南極地球物理学ノートNo. 21 (2013.01.24)

昭和基地における超伝導重力計観測―1.何故極地での観測が必要か?


佐藤忠弘・澁谷和雄

Keyword:超伝導重力計, Global Geodynamics Project, 地球自由振動, Slichter mode, 地球流体核



はじめに

1993年3月、南極・昭和基地で超伝導重力計(Superconducting Gravimeter: SG)による連続観測が開始された。重力連続観測は、アスカニア重力計やラコステ重力計を用いてこれまでの南極観測でも行われてきたが、SGによる連続観測は南極測地学の大きな転換点であった。本稿では、歴史を振り返り、極地でのSG観測の意義を概観する。



1. SG観測が捉える現象

SGは,テストマスとして直径1インチのNib(ニオビューム)コーテングされた銅の球殻を用いて、その球殻に働く下向き重力と、超伝導状態下で起こるマイスナー効果による上向き磁気浮上力のつり合いを利用した相対重力計である。SGはUniversity of California San Diego校の教授であったJohn M. Goodkindとその弟子であるRichard Warburton, Richard Reinemanが起こしたベンチャー企業であるGWR Instruments Inc.(3人の頭文字が企業名になっている)が独占的に製造している。

SGは超伝導電流が持つ固有の安定性により,金属や溶融水晶をスプリングに使った従来型の相対重力計では得られない、非常に高い長期安定性(ドリフトが小さいと言う)を有している (例えばGoodkind, 1991)。金属や溶融水晶は材料特有のクリープによりバネ長が長くなるので、見かけ上の重力増加を生じるが、SGはそのようなことがないからである。また、極低温状態でのセンサーの形状安定性、それによる温度雑音の低さから、16 s ~ DCの広い周期帯域に渡って1 nGal (1x10-9 Gal =1x10-11 ms-2)以上という、従来型重力計に比べ102~103倍の高感度・高分解能観測を実現している (例えばWarburton and Brinton, 1994)。

図1はSGで既に観測されている、また観測が期待される現象をその代表的な振幅とともに示している。一番大きな振幅は半日周潮(SDT: Semi-Diurnal Tide), 日周潮(DT: Diurnal Tide)で場所にも依るが50~60 μGalに達する。黒い縦線(line spectrum)で示されているのは12, 24時間という限定された周期で起きる現象だからである。続いて同様な縦線の半月周潮(FT: Fortnightly Tide)、月周潮(MT: Monthly Tide)、半年周潮(SAT: Semi-Annual Tide)、年周潮汐と年周極運動の影響(AT+A.PLM: Annual Tide+Annual Polar Motion)、極運動チャンドラー成分の影響(CW: Chandler Wobble)が、徐々に長くなる周期、徐々に小さくなる振幅で続く。TDT(Ter-Diurnal Tide)はSDTより短周期側にあり、1/3日(約8時間)周潮で振幅は~1μGalである。

点線で示されているのは広い周期帯域を持つ現象である。波浪(OW: Ocean Wave)は8~20 sにおいて約10 μGalというFT並みの重力効果を持つ。地球自由振動(ENM: Earth’s Normal Mode)は、突いた後の釣鐘のように地球全体が振動する現象で、1960年のチリ地震の際に初めて観測された。その振幅は数 μGalであるが30 sから約8時間に渡る様々なモードのline spectrumの集合体である。OTE (Ocean Tide effect)は海洋潮汐、海水面変動による影響である。海面の高さが時間変化すると、海水の引力や荷重の効果により地上観測点にも海からの距離に応じた重力効果が現れることを示している。OTEの影響はSDTの周期帯では地球潮汐より1桁以下の振幅であるが、CWの周期帯では同程度となるのでOTEの除去、あるいはそれからの分離が信号検出の課題になる。大気圧変動の影響(PE: atmospheric Pressure Effect)が周期から見てDTとFTの中間にあり約7日にピークを持つのは、天気の移り変わり(低気圧ー高気圧の移動)が約1週間単位であることに対応している。その影響は1週間をピークに低周期、高周期に向かってともに減少傾向にあり、大気質量の直接的な引力効果が卓越していることを表している。

