南極地球物理学ノートNo. 22 (2013.03.11)

昭和基地における超伝導重力計観測―2. TT70#016 の設置


佐藤忠弘・福田洋一・澁谷和雄

Keyword:超伝導重力計TT70、ヘリウム液化機、防振台、Barry Mount Cup



1.はじめに

昭和基地におけるSG立ち上げは1992年11月出発の第33次隊で試みられた。立ち上げには越冬隊の佐藤忠弘(当時,国立天文台水沢),金尾政紀(当時、京大・防災研究所学生)と夏隊の福田洋一(当時、東大・海洋研)の3隊員が当たった。しかし、SGのLHe(液体ヘリウム)dewar(容器)がリークを起こし、立ち上げは不調に終わった。この間の経緯を詳述し、第34次隊での再挑戦―成功に至る道のりを示す。



2.第33次隊出発までの準備

当時のSGはTT70型と呼ばれ、昭和基地向けに開発メーカーであるGWR Instruments Inc.(以後GWR社)から購入したものの器械番号は#016であった。TT70#016は200リットルの大きなLHe容器(RD200)を使用していたが、南極へはLHeを輸送しても越冬期間終了前にすべて蒸発してしまうため、気体ヘリウムから液体ヘリウムを液化・製造するための装置がさらに必要であった。我々は液体ヘリウム製造の実際を知らなかったので、1989年12月26日、佐藤・渋谷が、いわき明星大学の田沼静一教授の実験室を訪ね、施設見学から始めた。その結果、液化機の概要は理解できたが、いわき明星大の設備は気化したヘリウムを回収し、再凝結させるのを主目的としたとても大がかりなもので、昭和基地向きでないことも判明した。

昭和基地では気化したガスの回収は不要であり、簡便な装置がないか探したところ、JR(当時の国鉄)のリニアモーターカーの実験に参加している住友重機(株)が特注で製造していることが判り、入手できた。昭和基地気象観測では気体ヘリウムをバルーン飛翔のために定常的に使用していたが、これは純度4ケタ(99.99%)である。我々は確実な機器運転(不純ガスの凍結により液化機内部の非常に細い熱交換パイプ内で詰りが起きないこと)を目指し、6ケタ精度(99.9999%)のガスボンベ(7 m3入り)を80本搬入することとした。7 m3のガスボンベ1本からは約5 ℓのLHe製造を見込むことができた。なお、できた液体ヘリウムを常温下でいきなり、SG dewarに移送してもすべて蒸発してしまうので、液体窒素 (LN2) での予冷が必要であった。予冷に使う液体窒素は当初、既に昭和基地で使用されていた気水圏部門の窒素液化機を借用したが、第34次隊ではイワタニプランテック(株)の既製品を購入した。この液化機は空気から窒素と酸素を分離して窒素のみを液化することができる。なお、LN2製造の確実性を増すために、N2ガスボンベを5本購入した。

液体ヘリウムの製造からSG立ち上げまでを1991年3月に水沢で行ったが、その予行演習事項は表1のようにまとめられる。約10日間にわたってこれら必要な作業事項について全て訓練した後、機器を再度分解・梱包した。そして、砕氷船「しらせ」への積み込みも無事終了し、昭和基地に向け晴海埠頭を出航した。表2が主要積荷リストである。このほかに工具、脚立、作業台、床上げ部材、保温用発泡スチロール部材なども積み込んだ。

積荷のうち、一番脆弱なのはLHe容器RD200である。この容器は非常に断熱性の高い多重構造の「魔法瓶」で、内側からヘリウム貯蔵容器、冷却機で各々10K, 70Kに冷却される二重の熱シールド容器、それらの外側を包む真空容器の四重構造になっている。さらにこれら内部容器は外部容器に固定されたグラスファイバーの円筒を介して吊られる構造になっていて、傾斜に弱く(規格上の最大許容傾斜角は30˚)、継続的な振動にも弱い。

