Fig. 7bに50 Hzサンプリング(南極地球物理学ノートNo. 24:昭和基地地震計が検知した南アフリカが行った核実験,を参照)のデジタル記録による波形例を示す。特徴的なのは類似距離で起きた類似継続時間を持つ微小地震に比べ卓越周波数が3-5 Hzと低いことである。この相違は経路の伝播特性の差というよりむしろ、自然地震に比べ破壊の立ち上がり時間がゆっくりしているという氷の媒質特性に起因した震源関数の相違を反映していると思われる。

note36_図08
 Fig. 7(a). 一連のevent個数を発生日時に従いプロットすると下図になり、main eventからの時間に従ってプロット(上図)すると(2)式のp = 1.3で発生頻度は減少して行く。

note36_図09
Fig. 7(b). 氷震余震と思われるeventの50 Hz samplingデジタル記録の例。自然微小地震の卓越振動数~10 Hzに比べ、これらeventの卓越振動数は3-5 Hzであった。NS成分はHESセンサーの故障により記録が得られなかった。

さて、このような氷崖崩落による氷震がどの程度頻発するかに興味がわくが、私がSYOのペンモニター記録で見た限り、1980~2000年で類似のeventが記録されたことはない(2000年以降はチェックしていない)。氷崖の崩落自体は珍しいことではないが、これほど規模が大きく顕著なのは特異な例と言えそうである。



参考文献

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largest ever detected. EOS Trans. AGU, 79(30), 353-354.

リスボン地震:http://ja.wikipedia.org/wikiからキーワード「リスボン地震」により2015年1月15日の
最終更新版を2015年1月28日downloadした。



Q and A

Q1: 「奇妙な」の意味が今ひとつ判りません。
A1: 英語で言うと、mysterious, abnormal, peculiarではなくinterestingかもしれません。
地震が起きたことに疑いはないが、何故・そこでとなると、我々が知らない点が多いという意味で奇妙と表現しています。


Q2: 「奇妙な」Glacial Earthquakeはないのですか?
A2: 氷河地震自体が最近注目を集めているeventなので、発生条件・機構・場所に確立した考え方があるわけではありません。何が「奇妙か」まだ判らないと言えます。

Q3: ひとつひとつの地震を取っても、どう解釈すべきかとまどう例ばかりですが、解決の糸口はあるのでしょうか?
A3: Field scienceでは、観測自体が偶然の産物であることも多く、手持ちのデータですべてが理解できるわけではありません。再現を狙った観測を効率よく実施できるかどうかも、不透明(特に最近のcost-performanceを求める時代においては)です。ただ、はっきり言えるのは、観測でいつか原因・結果の因果関係を明らかにして欲しいし、若い学生・研究者にこういうことを念頭に置いて研究して糸口を掴んで欲しいということにつきます。