南極地球物理学ノート No. 32 (2014.08.06)

南極氷床InSAR DEMの作成とレーザー高度計による検証―Breivikaからあすか基地にかけての例

渋谷和雄・山之口勤


Keyword: InSAR DEM、ICESat GLAS、L0ルート地上測量、標高,楕円体高



1. はじめに

氷床地形の把握は南極地球物理観測において基本的な事項であるが、地上測量では得られる測定点数と精度、作業効率の面から限界があることは明らかで、従って航空機・衛星リモートセンシングが活用される。近年では主に、レーザー・レーダー高度計及び合成開口レーダーが利用されている。これら高度計による標高profileがあれば、地上測量profileはなくても良い、という考え方もあるが、レーザー・レーダー高度計が本当に雪面(氷床)表面からの反射波を検知しているのかどうかは、疑問の余地がある。また、合成開口レーダーでは、干渉画像の複数のシーンから地形縞と変動縞を分離し、地形縞を標高に換算するが、この時にはgeo-locationのために参照すべきGCP (Geodetic Control Point) が必須で、対象面積が広いほど、GCPは均等に分布していることが望ましい。そして、精確なGCPは地上測量によってしか得られない。 結局、(1) レーザー高度計profileは地上測量による高度profileで検証され、(2) 干渉合成開口レーダーによる地形モデルはレーザー高度計profileで検証される、という手順が望ましい。

我々は南極地球物理学ノートNo. 30, No. 31で述べた通り、Dronning Maud Landのシール岩にジオイド高観測点を取り付けるのに当り、Breivikaからあすか基地(L121 点)まで1 kmおきの標高測定(精度2 m)を実施した(Fig. 1)。標高差が1000 mあるこの地域(Fig. 1の四角のなか)を対象にして、(1)に続いて(2)の手順を適用し、氷床DEMの総合的な精度を検証した。このノートは、Yamanokuchi, Doi, Shibuya (2010)に基づく検証の概要を述べたものである。

note32_図01
Fig. 1:Breivikaからあすか基地にかけてのテスト地域。S point-Asukaに 至るL-Routeでは南極地球物理学ノートNo. 30で述べたように1 km間隔 で2 m精度の標高profileが得られているので、それをICESat GLASレーザー高度計データの検証に用いる。

地上標高profileの測定は1987年、レーザー高度計観測は2004年に行われたので、その間、16-17年が経過しており、積雪による標高変化を考慮しなければならない。また、標高データは海抜高度が生データであるが、レーザー高度計データの生データは楕円体高度なので、変換が必要である。これらデータに内在する精度の限界を考慮すると、InSAR DEMの精度をいかに規正するのかが目標ではなく、結果として得られるDEMの精度を如何に合理的に見積もるかが、目標となる。



2. InSAR DEM

InSARは氷床接地線 (grounding line: GL) の検出に広く用いられている。InSARで求められたGL (InSAR-GLと呼ぶ) は従来のカタログであるADDの精度を上回る。例えば、ADDでは半島と見なされた15˚Eの地形は、実際には雪を被った島群あるいはice riseであることがInSAR-GLによって示されている(南極地球物理学ノートNo. 7, 8)。InSAR GLは海岸線(氷床接地線)の位置ずれの規正にも役立っている。例えば、ADDのRiiser-Larsenhalvøya  (Fig. 1) は実際より5000 m北東(リュツォ・ホルム湾側)にずれていて、 PaddaやSkallen (Fig. 1) は東に1200 mずれていることがInSAR GLによって明らかになっている。

InSARにより氷床数値地形モデル(digital elevation model :DEM)を作成する試みは1990年代から行われているが、この時、精度検証が必須である。例えばJoughin et al. (1996)はERS-1レーダー高度計で作成したGreenland氷床のDEMについて、航空機レーザー高度計データと比較することで2.5 mの相対精度を得たと述べている。

南極ではLiu et al. (2001)によるRadarsat Antarctic Mapping Project (RAMP) がRadarsatレーダー高度計による200 m x 200 m分解能のDEMを与えたが、の高さ精度は場所により±7.5 mから±100 mと異なっていて、それはground control points (GCPs)の地域的偏り、あるいは疎らな存在を反映している、と説明している。