南緯50˚ の暴風圏では片振幅35˚ を越える大きな揺れに見舞われた。これは予め想定されたので、特に脆弱な外容器と円筒との接合部を保護し、相対的なずれが起きないようにアルミ特製の保護治具を組み込んでいた。海氷帯での5000回を越えるチャージングをともなう砕氷航行の後、昭和基地の沖に接岸した。立ち上げ作業を急いだこともあり、SGは梱包をはずして昭和基地にヘリコプターで運搬し、トラックで観測室に運搬した。ヘリコプターのローターの振動が大きかった記憶がある。


表1 水沢における予行演習でのSG立ち上げ作業項目と必要人数

作業内容 人員 備考
3/19 開梱、観測室への搬入 5 ユニック使用
3/20 傾斜補償台用足皿取り付け 4 ドリル
SG吊り下げ 2 チェーンブロック
フレキ配管
3/21 配線 2
液体窒素をSG dewarに充填 2 LN2 50 ℓ使用
3/22 SG予冷続行 2
3/23 エレクトロニクス継ぎこみ、動作確認 2
SG本体回路検査 2 LN2下での回路抵抗値測定
3/24 傾斜計初期合わせ 2
LN2追い出し 2 N2ガス使用
LHeトランスファー 2 98 ℓ移送で50 ℓ残
3/25 Gravity Sensing Unit (GSU, SG本体) を容器に挿入 2
GSUの消磁(デマグネ) 2 100V20Aのスライダックと1Ωホーロー抵抗使用
傾斜粗調整 2
レビテーション(超伝導球の浮上) 2
3/26 傾斜調整 2
コールドヘッド取り付け 2
傾斜変化最小位置合わせ 2
デマグネやり直し 2 LHe  26 ℓ → 22 ℓ
コンプレッサー運転 2
3/27 レべラーを使った傾斜調整 2
トランスファーチューブ真空引き 2
LHe トランスファー 2 LHe  10 ℓ → 80 ℓ
3/28 重力センサー位置最終調整 2
3/29 動作確認・立ち上げ終了 2


表2 積荷リスト

分類 内容 寸法 (梱包外寸)
(W mm x D mm x H mm)
重量
(kg)
SG (GWR) 200 ℓ容器RD200
GM冷凍機APS DE202NF付き
(防振台含む) 950 950 1772 300
(防振台除く) 1492 230
重力計センサー(GSU)ほか 813 813 1550 250
コンプレッサー(APS8200) 600 600 700 120
傾斜補償装置 1200 1200 432 100
エレクトロニクス 600 600 600 80
予冷用容器 300 300 1240 15
液化機
(住友重機)
コントロールボックス 980 780 430 63
制御盤 680 580 500 36
CSA51 810 710 900 230
CSA82 1370 870 1240 430
クライオスタット 1040 1040 1480 365
flexible hose 1130 1130 750 220
マニホールド 1300 600 1600 ~40
ボンベ He純ガス(7 m3入り) 80本 ~4000
N2純ガス(7 m3入り) 7本 ~250
データ収録 計算機その他 1000 1000 1000 ~100
ラック 700 600 1300 100
チラー
(ORION)
RKC-1500V-C1水冷式 700 750 1500 200
予備品 コンプレッサー 600 600 700 120
その他アクセサリー 1000 1000 1000 ~100



3. 第33次隊での作業経過

第32次隊で建設された重力観測室内では若干の整備が必要であった。まず、RD200吊り下げのために500 kg用チェーンブロックを設置した。また、天井からの梁吊り敷設に対応するケーブルラック・ホースラックの取り付けを行った。さらに、多くの機器にバランスよく電力供給するために、機械隊員に表3の配電盤設置をお願いした。

表3 分電用配電盤

品名  規格   
SG, データ収録機器 ADVANTESTほか 100V, 1φ1.0 kW
SG, コンプレッサー APS 200V, 1φ1.7 kW
チラー RKC-1500V-C1 200V, 3φ2.2 kW
ヘリウム液化機 CSA82 200V, 3φ7.5 kW
CSA51 200V, 3φ5.2 kW

立ち上げは、ドラム受け等の基地での通常夏作業と並行して行った。窒素液化機のコンプレッサーの消費電力は4KW,ヘリウム液化機のそれは9KWで合わせて13KWの大電力を消費するため、昭和基地の発電機への大きな負荷になり、VLBIアンテナとの並行運転は出来ない等の制限があった。それでも、液化作業は順調に済み、液化窒素での予冷とそれの排出、LHeの充填も無事終了した。写真1にガス・マニホールド,写真2a, b, cに液化機関係機器を示す。

