南極地球物理学ノート No. 11 (2012.03.04)

20年間に見る氷床上人工地震実験の変遷とこれからの氷床上地震観測


澁谷和雄・金尾政紀

Keyword: 南極・みずほ高原, 人工地震実験, GPS 時計, 合成地震波形記録, 波線追跡法, はぎとり法



1.まえがき

JAREでは三隊次で大規模な人工地震実験を行っている。第21次越冬隊では1980年10月中旬から野外オペレーションを開始し、観測点展開から発破実施、撤収までの3ヶ月間に3回のshot (2回は氷床上、1回は海中)を実施した。その時の観測点配置とshot位置は南極地球物理学ノートNo. 10の図1に示されている。その後しばらく人工地震実験は行われなかったが、20年後の2000年1月に第41次夏隊がほぼ同じ測線上で、6回(S-1からS-6)の中・大発破を実施した。第41次隊の発破点及び観測点位置を図1に示す。

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図1.  第41次隊の人工地震実験での発破点(星印)及び観測点(白丸)配置。
宮町他(2001)による。

近年、夏隊の行動期間は約40-50日で、この日数が夏期野外行動の最大制約要因になっている。第21次隊のオペレーションについては伊藤他(1983)が、第41次隊のオペレーションについては宮町他(2001)が詳細な報告をしており、ここでは両報告をもとに、20年間での機器の進歩などを概観する。そのうえでさらに10余年経過した2012年3月現在における、今後の氷床上地震観測のあり方を考察する。

図2aは第21次隊が1981年1月12日に実施した海中爆破(3 t)によって得た合成地震波形記録である(Ikami et al., 1984)。図2bは、第41次隊が2000年1月28日に実施した、雪中ボーリング孔に充填した火薬(610 kg)の発破によって得た合成地震波形記録である(Tsutsui et al., 2001)。第41次隊実験では、観測点間隔が1 km間隔へ

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図2a.  1981年1月12日に実施した海中爆破(3 t)で得られた合成地震波形記録(Ikami et al., 1984による)
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図2b.  2001年1月28日に実施した雪中ボーリング孔爆破S-6 (610 kg)で得られた合成地震波形記録(Tsutsui et al., 2001による)

と観測点密度が第21次隊当時と較べ10倍になっているが、測線長は180 kmと第21次隊の実験に比べ90 km短い。



2.地震計

両実験ともにMark Products社製のL-22D上下動1成分センサーを使用している。固有周波数は2.2 Hzで、アルミ製のスパイク(六角形、1辺26 mm)にねじ込み、スパイクを垂直に雪中に突き刺し埋め込んだ。スパイクの長さは第21次隊では1 m、第41次隊では約40 cmであった。長いほうがセンサーの傾きを抑えられるが、40 cmであっても、目分量・手の感触で傾きによるコイルの引っかかりがないように設置できた。



3.記録用データレコーダー

第21次隊ではオーディオ用オープンリールテープを約0.24 mm/sの低速で送り、直接アナログ録音方式(DAR: Direct Analog Recording)で録音した。録音ヘッドは4 chで、3 ch分に対してアンプゲインを30 dBから120 dBまでの10 dBステップ刻みで設定できるようにして、発破点からの距離を考慮して3つのゲインを選んで録音した。残り1 chには内蔵水晶時計の時刻コード(IRIG-B相当の秒マーク、分・時・日コード)を記録した。DAR方式なので、平坦な周波数特性にはならない。およそ1 ― 10 Hzの帯域をカバーするものの波形の厳密な比較には使えない。標準7号リールの150% thin tapeの場合、連続記録日数は26日である。途中でのテープ停止・再起動ができないので、この間に予定した発破をすべて終えなければならなかった。図3は使用したDARレコーダー(勝島製作所CJ-101S)である。

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図3.  第21次隊の人工地震実験で使用されたDARレコーダー。(a)正面:4 chのゲイン設定スイッチが見える。(b)側面:電源供給、子時計出力、信号レベル較正入力の3つの端子が見える。