3. ICESat衛星のレーザー高度計データ

2003年1月に打ち上げられたICESat (Ice, Cloud, and land Elevation Satellite) 衛星はGLAS (Geoscience Laser Altimeter System) と呼ばれるレーザー高度計を搭載していて(Schutz et al., 2005)、ERS-1衛星搭載のレーダー高度計の計測精度(±1 m)より1桁良い高さ分解能・精度(±14 cm, Shuman et al., 2006; Zwally et al., 2003)で氷床地形を計測した。この高い分解能により、GLでの高さの違い(Fricker and Padman, 2006)や氷流の高度変化(Csatho et al., 2005)、氷質量の減少(Rignot et al., 2005)などが検出されている。

南極地球物理学ノートNo. 30で述べたように、Dronning Maud Land L—Route各地点の位置座標はWGS84座標系で与えられていて、海抜高度データの精度は2 mである。GLASレーザー高度計によるfootprintの座標もWGS84座標系で表示されているが、付随する高度データは楕円体高度である。Yamanokuchi et al. (2010)のTable 1, column 2-4でこれらデータの詳細を示したが、このノートのTable 1では10 km間隔の値のみ抜粋して、再掲している。L0 pointのジオイド高が22.3 m、シール岩では21.4 mであること、その間はEGM96 modelによる undulation(Lemoine et al., 1997)のパターンを考慮して、各ルート地点の1987年時の楕円体高へ換算すると、column 5の値が得られた。

Table 1. L—Routeにおける1987年の実測地上高(column 4)から、積雪の圧密と 氷床流動を考慮して、2004年時点での楕円体高度(column 6)を推定した。そして、GLAS内挿高度(column 7)との差(column 8)を求めた。 1 km間隔の全点はデータはYamanokuchi et al. (2010)に示されている。ここでは10 kmおきの抜粋のみ示す。
note32_table1


4. 各ルート地点における17年間の積雪による標高増加推定

4.1 あすか基地における積雪の圧密率測定

降雪時の積雪は厚さを保って積算されるわけではなく、driftによる削剥や、圧密による空隙減少で厚さが薄くなるので、経時変化によるその度合いを求める必要がある。圧密の度合いは場所によって異なるが、L—Routeの各地点はすべて同じ気候区分(カタバ風帯)に属するので、あすか基地での実測値で代表させることにする。

Fig. 2はJARE Data Reports (Fujii et al., 1995; Nishio and Ohmae, 1989; Watanabe et al., 1990) による、あすか基地に越冬隊が滞在していた1987年4月から1991年4月にかけての積雪量変化で、12月末から4月にかけては積雪期、6月末から12月末にかけては昇華・削剥による後退あるいは滞留期という年サイクルが明瞭に見て取れる。その年間積雪量は1988-89, 1989-90年が21-22 cm/yr, 1987-88, 1990-91年が66-76 cm/yrで4年の平均をとれば、1年あたりの積雪量はH = 46.3 cm/yrであった。

note32_図02
Fig. 2: あすか基地での36本雪尺網を用いた積雪量実測年変化。1987年4月から1991年4月までの4年分ある。

一方、もう少し長い時間スケールでの平均積雪率はFig. 3から推定できる。1991年1月14日に撮影されたあすか基地風力計(上図)と、2004年12月1日に撮影された同じ風力計(下図)のpoleの雪面レベルを、風力計の設計図面を基に比較したら、14年間でd = 2.1 m埋まったことがわかった。

note32_図03_1
note32_図03_2
Fig. 3: 1991年1月14日(建設時:上の写真)と2004年12月1日(第45次隊撮影の下の写真)の写真を比較し、1 kW風力発電機の支持ポールが埋まった深さを、設計図面から割り出すと2.1 mであった。

この14年間での積算積雪量はH = 46.3 cm/yr x 14 years = 6.5 mと見なせるから、圧密率(compaction ratio)は

                                           c = d/H = 2.1 m/6.5 m = 0.32                  (1)