しかし、次の工程である超伝導球浮上操作(表1, 3/25の項参照)の確認をしていた時点で、SG容器の表面に白い霜が発生しているのに気がついた。なすすべもなく、ただLHeが蒸発するのを見ているだけであった。容器真空部への液体ヘリウムリークが原因であった。LHe Dewarの補修を試みた上での再立ち上げも考えたが、リーク箇所の同定がとても困難であること、また、仮に補修に成功したとしても将来にわたっての信頼性が保証されないことから、第33次隊での立ち上げを断念し、第34次隊での立ち上げに万全を期することにした。


note22_図001 note22_図002
写真1. ヘリウムガスの液化は1ℓ/hrで進み、7m3 ボンベ1本あたり 5ℓ 製造できる。Dewar充填には約80ℓのLHeが必要なので、連続液化できなければならない。そのため、マニホールドを用いた連結が必要であった。 写真2a.  ヘリウム液化機用コンプレッサー CSA82 (CSA51は後ろ隠れてわかりにくい)

note22_図003 note22_図004
写真2b.  液化機用cryostat 写真2c.  LHeのトランスファー

写真2.液化機CSA51, CSA82(写真2a)で凝縮された液体ヘリウムは液化機用cryostat(写真2b)に溜められる(右・脚立の上にあるのはヘリウム液面計)。そして、トランスファーチューブを用いて予冷された重力計dewarに移送される(写真2c)。ホースは天井吊りを経て長く引き廻されているが、圧縮機の振動がピラーに吊られたdewarに伝わらないようにするための必要な措置である。

帰国後、リークの原因を調べるため、SG製造元のGWR社に容器を運び込み、佐藤も立ち会って種々の試験を行った。その結果、今回のLHeの異常蒸発は、窒素分子は通さないがヘリウム分子は通過できる規模の微小な穴からのリーク(マイクロリーク)によるものであることが判明した。LHeは蒸発した場合、室温では体積が700倍に膨張する。また、Heの平均自由行程が長いので一端、リーク等で真空度が低下すると、外部からの熱侵入が増加し、蒸発が増加すると共に、内圧が増し、容器の膨張でリーク部が拡張し更にリークが増え、蒸発量が増えると言う、蒸発にとっては正のフィードバックがかかってしまう。その結果、全ての液体ヘリウムが蒸発するまで蒸発は止まらないことになる。写真3a, 3bはGWR社において容器からの異常蒸発を再現したところである。

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写真3. GWR本社(San Diego)に送り返してRD200のリークテストを実施した(1992年4月)。
(a) 液体窒素では発生しなかった異常蒸発が液体ヘリウムでは再現した。 (b) リーク箇所を特定する作業をするGWR社のRichard Reineman.霜の中心(左手のあたり)にピンホールができてしまったと思われる。


4. 輸送に対する特別対策

LHeの異常蒸発はRD200の真空槽に生じたピンホール状の穴が原因と推定されたが、何故穴が生じたかと言うと、振動あるいは衝撃・傾斜による材料の傷・あるいは劣化以外には考えにくい。そこで,第34次隊での再挑戦のためにも、ヘリコプターの振動特性の把握、自前の耐衝撃防振台の製造・試験を行うこととした。


4.1. ヘリコプター試験

ヘリコプターの振動試験は1992年8月31日、館山基地において「しらせ5002」ヘリコプターS-61A(写真4)を用いて行った。日本航空電子(株)の半導体加速度センサーMA101を直交3軸に配置できるように作成した台座(エイクラ通信製)に,組み込んだ。上下動(ASDM-050-BY)の定格は±5.0 G、水平動(ASDM-020-BY)の定格は±2.0 Gで、センサーからのアナログ電圧出力を、カセットレコーダー(TEAC HR30J)を用いてDCから39 Hzの範囲で記録した。1ホップあたり離陸―旋回―ホバリングー着陸という操作を、飛行高度700 ft, 速度70 ~ 120 knot, 風速約10knot (方位100~150˚) という条件下で6ホップ飛行する約1時間のフライトを実施し、振動の違いを測定した。