note21_図01
図1. 超伝導重力計で観測が期待されている地表での重力信号。図では以下の略号が使われている。OW: 波浪, ENM: 地球自由振動, ST&CGM: シュリヒターモードと地球流体核内の重力波, PE.: 大気圧変動の影響, OTE: 海洋潮汐,海水面変動の影響, S&SEQ: ゆっくり地震とサイレント地震, TDT: 1/3日周潮, SDT: 半日周潮,DT: 日周潮,FT: 半月周潮,MT: 月周潮, SAT: 半年周潮, AT+PLM: 年周潮汐と年周極運動の影響, CW: 極運動チャンドラー成分の影響。1μGal =1x10-8 ms-2


2. GGP第一フェーズ

図2は2000年代初期のSG観測点分布を示している。白丸のうちヨーロッパ、北米の観測点は1980年代前半から稼働している。地球自由振動の検出・解析と関連してsilent earthquakeの探索が長周期加速度計型地震観測網(IDA: International Deployment of Accelerometers; Agnew et al., 1986)のデータを使って行われるようになったが(Beroza and Jordan, 1990)、その信号(S&SEQ? : Slow and Silent Earthquake?)レベルは図1に示されるように大きくても1 μGal程度(具体的な周期は不明)と思われている。Resolution of SG-dataで示される雑音レベルが0.5~1 nGalで、広い周期帯域に渡って安定して高感度が保たれていることから、SGはこれら未知の現象の検出に、より適している.さらにSGはSlichter (1961)が予言した地震による内核の振動 (Slichter mode) を検出できる可能性を秘めている。その振幅(図1のST&CGM: Slichter mode and Core Gravity Mode)は数nGal程度はあり、S/N比が2~3あるかもしれない。そのため、ヨーロッパ・北米が先行して観測点を展開した経緯がある。単一観測点の地震/重力観測データを用いてSlichter modeを検出したと主張する論文がいくつか出たが(例えばMelchior and Ducarme, 1986)、周期・振幅を説得力を持って確定するには現在(2013年)も至っておらず、複数の観測点のデータstackingにより検出する目論見もあって、図2の国際観測プロジェクトGGP (Global Geodynamics Project, Crossley et al., 1999; http://www.eas.slu.edu/GGP/ggphome.html) の第1フェーズ(1997年7月開始)に発展した.

note21_図02
図2. 2000年代初期のGGP観測点.赤丸はGGP-Japanネットワークの観測点を示す.

実は図2の赤丸は日本が開始したSG観測点である。広い緯度範囲をカバーしていることに注目してほしい。SG観測の主要なターゲットである、地球回転や地球自由振動、そして地球流体核の運動に伴う重力変化のように、振幅が1μGal以下の現象(図1)の検出信頼度を上げるためには、南北方向の変化(緯度依存性)を知ることが重要である。日本のSG観測ネットワーク(GGP-Japan ネットワーク)の構想自体は1980年代後半、文部省重点領域研究「地球中心核」の研究会における議論に遡るが、緯度範囲を広げるための最初の海外観測点として、1993年、第34次隊によって世界に先駆けて南極・昭和基地でのSG観測を開始したわけである。これについてはNo. 22のノートで詳述する。GGP-Japanネットワークは、国内の江刺,松代,京都のほかに、その後、北極・ニーオルスン,インドネシア・バンドン,オーストラリア・キャンベラにも広がり2000年代初期には計7箇所の観測点で構成され、緯度範囲が±70˚に広がった。