であろう。この値がL—Routeの標高プロファイル全域に適用可能として以下の推定を進める。

4.2 L-Route各点での積雪による標高増加推定

L—Routeにおいては先のJARE Data Reportsにより、各点での積雪量測定値が公表されている。Yamanokuchi et al. (2010)のTable 2, column 2-5は各隊次の測定積雪量データをまとめたものであるが、このノートでは10 km間隔の値のみ再掲している。その生データを用いれば各点での1-4年間での積算積雪量がcolumn 6のように求められる(点によって測定のある年、ない年のばらつきがあり( )内の数字で測定のある年数を示している)。すると、積算積雪量を測定年数で割って、平均積雪率 (cm/yr) が column 7のように推定できる。

column 8は上記のようにして求められた平均積雪率を16年間外挿して、2003年時点での値として推定した積算積雪量で、多い所、例えばByrd 氷河の吹き下ろしに位置するL60では1408 cm、少ない所、例えばセールロンダーネ山地の影に位置するL120では432 cmとなっている。しかし、降雪が堆積してもdriftで削剥され、圧密による(1)式に従って積雪の厚みが減少してcolumn 9のように1.4-4.5 mになると考えられる。

Table 2. JARE Data Reportsに示された各年の積雪量実測データをもとに16年間での氷床高度増加量(column 10)を推定した。1 km間隔の全点データはYamanokuchi et al. (2010)に示されている。ここでは10 kmおきの抜粋のみ示す。
note32_table2

4.3 氷床流動による高度低下

氷床表面高度変化に影響するもうひとつの要素は氷床流動による高度低下である。regional scaleとしてL121とL13間の氷床傾きtan αは、Table 1では両者の標高値は省略されているが、

   tan α = (956.0 - 240.0)m /  (121 - 13)km ~ 6.6 x 10-3           (2)

であり、L—Routeでの v = 10 m/yrという典型的な氷床流動速度に対してt = 16年間での表面低下D

   D = v t tan α = 10 m/yr x 16 yrs x 6.6 x 10-3  ~1 m                   (3)

である。実際には位置座標もほぼ緯度方向・下流(北側)に160 m移動することになるが、これは無視して、(3)式による一律1 mの表面低下のみを考慮した後の各点での表面高度増加は、最終的にはcolumn 10で与えられることになる。


4.4 地上測量に基づく2003年時点での楕円体高度profile

0˚-30˚E地域の積雪量については、Wingham et al. (1998)が氷換算(0.917 g cm-3)平均降水量として10 cm/yrという値を求めている。これは密度0.35 g cm-3の雪に換算すると10 cm/yr x 0.917/0.35 = 26.2 cm/yrとなるが、我々のテスト地域はWingham et al. (1998)が示した地域(原論文ではA―A’と示されている)より沿岸に位置しているのでfactorで1-3倍となる27-88 cm (column 7) の推定値は妥当と言える。

以上より、Table 2のcolumn 10で求められた増加量をTable 1の楕円体高度(column 5)に加えれば、column 6に示される2003年時(GLAS観測時)に対応した、実測に基づく楕円体高度profileが求められたことになる。積雪量は2 kmおきの測定であるが、奇数のRoute番号に対応する高度は両隣の偶数地点のデータを補間して求めれば、1 km間隔の全ルート地点において約2 m精度の地上検証高度profileが求められたことになる。



5. 地上測量標高profileとGLAS/ICESat標高profileの比較

Fig. 4はテスト地域におけるGLASのground footprint (1から10まで番号を振った緑及び赤線)で、2004年のlaser code 2b, 2c, 3aという観測に対応している(具体的な観測期間の詳細はここでは省く)。地上測量標高profile(Fig. 4の黄色い線)はGLAS ground footprintとは斜向しているのでpoint dataとして両者の標高値を比較するのは困難である。line 2, 8, 10は黄色い線と交わっているので、試みに、交点近傍の位置に対応するGLAS pointの高度平均値で地上測量に対応する地点のGLAS高度を得ようとしたが、計算の結果、近傍点の選び方で結果がばらつき、誤差も大きかったので、この方法は諦めた。

note32_図04
Fig. 4: SAR散乱画像にGLAS profile (緑線)を重ね合わせた。赤い部分は氷床流動による変動が大きく、両者のmatchingが悪い。取得された画像はRange-azimuth系で記述されるが、極正射影(x-y)系に対して35°左回りに回転している。黄色い点の集合で示される測線はJARE-28が行った海抜高度測定profileである(青線は海岸線)。DiMarzio et al. (2007)のGLAS/ICESat 500 m DEM gridsは示していない。