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写真4. しらせ搭載のヘリコプターS61-A型機と観測船しらせ5002の外観。

Fig. 1はvisigraphに出力した上下動の加速度振動記録の例で、6ホップのどの場合も着陸前ホバリング時(高度15 ft)に振動加速度が一番大きくなった。S61-Aのローター回転速度は203 rpm (約3.4 cps)であるが、Fig. 1の特徴的な例に見られるように、卓越振動は約16 Hz(ローター回転速度の5倍)、振幅±0.2~0.3 Gであることがわかった。この値はキャビンでの計測位置を変えても(パイロット席の真後ろ、ローター軸直下位置付近、キャビン最後尾の3通り)大きく変わることはないが、加速度センサーのキャビン床面への密着度が下がると振幅が±0.6 Gへとfactorで3倍程度大きくなることがわかった。水平方向加速度はどの場合も±0.2 G以内で、上下方向加速度ほどには影響がなかった。

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Fig.1 ホバリングから着陸にかけての上下動振動加速度の典型例


4.2. しらせ船倉での振動・衝撃試験

しらせ船倉での振動試験は4番ハッチ(4H)においてRD200 dewarに相当するダミーロード(約240 kg)を乗せた防振台の効果を探る目的で実施した。写真5はその様子で、4.1で用いたセンサー・レコーダーシステムを再利用している。3軸加速度計は積荷の上面(向かって右側の角)に据え付け、床面に置いたTEAC レコーダーまで出力ケーブルを延ばしている。積荷を乗せた台座は1ヶ所あたり2連の防振マウント6ヶ所で支えている。使用したBarry Mount Cup NC-204-T3の共鳴振動数は荷重88 lbs(RD200のgross weight 240 kg/6 = 40 kg = 88 lbs)について21-22 Hzであるが裏返し2連にすることで、21 x 0.707 = 14.8 Hzとなり、常在する船体の微振動を減衰させることができる。4ヶ所支持に変更すると1点あたり132 lbsの荷重になるが、このときの共鳴周波数は12.6 Hzである。

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写真5. しらせ4Hでの振動・動揺試験。3成分加速度計センサーは積荷の上面(向かって右側の角)に設置し、出力ケーブルを床面に置いた記録計(左側にあるTEAC HR30J)まで延長した。遅い送り速度で60分テープ1巻に1日分記録できる。右側の計器は時刻符号出力用の時計である。

経験的にしらせ船倉内での振動は、氷海航行でのチャージング後の後進時に最大になる(水平加速度~±1 Gで10-20秒継続)ことが判っていた。今回の試験は台風下での船体動揺特性とその時の振動・衝撃緩和に防振台がどの程度有効か推定することが主眼であった.実験データはしらせ内地巡航の秋田出港から那覇入港までの5日間(1992.09.28~10.02)取得したが、予想に反してこの間、台風の襲来がなく、ロール角5˚ 以上の揺れになることは1度もなかった。従って3成分いずれとも得られた振動記録が±0.1Gを越えることはなく、効果を確かめることはできなかった。



5. 第34次隊での再挑戦

振動・衝撃対策の見通しを完全に得たわけではないが、第34次隊での再挑戦では安全輸送・作業について慎重な対応を2重、3重に行った。

(1)GWRへの注文
・内部容器が動きにくいように工夫した南極仕様の容器を作成し、十分なリーク試験をしたものを納入する。
・通常より防振性が向上した運搬箱で日本に空輸する。
・念のためdewarネックを強化した143 ℓ用容器RD-143HDも製造し、納入する。

(2)日本側
・しらせに積み込む前に、日本でもリークテストを兼ねた充填試験を行う。
・上記運搬箱を乗せる防振台座を作り、それに乗せて運搬する。この容器はヘリではなく、台座ごと氷上輸送する(荷受けに関する第33次隊あて連絡FAX KS-707: Fig. 2参照)。
・観測室での重力計立ち上げ作業は越冬期間に入ってから開始し、それまでは輸送物品を開梱しない。
を基本線とした。

note22_図012

Fig.2 1992年当時、観測隊間の公用連絡は基本的にはFAXで行われていた。1-2ページ目のKS-705と706は省略した。

第34次隊のSG関係隊員は佐藤(当時国立天文台水沢)、澤柿(北大・低温研)、岡野(東大・地震研学生)の3名であった。第33次隊での経験もあり、しらせ・基地間は予定通り氷上をソリで、陸上はトラックで時間を掛けて慎重に輸送した。予定通り、夏期間中はそれぞれの作業に集中し、夏作業が終わり、越冬が成立してからSG運搬箱を開梱した。