3. GGP第二フェーズ

1990年代後期から2010年代にかけてGGP Global Networkはさらに拡大し、2010年現在、図3のような構成になっている。その目的とする中心課題には若干の変化が見られる。2000年代前半よりGRACE(Gravity Recovery And Climate Experiment)衛星などの重力観測衛星による非潮汐性(Non-Tidal)重力変動と関連した水循環監視が世界的に重要なテーマになった。熱帯雨林の雨季・乾季による降水の季節変化、氷床融解による南極・グリーンランドからの氷質量の流出は表層水質量の移動なので時間的な重力変化が伴う。この重力時間変動の研究においては、地上検証が必要で、GGP国際観測網による地上重力の連続監視の重要性が認識されたからである。GGP Global Networkは2007年,イタリア・ペルージャで開催されたIUGG(国際測地・地球物理学連合)総会に合わせて開催されたIAG(国際測地学協会)会議において、第2委員会(地球重力場委員会)と第3委員会(地球回転・地球力学委員会)の共同プロジェクトに位置づけられ、以後、第2フェーズとして活動が続けられている。

note21_図03

図3. 2010年現在のGGP観測点の配置図(GGPホームページより複製)。



4.地球流体核の運動に伴う重力変化

SG観測で期待されているものの主要課題はやはり、地球流体核の研究である。地球流体核は、地球半径の約半分を占める地球最大の流体部分である。その運動には形状,密度分布,温度分布,ダイナモ運動,流体核上部での磁場強度分布,粘性等が関係しているが、それらに関係した物理パラメーターの取りうる範囲を拘束するうえで、自由コア章動(FCN: Free Core Nutation)、コアアンダートーン(流体核の浮力振動)、そしてSlichter3重モード(内核の並進運動)の実測は貴重なデータを提供する。

FCNは流体核の回転自由モードである。流体核とその容器であるマントルはそれぞれが回転運動をしている。流体核はマントルとは別の回転軸で回転をすることが出来る。流体核の回転による遠心力で、核-マントル境界(CMB:Core-Mantle Boundary)には、それを外向きに押す力が働いている。流体核の形状軸(最大慣性モーメントの軸)が自転軸と一致しているときは、この力は形状軸に対称な分布をするが、なんらかの原因で形状軸と回転軸の方向がずれると、力の分布は形状軸に対し非対称になる。この非対称な力で発生するトルク(偶力)は慣性結合トルクと呼ばれ、軸のずれを元に戻す(形状軸を回転軸に近づける)向きに働く。一般に、回転体は、その方向も含めて、回転を維持しようとする性質がある(慣性の法則)。このため、マントルの形状軸が空間に対して傾くと、マントルは、CMBを介して流体核に自分の形状軸と同じ方向に傾けようとするトルクを及ぼすが、逆に,流体核はその回転を保とうとするため、それに逆らうようなトルクをマントルに及ぼす(作用・反作用の法則)。ただし、トルクが働くためには、CMBが楕円体の形状をしていることが条件で、形状が球対称な場合は、トルクは作用しない。慣性結合トルクにより起こる自転軸のふらつきは、軸が傾いていることで発生するもので、傾きを維持する強制的な外力がなければ、一度押されたブランコが一定の周期で揺れるように、系の固有周期で振動する(自由章動)。  

ブランコをその固有周期に合わせて押すと、揺れの振幅が増大する。良く知られた、共鳴と呼ばれる現象である。地上観測では、自由コア章動の固有周期が1恒星日に近いため、1日に近い周期を持った外力(日周潮汐力)で揺すられるとき、共鳴を起こす。このため、地球の回転軸の揺れである章動や、地球潮汐による重力変化や変形にも共鳴的な振幅変化が現れる。これが流体核共鳴(FCR:Fluid Core Resonance または Free Core Resonance)と呼ばれる現象である。周期について注意しなければならないのは、「何に準拠して測られているか」である。VLBIのように星を基準にした観測では、FCNの固有周期は約340日(対空間周期)であるが、地上に置かれた重力計の観測ではFCRの影響は約1日の周期(対地球周期)で観測されるため、準日周自由遥動(Nearly Diurnal Free Wobble)と呼ばれることもある。

ここで、減衰調和振動による共鳴モデルを考え、複素化したFCR共鳴角振動数を

note21_図04 (1)

