第34次隊により設置され、10年近く稼働してきたTT70#016は毎年2回、ヘリウム液化機により約80ℓ の液体ヘリウムを製造し,SG dewarに補充しないと液体ヘリウムの液面が低下して超伝導状態を維持できないという弱点があった。これはひとえに付属する10 K GM冷凍機の能力限界に起因し、蒸発は常に起きるのでヘリウム液面の低下が避けられないためである。しかし、2000年代に入って4K 蓄冷材の開発によりSG用4K 冷凍機が実用化され、GWRが更新機器を発表したので、10年の区切りをめどに昭和基地でも新型器械であるCT(器械番号#043)へ、第44次隊越冬中(2003年2月ー2003年12月)に更新を図ることとした。
第一世代同様、第二世代でも「輸送」が大きな問題であった。しかし、ノートNo. 22で述べた防振台が有効であろうと思われたので、同種の防振台(写真1a:全重量100 kgを4点支持するために、1か所あたりにBarry Mount Cup L64-BA-40を1ヶ使用)を作成し、しらせ(5002)の一番揺れの少ない場所に据え付け、輸送した。氷上輸送では写真1bのように橇に積みつけ、雪上車で見晴らし岩まで引っ張った。見晴らし岩から重力計室まで(約1000 m)はクローラークレーンに本体を載せて5km/h以下のゆっくりとした速度で輸送した(写真1c)。本質的にはNo. 22で述べたTT70#016と同じ輸送方法であり、問題は生じなかった。
写真1a. しらせ船倉内のSG(左), 中央のVLBI用水素メーザーも特別な防振台に載せてある。右はヘリウム(気体)ボンベ | 写真1b. 氷上輸送 積荷は幅102 cm, 奥行き110 cm, 高さ144 cmの外寸なので、そり1台に納まった(Note No. 22のFAX KS-707参照)。 |
写真1c. クローラークレーン自体には防振装置はない。 |
第二世代のSGであるCT#043に導入された4K GM冷凍機はLeybolt Vacuum Products Inc.が製造したCoolpower 4.2LAB という機種である。これにより冷凍機単体によってdewar内で気化したヘリウムの液化・凝縮が可能となり、コンプレッサーの台数と回転数の調整によって液化率を変化させて液面制御もできるようになった(図1)。昭和基地の第一世代SGではネック強化型の143ℓ 容器を使用した(通常観測点では200ℓ 容器を使用)が,第二世代SGでは30ℓ 容器へと大幅に小型化された(写真2)。またTT70型の圧縮機は水冷式であったが、水廻りの不具合も多かったので、CT型では発熱量が大幅に減ったこともあり、空冷式に変更した。ヘリウム液化機の運転と液体ヘリウムトランスファーが不要になったので、地学担当隊員の負担が大幅に軽減されたほか、使用電力の季節的な急増も抑えることができた。
図1. 圧縮機の台数と回転数を変化させてdewar neckの温度を調べた。使用台数が 1→2 台になる、コンプレッサー回転数が50 rpm → 60 rpmと上がるほど、第一段ネック温度を下げることができた。液面計によりdewar内液体ヘリウムの液面レベルがモニター出力できるので、回転数制御による液面レベル制御が可能になった。 |
第二世代CT型SGの問題点は、採用された4K GM冷凍機の生産台数が結果として3台しかなかったことである。最初の1台目はチリのConcepcionに納入され、南極昭和基地CT#043用への納入は2台目であったが、3台目の納入先が問題になった。Concepcionを維持しているドイツのIfAG (Institut für Angewande Geodäsie、現在のBKG: Bundesamt für Kartographie und Geodäsie)と、昭和基地を維持しているNIPRで取り合うような形になったが,昭和基地へは年1回しか輸送便がないこと,また1年毎のrotationで維持するために2台必須で,そうでないと運用が不可能になることを説いて,昭和基地納入を優先して貰った経緯がある.結果的に昭和基地に運搬した2台目(全体で3台目)以降、Coolpower 4.2LABの生産が中止されてしまい,この2台を虎の子として1年ごとに交換して運転時間数に偏りが出ないようにして注意して使用したところ、メンテ無しで7年間運用できた。実際のところCoolpower 4.2LABをメンテできる会社自体が既に消滅していたので、故障すなわち運転停止を意味したが、この不安定な状態を何とか乗り切り、第三世代のOSG型SG(第2章)へ繋いだ形である。
GWRはSG tiltメーターの取り付け位置を、Topマウント型(TT70の場合)からBottomマウント型(CTの場合)に変更した。dewar scaleのsize downに合わせ、写真2aのような大きな重い(~70 kg)balancerが不要になったためである。両者のマウント方式の優劣を一概に論じることはできないが、Bottomマウント(写真2b)の方がセンサーにより近い位置でのtilt調整が可能である。