ヘリウム液化機の設置は第33次隊の夏期間に終了し、液化の実績もあったので、第34次隊での液化作業は表1の予定スケジュール通り進んだ。Dewarは200 ℓ用(RD-200)及び143 ℓ用(RD-143HD) ともに開梱時、異常はみられなかったが、念には念を入れてRD-143HD を用いてSG立ち上げ作業を実施した。レヴィテーション及び傾斜調整も水沢での予行演習通り進み、1993年3月23日に、日本に向け「立ち上げ成功」の一報を送ることが出来た(Fig. 3)。

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Fig.3 立ち上げ成功を伝えるFAX (SK-136)から重力観測記録を再現した。LaCoste Romberg D73重力計とTT70#016 SGはscaleを除き、類似の時間変動を示していることから、佐藤隊員が立ち上げ成功の第一報を日本に送った。

写真6にTT70#016の最終的な設置状況を示す。収録装置は、並行観測するLaCoste-Romberg D73重力計データを同時収録するためFig. 4のような複雑なシステムになっているが、画像とは反対側に置かれており、写真6には写っていない。立ち上げ当初、データはTIDEフィルターと称する50秒カットオフの低周波アナログフィルターの出力を2秒サンプリングで収録していたが、位相特性の改良のため第40次隊(1999年2月)以降はカットオフ16秒のGGP1フィルターを使い1秒サンプリングでデータが収録されるように変遷を経ている。

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Fig.4 Filter, Isolation Amp, Multiplexer, AD Converter を経て、PC制御でHard Diskに収録した。 Sato et al.(1993)のFig.5を転載。

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写真6. 観測開始当初のSGの設置状況。左から、SGのTIDEとMODEのアナログ信号を記録するチャートレコーダ(上)、部屋の環境変化に関するデータを収録するためのロガー(下)、重力計の制御回路(上)と超伝導球浮上・位置調整用の電源、作業用のヘリウムガスボンベ、超伝導重力計本体が収められている液体ヘリウム容器(この容器は、コンクリート基台に設置されている自動傾斜調整機構に吊り下げられている)、ヘリウム液化機用クライオスタット、液化機の制御回路、窒素液化機用クライオスタット。なお、コンクリート基台の後ろ側に見えるオレンジ色の機械は真空ポンプ。


6. おわりに

昭和基地ではDORIS(南極地球物理学ノートNo. 16 - No. 18)、VLBI, GPSなどの測位観測が行われている。これらのkinematic dataとSG, AGや衛星重力などのgeodynamic dataとを組み合わせて解釈することで、例えば後氷河期の地殻隆起に伴う重力変化についての研究が進展するであろうことは間違いない。SG設置は、重力観測と測位観測のそれぞれの特性をうまく組み合わせた研究進展を目指す第一歩であった。



参考文献

Kanao, M., Sato, T., 1995. Observation of tidal gravity and free oscillations of the earth with a LaCoste & Romberg
gravimeter at Syowa Station, East Antarctica, Proc. 12th Int. Symp. Earth Tides, ed. H.T. Hsu, Beijing, 571-580.

Sato, T., Shibuya, K., Okano, K., Kaminuma, K., Ooe, M., 1993. Observation of Earth tides and Earth’s free oscillations
with a superconducting gravimeter at Syowa Station (status report). Proc. NIPR Symp. Antarct. Geosci., 6, 17-25.