第41次隊では、プログラム起動方式のデジタル波形収録装置(白山工業DataMark LS-8000SH)により、A/D変換したEvent波形を記録した。チャンネル数は2に固定し、ch 1は900倍、ch 2は30倍の増幅率に設定した。sampling rateは200 Hzである。また、60 Hz cut-offのlow-pass filterを通している。2000年1月3日から2月5日までの全28日間について、1日3回の記録ウィンドウ(09:00, 17:00, 19:00 LT)を開け、00分00秒から04分20秒までの260 sの記録ができるようにした。shotはいずれの場合も01分00秒に行ったので、十分なlead timeが確保できている。必要メモリは260 s x 200 samples x 2 ch x 3 times x 28 days ~ 9MBになるが、全体のメモリ容量が20MBなので十分対応できた。



4.電源

第21次隊では金属亜鉛燃料電池(三洋電機:12Z-200H)を使用した。これは注水電池で、観測点現場で電極を組み立て、水を注いで起動できる。12V, 200Ahの電池を1観測点につき1-2個使用した。DARレコーダーを保温するために、その上ぶた内側にパネルヒーターを取り付けていた。容量的には26日間の連続運用が十分可能だが、100 mA以下の小電流で使用していると電解液が凍結する場合があった。また、実験後、電解液を掘った雪中孔に流し込んだが、2012年現在、このような対処は環境保護対策の面から認められていない。回収した電極を段ボール内に混載したところ、発熱による火災発生で橇が焼損するなど、思わぬ事故も起きた。

第41次隊ではサイクロン電池(6V, 16 Ah)1セットを使用した。メモリ収録でDARレコーダーのようなモーター駆動部がないことが省力化につながった。また、使用電子部品の低温性能も全般的に向上したので、保温用ヒーターは不要であった(低温室試験は実施している。実際の使用時の最低気温は-32˚C)。単純に言うと20年の進歩で使用電力を2~4/100に抑えられたことになる。



5.保温箱

第21次隊の場合、ジュラルミントランク製のDARレコーダー(図3)を雪面に直置きするわけに行かず、保温箱が必要であった(図4)。外側のベニヤ板を耐水性にして内側にウレタン材を詰めてアルミ板で囲い二重構造に仕上げている。外形は 90 cm x 80 cm x 83 cmにもなったが-40˚Cでの作動に問題は生じなかった。

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図4.  第21次隊が使用したDARレコーダー及び電池を入れる保温箱。
燃料電池から水素が発生するので、「息抜き」パイプが必要であった。

第41次隊ではプラスチック製の中空箱に型抜き発泡スチロールを詰め、地震計、デジタル波形収録装置、電源、金属スパイク、GPSアンテナを固定収納して輸送した(図5)。容積は 36 cm x 27 cm x 27 cmの小段ボールに重ねて2セット入る大きさである。

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図5. 第41次隊の人工地震実験で使用されたデータ収録装置と地震計一式を収めたプラスチック箱は36 cm x 27 cm x 27 cmの段ボールに縦積みで2個入る大きさだった。


6.観測点の展開

第21次隊では15名の隊員がSM50型雪上車5台、居住カブース3台、橇15台を使用した。27点の観測点設置は2-3班に分かれ2週間(shot 17のみずほ爆破の場合11月6-21日)で実施した。各班の時刻較正用親時計を比較する(後述)ため、毎回の爆破の前後でチームの合流が必要で複雑な行動形態になっている。爆破作業は別班編成で実施した。

第41次隊では2000年1月1日~8日の約1週間で160の臨時観測点を設置している。2班編成でSM100型雪上車2台(4-5名)による測線班と、SM100型雪上車2台(5-6名)による震源班からなる。測線班は重力測定も実施した。



7.位置決定と時刻較正

両隊次での大きな相違は位置決定と時刻較正の方法である。第21次隊の場合、南極地球物理学ノートNo. 10で述べたように、位置決定にはNNSS受信機を利用した。ポラ
リス原子力潜水艦の場合は浮上時に1パス受信するだけでも数マイルの誤差で大体の位置が出せるが、我々の場合、人工地震実験での位置決めなので、最低3パス受信での20~30 m精度を目指し、滞在時間は最低2-3時間必要であった。