Feedback balanceを保つサーマル・レベラー機能が、メンテナンス作業中における支持フレームのぐらつき、Tilt-Yケーブルの断線によって2001年1月17日(第42次隊越冬開始時)以降、不調になったこともTT70#016の早期更新につながった。サーマル・レベラーなしでの観測は第43次越冬隊が新規ケーブルへ交換し正常動作を確認する2002年1月15日までの約1年間行われた。TT70#016におけるtilt balance有無のSG性能比較は、Iwano and Fukuda (2004)で論じられているが、ここでは省略する。
写真2. | (a)Top mount type (TT70#016) | (b)Bottom mount type (CT#043) |
情報通信の面では第45次夏隊時に大きな進歩があった。2004年2月までは昭和基地~極地研間の通信がインマルサット衛星によるuucp接続(64 kbps)であったが、2004年3月からはインテルサット衛星アンテナの導入によるLAN直接接続、uucpデータ専用回線(~512 kbps)へと通信環境が改善された。これによりVPN (Virtual Private Network)経由で、webカメラを用いたSGの監視も可能となった(写真3)。コンプレッサーの音を聞きモニター画面を見ながら、圧縮機の運転状態や取得データの判断が可能となり、冷凍機の交換時にはwebカメラを見ながら、国内から指示を出せるようになった。この詳細はIkeda et al. (2005c)に記載されている。
写真3. Webカメラ監視。コンプレッサーの異音すなわち不具合なので、故障発見が容易になった。 |
第44次隊(池田博隊員)は越冬開始(2003年2月1日)後すぐにdewarの初期冷却作業を開始した。液体窒素によるdewarの予冷(2月5日まで)、液体ヘリウムへの置換(2月5~6日、この時点ではヘリウム液化機はまだ稼働中で1 ℓ/hrで液体ヘリウムを製造できた)を経て、2月7日にはdewar底部温度が4.2Kに達した。4K GM 冷凍機の運転開始は2月6日であるが、予測通り約1ヶ月間の連続運転で3月17日には液体ヘリウム液面レベルを88%にもっていくことができた。
十分な量の液体ヘリウムが得られたので、3月18日にNb球の上下に位置する超伝導コイルにパルス電流を調整しながら流して超伝導球の浮上(レヴィテーション)に成功した。その後、細かな位置調整とBottom mountマイクロメーターによる傾斜調整を繰り返し、4月17日よりCT#043による重力測定データの収録を開始できた。
テストを兼ねたCT#043とTT70#016の並行運転を2003年4月23日から開始し、5月6日からは両SGの同時データ収録を開始した。CT#043による本格的な観測の開始は6月16日で、TT70#016との並行観測を11月6日までの約5ヶ月間実施し,相互のデータを比較した(Ikeda et al., 2005a, b)。並行観測は11月6日に終了し、以後はCT#043単体での観測に移行した。11月6日からはTT70#016の解体作業に入り、圧縮器、チラー、サーマル・レベラーの解体、冷凍機の取り外し撤去などを経て、11月23日にpillar siteへのCT#043の移設を終了した。12月からは第45次夏隊の搬入した改造型冷凍機支持フレームへの交換、絶対重力計による感度検定などが始まったが、これについては別ノートで詳述する。
図2はCT#043が順調な稼働状態に入った8月1日から9月4日までの35日間データにBAYTAP-G (Tamura et al., 1991)解析を適用し、成分分解した結果である。大気圧が変化すると、その応答係数(近似的に-0.3 μGal/hPa:マイナス符号は気圧増加が重力減少を意味するため)に応じた地上重力変化が生じる。昭和基地における地上気圧は、低気圧通過に対応した約1週間周期の変動(振幅~30 hPa)で特徴づけられる。この"Barometric effect"は~10 μGalの重力変動に対応し、CT#043とTT70#016の測定データに共通して現れる。測定重力データから潮汐成分(図2には表示していない)と気圧応答成分(薄い水色の曲線)を除去すると,長期変動成分(Drift)と短期変動成分(Irregular)が残る。