Q and A

Q1: Fig. 2~4などではSGではなくて、SCGになっていますがどうしてですか?
A1: 超伝導重力計の略称についてはメーカーであるGWR (もともとドイツ系の人々)は superconducting gravimeterの下線3文字を取り出してSCGとしていました。しかし、superconductingでone wordだからSGでないとおかしいと、ある英語系のuserが強硬に主張して1990年台の後半からはSGと略称されるようになりました。SCGでもSGでも実態は変わりません。


Q2: 窒素液化機の消費電力が4 kW, ヘリウム液化機のそれが9 kWとありますが、表3の分電盤の規格と整合していないようです。実際はどうだったのですか?
A2: 重力観測室内のすべての装置が同時並行で使われる訳ではありません。SGだけで13-15 kWの電力を使用したことはありません。しかし、ヘリウム液化時に使用電力が一時的に急増したのは間違いありません。各観測棟の大元への電力計設置は第39次隊なのでSG使用電力の月別実測データが得られたのは第40次隊(1999年2月越冬開始)からですが、第40次―第43次の4年分の重力観測室使用電力を見ればおおよその使用電力の見当がつくので下記に掲げます。

 

表4. 重力観測室の使用電力(単位 kWh)

month 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1
40次 2628 3492 3388 3552 5521 3896 3930 3677 3602 3005 2988 4917
41次 2832 2945 3656 4058 5406 3940 3770 3866 3760 4035 3478 3963
42次 2895 2787 2725 2757 2746 4758 3461 3216 2986 4909 2914 3028
43次 4054 2915 3331 3457 3577 5118 3750 4331 3777 2914 3911 5941

ここで各隊でのヘリウム液化作業は次のようになっています。第40次隊 1999.06.04-06.12, 2000.01.16-01.24, 第41次隊 2000.06.12-06.20, 2000.11.25-12.02, 2001.01.13-01.19, 第42次隊 2001.07.16-07.24, 2001.11.01-11.10. 第43次隊は7月,1月であることはわかっていますが、日時・期間が不明です。計算の詳細は省きますが、ヘリウム液化作業に関わる必要電力は464.7~613.2 kWh(2.2~2.8 kW)ということになります。


Q3: 大変、大がかりな装置であることはわかりましたが、立ち上げ後の維持はどのようになされていたのですか?
A3: 越冬隊員は毎年入れ替わります。従って日本国内に類似の装置を持つ国立天文台水沢、京都大学、東大・海洋研などでの出発前訓練が大事でした。昭和基地で一番神経を使う作業は液体ヘリウムの製造と、SG dewarへのトランスファーですが、「手の感触」に頼ることも多く、video講習やマニュアルだけでは判らないことも多かったわけです。越冬交代時には越冬を終わる隊員から始まる隊員へのノウハウ伝授もなされますが、年によっては引き継ぎの日数を十分取れないこともあり、web cameraで現地の絵・音が伝送可能になるまでは大変でした(これについてはノートNo. 23で述べます)。TT70#016の越冬維持に関わった隊員の感想が下記データレポートShibuya et al. (2005)付属のCD-ROMに収録されています。訓練に便宜を図って下さった上記施設の関係者を含め、日本の測地学関係者の支持・理解の上で、継続している観測です。

Shibuya,K., Doi,K., Sato,T., Tamura,Y., 2005. Syowa superconducting gravimeter raw data and associated expedition
reports (Explanatory CD-ROM). JARE Data Reports No.283(Earth Sci. 6), 34p, Natl Inst. Polar Res., Tokyo.


Q4: 大変な労力だったことは判りますが、ここに書かれていることはscienceというよりlogisticsですね。Logisticsは状況が変わればやり方も変わるわけで、くだくだ書かれても参考にならないと思いますが。
A4: 越冬隊員には学生が多く、機器の維持は彼らにとっても特筆すべき体験だったことが、上記データレポートのCD-ROMを読むと判ります。ここで強調したいのは、学生は単に「機器維持のための雇われ要員」として南極へ行ったのではなく、取得データを解析・解釈して自分の研究に役立てるために行ったことです。外国、特に欧米系ではデータ取得は技術者、解析・解釈は研究者と予め役割分担し、相互不干渉であることが多いのですが、我々はこの両者は不可分でトータルに扱われるべきと考えています。大学院教育の一環として、機器の特質・能力限界を良く理解したうえで、解析成果を出す研究者になって欲しい、という意味もあります。維持に関わった学生越冬隊員はこのことが良く理解できたはずですし、このノートの読者にも有益な情報だと信じています。