と置くことにする。jは虚数単位である。f0 は共鳴周期でQ-1が小さいほど、ω0 近辺で急峻な共鳴になる。観測で求められる重力δファクターを共鳴曲線に当てはめ推定する時、δファクターの推定値が一番安定し、かつ、共鳴周期から離れているO1分潮 (角振動数ω1)を基準にとり、各分潮の共鳴強度の偏差

note21_図05 (2)

が推定すべき共鳴モデルである。当てはめるべき分潮は角振動数の低い方からO1 (i = 1), P1 (i = 2), K1 (i = 3), Ψ1 (i = 4), Φ1 (i = 5)の5つになる。F(ωi)を複素分潮アドミッタンス(Complex Tidal Admittance)と呼び、Gが共鳴の強さである。

SGで観測されたFCRの具体例を図4に示す(Sato et al., 2004).左はGの虚数部(imaginary part; Gi)、右は実数部(real part; Gr)を示している。横軸は恒星日で計った周期である。この図から共鳴周期がΨ1潮のそれに近いことがわかる。

note21_図06 note21_図7

図4. 世界の4箇所のSGで観測された日周潮汐のアドミッタンスと共鳴曲線。 ESS:江刺,日本,CAN:キャンベラ,オーストラリア,MAT:松代,日本,MEM:メンバック,ベルギー。 点線:観測から求めたFCRパラメータの最適解を使って計算した共鳴曲線。


共鳴の鋭さ(振動の減衰の小ささ:Q-1)は、1周期当りの振動エネルギー損失割合の逆数であるが、図4から求められたQ値は数千になる。地球規模の振動であることを考えると、FCRはエネルギー損失の小さな鋭い共鳴であることがわかる。(2)式は非線形方程式であり、分潮数も5と少ないので、安定な解を得るためには、解法上の工夫が必要である。誤差バーからもわかるように、振幅の大きいP1,K1の共鳴強度の決定精度は高いが、共鳴周期に近いΨ1潮の振幅は小さく、それに伴い観測点によって最確値が異なり、誤差バーも大きく、共鳴周期、Q値を決定する際の誤差要因になっている。このあたりの詳細には触れないが、FCRは全球的な現象で、そのパラメーターは本来、場所依存性を持たないはずである。従って、地理的条件の異なる多くの観測点のデータを合わせて解析し、精度を上げることが可能なはずである。

理論研究によると、FCNの固有周期を決めている第1義的パラメーターは、CMBの扁平率である(Sasao, Okubo and Saito, 1981)。VLBIで観測されたFCRの固有周期と静水圧平衡形状を仮定した地球の理論値との差から、CMBの形状が、平衡形状より山谷の大きさで約500 mの差(割合で言うと0.5 km/3000 km = 1/16700)があることが発見された(Gwinn et al., 1986)のは有名な話である。一方、固体潮汐パラメーター(Love数h, kと志田数l)がCMBでの密度のコントラストに敏感なこと(大久保,1982)、FCRパラメーターがCMB直下の薄い層の密度に大きな影響を受けること(Wahr & de Vries, 1989;de Vries and Wahr, 1991)が予測されている。FCRの観測は、CMBの形状、核の密度構造、また、CMBでの核とマントルの電磁気的、力学的な結合強度の拘束条件に関する貴重なデータをもたらす。一方、コアアンダートーンやSlichterモードの観測は、それらの固有周期(ブラント・バイサラ周期)が、流体核の成層構造の安定性(密度の半径方向の分布で決まる)や温度勾配に関係しており、これらの観測も核の内部構造、運動の研究にとって重要である。

これまで地球内部構造についての第1級の情報を提供してきたのは、主としてブロードバンド地震計国際観測網(FDSN: Federation of Digital Seismic Network)によるデータである。しかし、核に関しては弱点がある。それは、S波の情報が無いこと、また、上記3つの固有振動の周期が5時間以上と考えられているのに対し、地震計の周波数特性が約0.3mHz以下(周期で約1時間以上)の帯域で感度、安定性が低下することである。さらに、地震データの解析から直接得られるのは地震波の速度構造であり、それは弾性定数と密度の関数になっている。従って、地球内部の密度構造については、物質の状態方程式などを援用して間接的に推定しており、地球中心部に近づくにつれ推定精度は低下する。一方、重力信号は遠方まで遮蔽されることなく伝播するという特性がある。SGによる観測は、そのきわめて高い感度と安定性から、核の構造や運動についての直接的な情報をもたらし得る可能性が高い。