CT#043のIrregular noise (黒の曲線)は振幅が±1 μGal以下で、TT70#016のIrregular noise(赤の曲線)の振幅(±3 μGal)よりfactorで5~10小さい(改善された)ことがわかる。一方Driftは自然現象によるものではなく、基本的にはSGの器械的不安定性と関連した変化であり、変化率が小さいほど望ましい。TT70#016(濃い青色の曲線)の場合、±5 μGalの1-7日周期変動が目立つのに対して、CT#043(緑色の曲線)では1-7日周期変動は抑えられているものの、24 μGal/monthというTT70#016より1桁大きなlinear trend (drift)が現れていて、長期安定性という意味では性能劣化と言う結果になってしまったのが残念である。
第二世代CT#043(写真4)での観測は2003年から2009年までの通算7年間であった。
図2. TT70#016とCT#043のドリフトの比較 |
写真4. 第二世代SG。 | (a) CT#043本体 | (b)全体システム |
図2に見られるCT#043の短周期雑音の改善は、冷凍機coldheadとSG容器間の緩衝材の改良によるところが大きい(Ikeda et al., 2005b, 2011)。図3のIsolating diaphramと記されたところが該当箇所で、GWRは上下のフランジ間にCT#043の場合もTT70#016同様、ゴム製の隔膜を使用していた。
図3. dewar側のフランジと冷凍機側のフランジの間に新しいデザインのダイアフラムを組み込んだ。 |
このダイアフラムは、冷凍機のピストンから発生する振動がdewar内のSG センサーに極力伝わらないようにする「除振」が目的である。低温工学の常識では、ゴム製ダイアフラムは除振には効果があっても、不純物混入防止には効果が薄い。ゴムはその性質上、室温でゴム本体からの空気やヘリウムガスを透過してしまうので、長期間運転していると冷凍機のネック部に混入不純物による固体空気が成長しやすい。coldheadと容器壁面の間に固体空気が成長すると、それを介してピストンの振動がセンサーに伝わり、観測ノイズの増大を招くわけである。実際、CT#043の標準仕様での機器立ち上げ2ヶ月後(7月13日頃)にはgravity balance信号が正常状態の5倍に増大したことが確認された(目視で固体空気の成長が確認された。振動の増大によりgravity balanceを保つための制御電流の変化と振幅が大きくなったことを意味する)。
そこで、今までにない、アルミ蒸着を施したポリウレタン製のダイアフラムを作成し、除振効果を確かめることにした。この新しいダイアフラムはゴム製に比べ、ヘリウム透過率を1/1000に抑えるはずである。厚みが70 μmと薄いため、組み込み・取り付けには工夫を要したが、リーク試験を無事パスし、固体空気の成長も起こらず、8月以降、安定した観測データが得られるようになった。図2に見られるCT#043の低いIrregular雑音は、このダイアフラムの効果によるものである。
第二世代CT#043はセンサーdriftが大きいだけでなく、第45次夏隊による冷凍機支持フレームの改造を経ても、冷凍機重量が均等バランスになりにくいという弱点があった。そのため、特に2008年頃から、隊員はtilt調整に苦労するようになった。一方、GWRは我々の開発したアルミ蒸着ポリウレタン・ダイアフラムを標準仕様品として組み込んだ第三世代のOSG型SGの製造を急いだ(写真5)。そこで昭和基地では、第51次隊(夏隊員池田博:筑波大、越冬隊員津和佑子:東京大学大学院生)において器械番号#058(OSG#058)への更新を進めることにした。
写真5. | (a) ポリエチレン・ダイアフラム | (b)フランジ間でのダイアフラム取り付け位置 |
OSG#058の昭和基地への搬入は2009年に就航した二代目しらせ5003(写真6a)の初航海(第51次隊)で行われた。定着氷の厚さが最大4mと厚く、チャージング回数が往復で合計3000回に及んだ。氷上輸送距離が長くなることは確実だったので橇ではなく、ヘリ輸送を採用した。輸送用ヘリコプターはS-61Aから新機種(CH-101:写真6b)に代り、後部ハッチが利用可能となったのでSG本体をお神輿状態にして後部ハッチから人力で搬入した。機内ではNote No. 22で採用したBarry Mountを底部に取り付けた輸送用防振台に密着固定した。
写真6a. 二代目しらせ(5003) |
写真6b. CH-101ヘリコプター |
写真7a-dによりCH-101への搬入作業の様子を示す。SGの輸送方法もTT70, CT, OSGの三代を経て、ほぼ確立できたと言える。
(a) | (b) | ||
(c) | (d) | ||
写真7. | SGをお神輿スタイルでヘリ後部ハッチから人力で搬入する様子 | ||
(a)(b)GW = 100 kgなので支持パイプを4人で担ぎ、傾きを抑えながら機内に搬入した。 | |||
(c) (d) 搬入後はレールガイドに沿ってすべらせ、防振台に乗せ、固定した。Barry Mount Cup L64-BA-40を4ヶ使用している。 |