そこで、DiMarzio et al. (2007)のGLAS/ICESat 500 m Laser Altimetry Digital Elevation Model (Data Set ID: NSIDC-0304)をNational Snow and Ice Data Center (NSIDC)からdownloadして比較に用いることにした。

GLASの生データ(ポイント値)は70 mのfootprint (spotと呼ぶ)を持ち、軌道下での隣り合うspotのsampling間隔は170 mである。隣り合う軌道間隔は80˚Sで標準的に2500 mで、低緯度に向かうほど疎で精度も落ちてくる。DiMarzio et al. (2007)は、二方向の二次曲面で各grid pointを取り囲む面(capと呼ぶ)を近似的に現している。そしてGLAS grid heightは面に含まれる各spotについて、spotとgrid node中央間の距離の二乗に逆比例する「重み」を持たせた高さの平均で示している。南極でのcap sizeは2 km~20 kmとのことである。

このようにして与えられている500 m DEM gridsについて、地上測量点から2 km以内の距離にあるGLAS grid pointでの高さの二方向二次曲面補間で求めた重み付き平均を、「地上測量点に対応したGLAS高度」と定義した。そのようにして得られた楕円体高度をTable1, column 7に示してある。注目するのはcolumn 6高さとcolumn 7高さの一致度である。

Table 1 column 8はcolumn 7 - column 6である。Fig. 5には横軸をL Number (約1 km間隔のルート地点)にとって、縦軸に測量楕円体高(column 6: 赤四角印)、内挿により得られたGLAS楕円体高(column 7: 青四角印)を表示した(スケールは左縦軸)。column 8で示した「差」に相当する値が緑△印(スケールは右縦軸)でプロットしてある。

Fig. 5からcolumn 8で示される差は、L2からL13 (190-240 m高度) において大きな(~-100 mに及ぶ)負の値、L14からL37 (240-280 m高度)においては緩やかな正の値(13-18 m)、L38からあすか基地(L121)にかけては±20 m幅内で変動する値であることがわかる。
<300 mの低い高度に応じたL2-L37間では高度差の標準偏差は±44.2 mで、300-1000 mの高い高度に応じたL38-L121間では±12.4 m、profile全体(L2-L121)では±26.3 mであった。

note32_図05
 Fig. 5: 地上検証L-RouteにおけるGLAS楕円体高(青い四角)と地上測量による楕円体高(赤い菱形)の比較、スケールは左側の縦軸。両高度データの差を緑三角(スケールは右の縦軸)で示している。


6. InSAR DEMの生成

Fig. 6はInSAR DEM生成の流れである。使用したデータはテスト地域をカバーする1996年5月21-22日のERS-1/-2 タンデムペアである。ペアの基線長Bpが37 mと短いことから、変動縞成分が大きいことが予想されるが、他に適当なペアがないことから良しとした。

note32_図06
 Fig. 6: InSAR DEMの生成と、GLAS/ICESat高度に準拠して誤差を逐次近似的に最小化するプロセス。Step 1からstep 5まである。詳細は本文参照。

このペアから、interferogramを作成し、Gamma Interferometric SAR processor (Gamma Remote Sensing, 2007)を用いてphase unwrappingを施した。その結果得られたinterferogramをFig. 6に示す。ここでは、変動縞成分は無視し、得られたinterferogramは地形縞だけから成り立っているものと見なしている(ここまでstep 1)。

note32_図07
Fig. 7: Phase-unwrapping後の干渉画像。Fig. 4に対応した地域である。

このinterferogramから作られるDEMはSAR range-azimuth系での座標を持ち、fore-shorteningやlayover (例えばHansen, 2001)による歪みが含まれている。そこで、次のステップとして、直交正射影投影したDEM (ortho-rectified DEM) とERS-1のSAR強度画像を作成した(step 2)。