FCRについては、時間スタッキングが効くこともあり、VLBIやSGの数年以上のデータを使った解析から高い精度で共鳴周期や、共鳴の強度が決定できるようになった。しかし、時間スタッキングが効かない、コアアンダートーンやSlichter3重モードの観測については、いまだ確たる検出が出来ていないのが現状である。検出を阻害している一因に、期待される信号レベルが小さい(理論的予測では1nGalのレベル)こともさることながら、広い周波数帯域にわたる、気圧、気温等の気象的擾乱、それにリンクした海洋変動による雑音の影響が大きいことがあげられる。



5. 高緯度観測の意義

昭和基地(69˚S)のような高緯度地帯での観測は、地理的制約もあり、その遂行に特有の困難さが伴う。しかし、各種観測が不足している故にそこでの測地・地球物理観測は重要である。SG観測に関連する極域での特徴として、例えば、長周期潮汐の振幅が大きいこと、海氷や氷河の運動に伴う重力変化が予見されることが挙げられる。これらの現象は地球の粘性と深いかかわりを持っており、中緯度での観測、また南極と対で行われている北極ニーオルスンでの観測(1999年9月観測開始)と比較し、議論することが有意義であろう。

昭和基地でのSG観測は20年目、ニーオルスンでの観測も14年を経過した。極運動の主要成分には年周(12ヶ月)とチャンドラー周期(14ヶ月)の2つの運動が重なっていて、それを分離するためには最低6年のデータが必要であるが、これはすでに実現している。高緯度と中緯度での観測結果の比較は面白い研究テーマである。SG観測データを調べつくしたとは言い難い。流体核の運動に関する信号はS/N比が小さく、参照すべき事象自身が理論的に確定しているわけではないので探索に手間がかかるが、南北両極のSGデータを比較観測するなど、Global Netデータを丹念に調べると新たな発見があるかもしれない。


謝辞:このノートをまとめるにあたり、名和一成氏のコメントが有益であった。



参考文献

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Q and A

Q1: マイスナー効果についてもう少し詳しく説明して下さい。
A1: ドイツのマイスナ―(M. Meisner)とオクセンフェルト(R. Ochsenfeld)が1933年に発見した超伝導体に固有の現象です。超伝導状態にある物体の内部の磁束密度が常にゼロになる現象で、完全反磁性とも言われます。場の磁場とマイスナー効果で超伝導体表面にできる磁場が反発することで、超伝導体は浮上(磁気浮上)します。マイスナー効果が見られるのは弱い磁場の場合です。詳しくは参考書、例えば「超伝導入門」A.C.ローズ・インネス、E.H.ロディリック著、島本進、安河内昴訳、産業図書株式会社、を読んで下さい。
なお、SGで使われているのは第一種超伝導体と言われるもので、磁場は表面から少し内側(約10-6 cm)に入り込んでいて、その侵入深さは温度により変化します。侵入深さが変化すると磁気浮上力も変わり、超伝導体の位置が変化します。SGではこれを防ぐため、センサーユニットを高精度で温度制御しています。



Q2: 地球自由振動はチリ地震の際に観測されたとのことですが、どうやって判ったのですか?
A2: 1960年5月22日発生したチリ地震の励起した地球自由振動について、1961年のJGR vol. 66に3本の論文がまとめて掲載されました。