下記の写真8は2009年12月に最終据え付けー稼働状態に入ったOSG#058である。
写真8. 第三世代 OSG#058全体配置図 |
昭和基地との通信はさらに拡充され、通信速度も向上(1 Mbps)して、OSG#058の48個の状態監視センサーデータ(モニターデータ)が日本から常時監視出来るようになった(写真9)。そのなかには、冷凍機の1段と2段の温度、液体ヘリウムの液面位置や気圧、GPS時刻なども含まれている。Webカメラでの常時監視も可能で、コンプレッサー圧力などのデジタル数値、インジケーター指針などを画像として見ることができる(写真10)。第三世代SGでは観測系のソフトも向上し、図2のIrregular雑音を示す重力残差がリアルタイムで記録され、1ヶ月間の潮汐・気圧記録も表示出来る(写真11:Ikeda et al., 2011参照)。
写真9. 超伝導重力計の48個の各部データ |
写真10. Webカメラ監視 | 写真11. 1ヶ月間のTideと気圧 |
OSG#058による連続観測開始は2010年1月からである。今までは、TT70#016でもCT#043でも、1年ごとに冷凍機と圧縮機の交換を行って来た。OSG#058は運転状況が良好なので、2年間連続運転を行い2012年2月8日に初めて両者の交換を行った(積算運転時間22132時間)。これは超伝導重力計の無保守連続観測としては新記録である。交換した冷凍機と圧縮機は第53次隊夏隊が日本に持ち帰り、住友重機械工業によってメンテランスを行った。持ち帰った時点での負荷性能試験によると1st 56.2K(仕様では60K以下)2nd 3.49K(仕様では4.2K以下)の性能が得られ、設置当初の値1st 52.4K、2nd 3.40Kからの性能劣化はほとんど無く、さらなる長期運転が可能であったことが示唆された。冷凍機の分解調整の結果、内部摺動部の異常磨耗やパーツ破損等も無かったことが確認されている。
連続観測を開始してからの観測データを図4に示す。上から生データ、短周期(1日まで)潮汐、長周期(半月以上)潮汐、気圧応答、トレンドを含む残差の順である。南極昭和基地のブリザードによる気圧変動は激しく最大で60 hPa(重力影響換算で±10 μGal)もの変動があり、1日で40 hPaもの変動が生じる時もある。トレンドを含む残差には年周成分などが観測されていて今後の解析による原因特定が期待される。器械的driftは2-3 μGal/yearと思われるが、初期driftは大きいのが一般的なので、もっと小さなdriftに落ち着くかもしれない。このように2年間の連続観測でデータにステップが無く、ノイズレベルも0.1 μGal以下であることは超伝導重力計の性能を十分に発揮していると考えられる。2012年2月8日に冷凍機と圧縮機の交換を行ったが、観測データはUPSがあるので継続されており、冷凍機交換によるステップも生じることは無かった。そのため今後も継続したデータが取得出来る。このように長期運転による高精度のデータがこれほど長期に渡って得られたことは無く、今後もさらに継続されることを期待している。
図4. 2010年1月開始からの2年間の連続観測データ |
最後に、第一世代、第二世代、第三世代の超伝導重力計の比較表を示す。
第一世代 | 第二世代 | 第三世代 | |
名称 | TT70#016 | CT#043 | OSG#058 |
運用期間 | 1993~2003 | 2003~2009 | 2009~ |
マウント方式 | Top mount | Bottom mount | Bottom mount |
冷凍機 | 10K GM冷凍機 PS DE202NF 10K 2W |
4K GM冷凍機 Leybolt Coolpower 4.2LAB 4.2K 0.25W |
4K GM冷凍機 SHI SDRK 101 4.2K 0.1W |
ヘリウム容器 | 143 リットル | 30 リットル | 35 リットル |
ダイヤフラム | ゴム製 0.5 mm | ポリウレタン 70 μm | ポリウレタン 70 μm |
液面コントロール | 制御無し | 回転数制御 | 圧力制御 |
センサー | Nb球 1インチ | Nb球 1インチ | Nb球 1インチ |
圧縮機 | ARS 8200 200V単相 2.1 kW |
CTI M8200 200V3相 2.1 kW |
SHI CNA11 100V単相 |
池田 博、土井浩一郎、福田洋一、野口隆志、中嶋俊哉、飯村憲、渋谷和雄 (2004):
南極における超伝導重力計の設置とその除震及び監視技術の開発、低温工学、
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Q and A
Q1: GM冷凍機とは何ですか?Note No. 22のヘリウム液化機とはどう違うのですか?