GL検出の時と同様(Yamanokuchi et al., 2005)、RAMP image (Liu et al., 2001)を参照することにする。何故なら、RAMPは分解能が125 mと粗いがWGS84系に正射影投影されていて、画像の位置合わせが容易だからである。このRAMP imageを,71˚Sを基準とした極直交正射影系ー(x, y)系に変換した。InSAR DEM画像でも検知できる特徴的な地形をGCPとして最低7点(本テスト画像では9点)選び、それをSAR強度画像と対応付け、さらにRAMPimageと位置合わせすることでInSAR DEMの各画素(50 m分解能)にWGS84座標を付与することができる。画素の位置はgrid point番号iを指定すれば決めることができる(step 3)。

GLAS/ICESatデータはa = 6378136.30 m, f = 298.257の楕円体上で与えられているので、WGS84楕円体上の高さGi (xi, yi)に変換した。iを指定すればGi (xi, yi)と同一のgrid点に対応したInSAR DEM高さSi (xi, yi)を選ぶことができる。従ってInSAR DEMの高さ誤差は

     Ži (xi, yi) = Si (xi, yi) - Gi (xi, yi)                  (4)

で表現することができる(step 4)。

ここで,Ži (xi, yi)を6個の係数a-fを用いたbi-cubic関数

          q (x, y) = ax2 + bx + cxy + dy + ey2 + f               (5)

の形で表すことができると仮定する。この仮定の妥当性を検証することは実際上難しいが(Yamanokuchi et al., 2010では若干の議論を行っている)、この地域は南北方向に傾斜する度合い(100 kmで1000 mの高度低下)に比べ、東西方向のundulationが1-1.5桁小さいので、(5)式による誤差表現は、無理のない仮定と言える。

(5)式で係数の最適値a0-f0

   Vdif = Σ[Ži (xi, yi) -q (xi, yi)]2 = min            (6)

の条件で求めることができる。こうして得られたa0-f0 を用いれば、InSAR DEMの最適grid解は

   NSi (xi, yi) = Si (xi, yi) -q0 (xi, yi)               (7)

但し、

q0 (xi, yi)  = a0 xi2 + b0 xi + c0 xiyi + d0 yi + e0 yi2 + f0    (8)

 である(step 5)。



7. InSAR DEM高度とGLAS高度の比較

Fig. 8はInSAR DEM 高度をFig. 4のGLAS profile 番号2-10に対して重ねたものである。図の上段にprofileごとの向き(南側をS, 北側をN)を表示している。赤い丸がGLAS、濃い青い丸がInSARデータである。

Fig. 4のprofile 1やprofile 3, 7, 9の赤い線分ではInSAR DEM高度の傾向がGLAS高度の傾向と整合していないことが目を引く(氷床の上流側ではInSAR DEM高度がGLAS高度より高く、500-600 m高度の交点より下流側では逆転している)。これらの部分は海岸線に近く、氷床流動が速い(変動成分が大きい)ので、DEM成分の歪みを大きくしているのであろう。

note32_図08
Fig. 8: InSAR DEM高度profile(濃い青線)とGLAS 地上高profile(ピンク線) の比較。上部の番号はFig. 4の番号の測線に対応していることを示す。Sは測線の南端(下流端)、Nは北端(上流端)であることを示す。詳細は本文参照。

Fig. 8でInDAR DEM高度(濃い青丸)とGLAS高度(赤い丸)のずれは200 mから400 mに及んでいる(平均offsetは284 mで、いつでもInSAR DEMが高い)。何故、このように大きなbiasが生じているかの明確な理由は私には良く判らないが、南極の海陸遷移域では、衛星軌道(高度)を決めるsatellite dynamicsが衛星毎に一律同じでないことを反映しているのかもしれない。このbiasを除いたInSAR DEM高度(薄い水色)のGLAS高度からのずれは±85.4 mである。

InSAR DEM高度のGLAS高度への最適fittingは、(6)―(8)式で両高度の二乗平均を最小化する逐次近似ステップを繰り返すことで実現する。今の場合、3回後にはrms残差の改善効果がなくなり、最終fittingに到達した。個々のステップでのa-fの値を記述することは重要でないので省くが、rms誤差は±31.1 m, ±24.8 m, ±24.8 mという経過で収束した。Profile 2―10で最終的に得られるmisfitの傾向に系統性は見られなかった。