Benioff et al. (1961)はIsabella (California)と、Nӑnӑ (Peru)に設置されていた歪み計、Pasadena (California)のGilman型振り子地震計データのパワースペクトルを計算しました。そして、理論的に予測された固有周期と合致する伸び縮み、ねじれの両振動モードを検出しました(理論予測についてはノートNo. 2を参照)。次数38(固有周期3.7分)までのすべてのモードが検出できたとのことです。また、0S2の理論予測である周期53.7分に対してスペクトルピークは54.7分と53.1分の2つに分裂し、地球回転効果が検出されたとのことです。下に、低周波地球自由振動モードの図を示します。

note21_図08note21_図09


Ness et al. (1961)はLos Angelesに設置されていたLaCoste-Romberg型重力潮汐計の1分サンプリングデータ(4.6日間記録)をスペクトル解析しました。0Sl (l = 2, ..., 41)の伸び縮み振動モードの観測周期はGutenbergモデルの理論予測周期と1%以内の誤差で一致したとのことです。また、0S2, 0S3, 1S3について地球回転効果によるピークの分裂が見られたほか、いくつかのモードで第一、第二高調波が見つかったということです。

Alsop et al. (1961)はOgdensburg (New Jersey)に設置されたひずみ計、New York Palisadesの振り子式地震計データを解析し、伸び縮みモードについては0S2から0S34まで、ねじれモードについては1T2から1T9まで、及び0S2の第一高調波を観測できたと述べています。

Benioff et al. (1961), Ness et al. (1961)ともにスペクトルのピーク幅から減衰パラメーターQ値を推定していますが、どちらも低次(l ~ 2)では約400、高次(l ~ 18)では約200と求めています。Ness et al. (1961)は0S0についても言及し、Q~数1000で、地震後1ヶ月経っても観測できたと述べています。

理論予測との一致に関してBenioff et al. (1961)はBullen Bモデル、Ness et al. (1961)はGutenberg モデル、Alsop et al. (1961)はGutenberg-Bullen A モデルとの一致度が良かったと述べていますが、モデルの精度を検証できるほどの精度はなかったと解釈できます。

Benioff, H., Press, F., Smith, S. (1961): Excitation of the free oscillations of the earth by
earthquakes. J. Geophys. Res., 66, 605-619.
Ness, N.F., Harrison, J.C., Slichter, L.B., (1961): Observation of the free oscillations of the
Earth. J. Geophys. Res., 66, 621-629.
Alsop, L.E., Sutton, G.H., Ewing, M. (1961): Free oscillations of the Earth observed by strain
and pendulum seismographs. J. Geophys. Res., 66, 631-641..

なお、このチリ地震による地球自由振動は、京都大学のAskania Gs-11重力計でも記録されていて、西村ら(1961)、竹内ら(1962)が解析結果を報告しています。当時の計算機能力と使用制約(課金)から、アメリカの3論文に比べフーリエスペクトル計算に使ったデータ数に制限があり(約10分の1)、計算方法にも特殊な工夫を必要としています。得られた固有周期の値そのものに大きな差はありませんが、次数2~10の伸び縮み振動モードの検出に限定されています。

西村英一・中川一郎・細山謙之輔・斎藤正徳・竹内均(1961):重力計に記録された地球振動、
地震、14, 102-112.
竹内均・斎藤正徳・小林直太・中川一郎(1962):重力計に記録された地球振動、地震、15, 122-125.

SG観測は、地球自由振動モデルの精度検証についても威力を発揮しています。例えば、Rosat et al. (2008) は、ストラスブール(フランス)、キャンベラ(オーストラリア)のSGで観測された、2004年12月27日に発生したスマトラ-アンダマム地震(Mw9.1)のデータをスペクトル解析し、0.02から0.08 mHzのサブサイスミック周波数帯域で、理論ではモデル化されていないピークが在ることを発見しています。一方0S0のQ値が大きいことは、キャンベラのSGデータを使った振幅変化が90日以上に渡って観測されたこと(下図)からわかります。SGのノイズレベルを考慮すると、翌年の3月28日に同地域で起こった余震でリセットされなければ、その終焉まで追跡できた可能性があります。

note21_図10

(作図:国立天文台 田村良明)


Rosat, S., Fukushima, T., Sato, T., Tamura, Y. (2008): Application of a non-linear damped
harmonic analysis method to the normal modes of the Earth, J. Geodyn. 45(1), 63-71.