A1: 冷媒を循環させ、それが断熱膨張するとき周囲から気化熱を奪うことを利用して冷却する装置を一般に冷凍機と呼びます。GMはGifford-McMahonの略記でStirling型、Joule-Thomson型、Pulse-Tube型と並んで代表的な冷凍システムで、冷媒としてヘリウム(10-30 bar)を用いています。Wikipedia http://en.wikipedia.org/wiki/CryocoolerではGifford, W.E., Longsworth, R.C., 1966. Advances in Cryogenic Engineering, 11, 171. を引用しています。冷媒が奪った熱は熱交換機を通して水/空気の排熱機(Chiller)で冷やし、冷媒の圧縮―膨張のサイクルを継続します。このとき、rotary valveで高圧―低圧シリンダーが切り替わり、一連の熱交換サイクルが連続運転できるようにしてあります。常温(300K)から一気に4.2Kまで冷やすのが難しいので、一段目で300K→60K, 二段目で60K→4.2Kへ冷却します。4K 用蓄冷材が開発されたことから、4K GM 冷凍機が実現しました。Note No. 22のヘリウム液化機とNo. 23でのGM冷凍機は役割としては同じです。
Q2: 冷凍機の生産中止で運用が不安になるなどとても考えられない事態ですが、どうしてですか?
A2: 全くですね。しかし水問題が深刻化し、地下水モニタリングが一種の流行になるまで、精密重力計は売れない器械でした。超伝導重力計はGWRという3研究者(技術者)の起こしたベンチャー企業の製品ですが、何十年もの間、町工場に毛の生えた人員規模(専任は多いときでも5名らしい)で少数台数しか(年あたり4-5台)生産していません。極言すると規格品と言っても1台1台図面が違います。LeyboltのCryopower 4.2LABの採用も長期の見通しの結果と言うより、「GWRがその時使いやすい冷凍機」を当てはめたと言うのが実態と思われます(同時期でも日本製品でもっと信頼性のある冷凍機がありました)。しかし、SGの生産はGWRしかできませんし、一度始めた連続観測データが途切れることは、何にも増して打撃です。昭和基地では一旦機器が停止すると再開までに最低2年はかかります。新旧機器の得失をはかりにかけ、可能な時期に何とかより良い観測が続行できることを優先した結果なので致し方ない点があります。
Q3: BYTAP-Gとは何ですか?
A3: Ishiguro et al. (1983) によるAIC (Akaike's Information Criterion; Akaike, 1980)に準拠した潮汐解析理論で、日本の測地研究者は大抵この理論に基づくTamura et al. (1991) のプログラムを利用しています(前頁の参照文献)。欧米系の研究者は、Wenzel (1996)のETERNAというプログラムを用いることが多いのですが、ほぼ同等の結果が得られます。これらの概要は、データ解析の別ノートで説明します。
Akaike, H., 1980. Likelihood and Bayes procedure, in Bayesian Statistics, ed. J.M.
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Ishiguro, M., Akaike, H., Ooe, M., Nakai, S., 1983. A Bayesian approach to the analysis
of Earth tides, in Proc. 9th Int. Symp. Earth Tides, ed. J.T. Kuo, 283-292, E.
Schweizerbart'sche, Stuttgart, Germany.
Wenzel, H.-G., 1996. The Nanagal Software: Data Processing Package ETERNA 3.3.
Bull. d'Inform. Maré Terr., 124, 9425-9436.
Q4: 新しいSGであるCT#043のdriftが古いSGであるTT70#016より大きいというのはおかしくありませんか?
A4: 確かにおかしいです。しかしCT型すべての機器のdriftが大きいわけでなく、GWRが使用した、ある製造ロットのNb球(6個分らしい)を用いた重力センサーが組み込まれたCTだけが大きなdriftになっているらしいです。GWRの製造ミスと思われますが確実にそうだと言い切れる材料は持ち合わせていません。但し、この種の器械的driftは時間の一次関数で変化するので、注意して解析すれば季節・年周変動と分離できるはずです。OSG#058では、このdrift問題は解決しています。
Q5: Note No. 22では「しらせ」で統一されていた船名が、このNoteでは「しらせ5002」と「しらせ5003」になっているのは何故ですか?
A5: 第25次から第49次まで就航していたしらせは、海上自衛隊の船籍番号では5002になっていました(ちなみにふじが5001です)。第50次輸送はオーロラ・オーストラリス号でしたが、第51次隊から運航開始した新砕氷船は、どういう訳か同じ船名が用いられています(こういうことは普通ありません)。新しい砕氷船を単にしらせと表記すると古い砕氷船と混同します。従って、私たちは「しらせ5002」と「しらせ5003」のように区別して使います。