Fig. 9はGLASで補正し収束したInSAR DEM高度とJARE-28の地上測量高度を比較したものである。濃い青の三角がL—Routeに沿ったオリジナルのInSAR DEM高度で、黄色い三角がGLASを用いて補正したInSAR DEM高度を示している。地上測量高度(赤い三角)に比べ、補正後のInSAR DEM高度は、L2-L37の部分では~84 mというbiasが残ったが、 L38-L121については±22.3 mの誤差まで一致度が上がったことがわかる。

note32_図09
 Fig. 9: InSAR DEM高度と地上測量高度の比較。GLASを用いた逐次近似以前(濃い青色の三角)に比べ、逐次近似後(黄色の三角)は標高は実測地上高(赤い三角)に近づいた。しかし、300 mより低高度側では氷床流動成分による歪みの影響もあって、~80 mのbiasが 残った。上流側での最終的な一致度は±22.3 mである。


8. 議論


8.1 最終的なINSAR DEM gridsの水平誤差

得られたInSAR DEM gridsの水平誤差として以下3つの要因が考えられる。(1)InSAR実施時の画素の位置合わせの不確かさとして±2 pixel分、すなわち±100 m。(2)RAMP imageに内在する、絶対位置の±200 mの不確かさ。(3)InSAR dataに内在するforeshorteningに起因する誤差で、合わせるとoffset biasと高次のundulationからなる。このうち、constant offsetは(1)の幾何学的補正項に吸収されるが、(3)の高次のundulationに関係した誤差δHは(1)、(2)とは独立で、次式で表される。

         δH =δV/tanθ                          (9)

ここで、δVは最終的な高さ誤差±24.8 m, ERS SARの場合θ = 23°なので、これらの値を(9)式右辺に代入して、δH =±58.3 mとなった。従って最終的な誤差δInSAR DEM

         δInSAR DEM = ±(1002 + 2002 + 58.32) ~±230 m         (10)

である。


8.2 King Edward VII 半島における同種の研究との比較

Baek et al. (2005)は、King Edward VII 半島 (76.5˚-77.5˚S, 153˚-156˚W)において同様の検証を行った。彼ら(Baek2005と表記する)は4パスのdifferential ERS-1/-2 InSAR手法を適用してbaseline vectorを正確に定めた(地形・変動fringeを分離し、DEM誤差をできるだけ小さくした)。用いたGLAS profile データのrms高さ誤差は5 cmで、footprintの水平誤差は± 10 mであったという。Baek2005は両データセットの最終的な不一致度として±6 mという数字をあげている(このノートに示す研究例の±24.8 mよりfactorで4倍良い)。この理由としては、我々の場合1ペアしかなく、baseline vectorの決定精度がBaek2005より劣ること、Baek2005の場合、対象域の高低差が200 mと平坦なのでGLAS spot測定値が安定していること、が挙げられよう。


8.3 C-bandレーダー波は雪にどれくらいもぐるか?

この問題に関して参考になる研究例はRignot et al. (2001)以外、見当たらない。彼らはin situ measurementsの多くの例を調べ、laserは雪面/氷面高度を測るが、レーダー(SAR)は「penetrate: 潜る」と述べている。ERS-1/-2 C-bandでexposed iceの場合、潜る深度は1-2 mだが、dry, cold firnだと10 mになるとのことである。また、雪の場合、湿り気(wetness)や圧密の度合いによっては、数十mに及ぶと述べている。この点はさらなる検討を要する課題である。

「潜る、潜らない」とは別に、InSAR DEMとGLAS DEMの高さoffsetは気になる点である。

比較的平坦なBaek2005のテスト域でもInSAR DEM profile高度はGLAS高度より系統的に20-50 m低く、検証前にoffsetとして除去したという。我々の場合、bias除去しても低標高域(0-300 m)ではInSAR DEM高度はGLAS高度より系統的に低く、高標高域(300-1000 m)では逆センスの傾向が残った。InSAR DEM高度を逐次近似でGLAS DEMに合わせる過程で、このbias trendは緩和されたが、それでも長波長の不一致が残った。この不一致(±24.8 m)はradar波が潜る一般的な値、10 mの約2倍あり、何が原因なのか不明瞭な点がある。