Q3: silent earthquakeとはどのような地震ですか?またどうやったらsilent earthquakeだとわかりますか?
A3: Beroza and Jordan (1990)はゆっくり地震(slow earthquake)とサイレント地震(silent earthquake)について次のように述べています。
「地震は普通、速い速度の破壊伝搬を伴い(従って高周波実体波を伴う)、その速度Vc はS波速度より少し小さな値(~3 km/s)である。そして、Vc ~ Lc/τc (Lcは特徴的な断層の長さ、τcは破壊の開始から地震エネルギーが最大規模で放出されるまでの時間)の関係がある。Lc = 300 kmであれば従ってτc = 300 km/3 km/s = 100 sで1000 kmの巨大地震でも300 sで10分を越えることはまず、無い。しかし、実際には、地震の規模(全体の地震モーメント)に比べ、低周波振動の励起が異常に大きな地震が存在する。」
その、具体例としてVc = 200 m/sだった1946 Aleutian Islands Earthquake(Kanamori, 1972)の津波地震を引用しています。このようなVc = 100 m/s ~1 km/sで特徴づけられる「ゆっくり地震」に対して、さらに低速の破壊伝搬で、遠地地震として検知できる地震波の放出がなく、従って地震カタログにのらないsilent earthquake (Vc = 10 mm/s ~10 m/s)も存在し、例としてSan Andreas断層でのクリープ(Sholz et al., 1969)を引用しています。

Beroza and Jordan (1990)は、ある地点の0S8から0S43までの自由振動の固有周期を含むバンド幅内の地動エネルギー密度を計算し、その地点の雑音レベルと比較して、IDA網の10地点で偶然に同じモードが励起される可能性を統計的に(F検定で)排除する方法で1978-1979年データから、1978年2月21日Banda Sea地震など15個の「ゆっくり地震」が、海洋性トランスフォーム断層で起きたとしています。また、99.9%確実なsilent earthquakeの候補として、1979年7月19日15 hUTなど27のイベントを挙げています。しかし、検出手法からくる制約上、場所と発震時刻の特定はしていません。その後、三陸沖のプレート間地震でτc = 1 dayにもなるultra-slow~silent earthquakeの例(Kawasaki et al., 1995)が見つかっています。モードバンドの地動エネルギー密度計算や統計的検定の詳細はBeroza and Jordan (1980)の本文を参照して下さい。

Kanamori, H., (1972): Mechanism of Tsunami earthquakes. Phys. Earth Planet. Inter., 6,
346-359.
Kawasaki, I., Asari, Y., Tamura, Y., Sagiya, T., Mikami, N., Okada, Y., Sakata, M., Kasahara,
M. (1995): The 1992 Sanriku-Oki, Japan, ultra-slow earthquake. J. Phys. Earth, 43,
105-116.
Scholz, C.H., Wyss, M., Smith, S.W., (1969): Seismic and aseismic slip on the San Andreas
fault. J. Geophys. Res., 74, 2049-2069.



Q4: 極運動とは何ですか?また、チャンドラー周期とは何ですか?
A4: 地球の自転軸は地球弾性体について固定した位置にあるのではなく、真の北極は約428日の周期(これを発見者にちなんでチャンドラー周期と呼ぶ)で絶えず反時計回りに廻っていることが判っていて、これを極運動と呼んでいます。極運動は複雑な運動で、予測が難しく、いろいろな観測所のデータをもとにIERS (International Earth Rotation Service)が、結果としての極位置データを公表します。その運動は1年周期と1.2年周期が重なったものです。極運動の原因は完全に解明されたわけではありませんが、1年周期は「大気・水圏の季節変化に伴う地球表層の質量分布変動や角運動量変動に伴う強制振動」、1.2年周期(約435日)は「何らかの外力で励起された自由振動の固有周期」と考えられています。極運動の精密な予測は、電波の往復時間が大きくなる惑星探査衛星の制御では、その成否に関わっており、大気・海洋の運動も考慮した、予測の高精度化が研究されています。より詳しい説明は測地学会のweb-text
http://www.soc.nii.ac.jp/geod-soc/web-text/を読んで下さい。