8.4 まとめと今後への応用

InSAR DEMは南極氷床域の地形を、地上標高profileで検証されたGLAS高度profile(±12.4 m)に合わせ込むことで、±24.8 m精度が実現できることがわかった。その最終DEMによる氷床図(Fig. 10)自体は変哲もないが、もし、毎年のDEMが作れれば、検証(精度評価)を経た、積雪の年々変化図がデジタル図として容易に作れることになる。その積雪質量変化は昭和基地で運用されているSGにsignalとして現れるであろうから、両者の並行観測は極域での環境変動把握に威力を発揮するはずである。

note32_図10
Fig. 10:  海岸側から内陸側を見たテスト地域の鳥瞰図。緑色の線はGLAS profile。 黄色のdotsはJARE-28による地上測量profile。赤丸囲いの地域は氷床流動量が大きく、InSAR DEM grid高度の誤差が大きいと思われる。


謝辞

用いたERS-1/2 SARデータはJARE-37が昭和基地で受信し、JAXA/EOCが処理し、JAXA/NIPRの協定に基づき提供を受けたものである。



参考文献

Baek, S., Kwoun, O.-I., Braun, A., Lu, Z., Shum, C.K., 2005. Digital elevation model of King
Edward VII Peninsula, West Antarctica, from SAR interferometry and ICESat laser
altimetry. IEEE Geosci. Remote Sens. Lett., 2(4), 413-417.

Csatho, B., Ahn, Y., Yoon, T., van der Veen, C.J., Vogel, S., Hamilton, G., Morse, D., Smith,
B., Spikes, V.B., 2005. ICESat measurements reveal complex pattern of elevation
changes on Siple Coast ice streams, Antarctica. Geophys. Res. Lett., 32, L23S04.
doi:10.1029/2005GL024289.

DiMarzio, J., Brenner, A., Schutz, R., Shuman, C.A., Zwally, H.J., 2007. GLAS/ICESat 500 m
Laser Altimetry Digital Elevation Model of Antarctica. National Snow and Ice Data
Center, Boulder. Digital media.

Fricker, H.A., Padman, L., 2006. Ice shelf grounding zone structure from ICESat laser
altimetry. Geophys. Res. Lett. 33, L15502. doi:10.1029/2006GL026907.

Fujii, Y., Motoyama, H., Azuma, N., 1995. Glaciological Data Collected by the 30th, 31st
and 32nd Japanese Antarctic Research Expedition in 1989-1991, 89pp. In: JARE Data
Reports, No. 201 (Glaciology 22). Natl Inst Polar Res., Tokyo.

Gamma Remote Sensing, 2007. Gamma Interferometric SAR Processor –ISP. User’s Guide, Bern.

Hanssen, R., 2001. Radar Interferometry: Data Interpretation and Error Analysis (Remote
Sensing and Digital Image Processing). Kluwer Academic Pub., Amsterdam, 328 pp.

Joughin, I., Winebrenner, D., Fahnestock, M., Kwok, R., Krabill, W., 1996. Measurement of
ice-sheet topography using satellite-radar interferometry. J. Glaciol., 42, 10-22.

Lemoine, F., Smith, D.E., Smith, R., Kunz, L., Pavlis, E.C., Pavlis, N.K., Klosko, S.M., Chin,
D.S., Torrence, M.H., Williamson, P.G., Cox, C.M., Rachlin, K.E., Wang, Y.M., Kenyon,
S.C., Salmam, R., Trimmer, R., Rapp, R.H., Nerem, R.S., 1997. The Development of the
NASA GSFC and NIMA Joint Geopotential Model. In; IAG Symp., No. 117, “Gravity,
Geoid and Marine Geodesy”. Springer-Verlag, Berlin, 461-469.

Liu, H., Jezek, K., Li, B., Zhao, Z., 2001. Radarsat Antarctic Mapping Project Digital
Elevation Model Version 2. National Snow and Ice Data Center, Boulder. Digital media.

Nishio, F., Ohmae, H., 1989. Glaciological Research Program in East Queen Maud Land,
East Antarctica. Part 8, 1986-1987, 59 pp. In: JARE Data Reports, No. 148 (Glaciology 17).
Natl Inst Polar Res., Tokyo.

Rignot, E., Cassasa, G., Gogineni, S., Kanagaratnam, P., Krabill, W., Pritchard, H., Rivera,
A., Thomas, R., Turner, J., Vaughan, D., 2005. Recent ice loss from the Fleming and
other glaciers, Wordie Bay, west Antarctic peninsula. Geophys. Res. Lett., 32, L07502.
doi:10.1029/2004GL021947.

Rignot, E., Echelmeyer, K., Krabill, W., 2001. Penetration depth of interferometric
synthetic-aperture radar signals in snow and ice. Geophys. Res. Lett., 28(18), 3501-3504.

Schutz, B.E., Zwally, H.J., Shuman, C.A., Hancock, D., DiMarzio, J.P., 2005. Overview of
the ICESat mission. Geophys. Res. Lett., 32, L21S01. doi:10.1029/2005GL024009.

Shuman, C.A., Zwally, H.J., Schutz, B.E., Brenner, A.C., DiMarzio, J.P., Suchdeo, V.P.,
Fricker, H.A., 2006. ICESat Antarctic elevation data: preliminary precision and
accuracy assessment. Geophys. Res. Lett., 33, L07051. doi:10.1029/2005GL025227.

Watanabe, O., Furukawa, T., Fujita, S., 1990. Glaciological Data Collected by the 29th
Japanese Antarctic Research Expedition in 1988-1989, 77pp. In: JARE Data Reports,
No. 156 (Glaciology 18). Natl Inst Polar Res., Tokyo.

Wingham, D.J., Ridout, A.J., Scharroo, R., Arthern, R.J., Shum, C.K., 1988. Antarctic
elevation change from 1992 to 1996. Science, 282, 456-458.

Yamanokuchi, T., Doi, K., Shibuya, K., 2005. Validation of grounding line of the East
Antarctic ice sheet derived by ERS-1/2 interferometric SAR data. Polar Geosci., 18, 1-14.

Yamanokuchi, T., Doi, K., Shibuya, K., 2010. Combined use of InSAR and GLAS data to
produce an accurate DEM of the Antarctic ice sheet: Example from the Breivika-Asuka
station area. Polar Sci., 4, 1-17.

Zwally, H.J., Schutz, R., Bentley, C., Bufton, J., Herring, T., Minster, J., Spinhirn, J.,
Thomas, R., 2003. GLAS/ICESat L2 Antarctic and Greenland Ice Sheet Altimetry Data
V018, 15 October to 18 November 2003 (updated current year).  National Snow and Ice
Data Center, Boulder. Digital media.



Q and A

Q1: laser高度計は原理的には電波でなく光ですよね。確かに雪面反射を測っているのですか?
A1: おっしゃる通り、雲があるとその上面からの反射を衛星は測ってしまいます。雲が切れれば、laser高度計は雪面からの反射を測るので、そこでギャップができます。ギャップが頻繁に現れるかどうかは、雲の性質にも依存するでしょうし、高度変化が激しく、雲で覆われやすい氷縁域では特に、雪面反射を確かにdetectしたのかどうか紛らわしい場合があります。解像度の良い雲画像との対応が必要です。

Q2: SARの雪面反射とlaserの雪面反射の高度にoffsetがあるのが気持ち悪いです。Wetnessに影響されるとなると、実際にどれくらいSAR電波が潜るのかは、本当のところ誰にも判らないのではないですか?
A2: これはとても難しい問題です。このノートで明確な答えは出せません。検証事例を多く集めるしかないと思います。測量済みの地上高度profileを設定し、いろいろな時期のGLAS あるいはそれと同等のレーザー高度profile(なるべく地上高度profileと一致、あるいは平行でoffsetが小さい)を取得し、InSAR DEM gridと比較する、すなわち、このノート事例の拡張版実験が必要です。地域性を考えるとテスト地域は色々な氷床高度に設定する必要もあります。
2010-2014年、多くの実証研究がなされているかというと、そうでもありません。定量的に明確な結論が出るにはもうしばらくかかりそうです。