氷床上では8 MHzや10 MHz JJYがShanghai (BPV), Hawaii (WWWVH)などの標準電波と混信したり、電離層擾乱の影響で受信できなかったり、使えないことが多い。NNSS衛星の発振time mark (BEEPER; 南極地球物理学ノートNo. 9参照)はUTCに対して±200 μsの同期精度があるので、その受信time markと同期した時刻コードを生成できれば、DARレコーダーの時刻較正に使用できる。しかし、位置決定に使用し たJMR-1はそのような時刻コード出力を持たないので、船舶用の400 MHz一波受信機(JLE3300, 日本無線(株))を改造してBCD code出力装置を作成した(recovered UTC装置と呼んだ。Shibuya and Kaminuma, 1982)。図6(a)はその装置の外形で、図6(b)は帰国後、JJYと並べてvisigraphに出力して同期を検証した例である。このrecovered UTC装置のclock rateは100 Hzで、JLE3300内部クロックの同期に対して1 clockの遅れ(10 ms)を見込むと、それより良い同期は原理的には得られないはずだが、実際の測定によると±5 ms以内の誤差に落ち着いていた。しかし、残念ながら、recovered UTC装置は1台しかないので、この同期BCD code時計をDARレコーダーのch 4に連続記録はできない。そこで、当時良く使われていた方法として、恒温槽入り水晶原振をもつ親時計(ドリフト率10-8~3 x 10-9)を各班用意して、このrecovered UTC装置で校正し、なおかつ、DARレコーダーのBCD出力(子時計)と親時計のBCD出力を並行記録する操作を、日にちを空けて繰り返し、子時計のドリフト率を決めるクロノグラムを作成して爆破記録時のtime codeのUTCからのずれを各DARレコーダーについて求める2段構えの較正方法が必要であった。

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図6a.  船舶用一波(400 MHz)のNNSS受信機(JLE3300:左側)を改造してrecovered UTC装置(右側)からBCD出力を得た(Shibuya and Kaminuma, 1982)
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図6b.  JJY 8MHzとrecovered UTCのBCDコード出力の同期検証。JJYに対して±5 msに収まった。出発前、現地、帰国後に、いずれも多数回比較したが、報告用の並行出力は帰国後のものしか残っていなかった。

第41次隊の場合、既にGPSシステムがフル運用に入っていて、昭和基地、Mawson基地など、IGS基準局からの相対測位が可能だった。衛星受信数が8以上の状態で、30秒サンプリングデータを20分間二周波受信すれば誤差0.1” (1-3 m)以内の位置決定は容易だった。また、データロガーは専用のGPS時刻校正機能を持っていて、衛星lock-onは即ち、収録機器内部時計がGPS時刻と1 ms精度で同期することを意味していて、全観測点の時刻同期が自動的に保証された。



8.記録再生

第21次隊のDAR記録テープは通常のオーディオレコーダーで再生(記録時の約400倍速)するので、周波数帯域は400 Hz – 4 kHzの可聴音になる。音を聞きながら判別した爆破相当部分をFMレコーダー(TEAC-R210A)に高速録音し低速で再生して可視記録を得た。実際に多用したのはFMテープを記録時の100倍で再生し、Nicolet製デジタルオシロスコープでA/D変換し、付属のミニフロッピーディスクに記録する方法である。これをX-Y プロッターに出力し合成波形記録(図2a)を得た。27台のDARレコーダーの同期を取るためには前述クロノグラムの補正情報に応じたプロッター出力の頭合わせが必要で煩雑な作業であった。

第41次隊の場合、当初から時刻同期したデジタル記録が得られたので、PCによる簡便な再生処理作業で合成波形記録(図2b)を得ることができた。



9.発破作業

第21次隊の氷床上大発破は2回(shot 17, 18)で、いずれもメカニカルドリル(口径14 cm)を使用した。以下、伊藤他(1983)を引用しつつその概要を記す。

H231におけるShot 18用孔については1980年10月17日にボーリングを開始し、25日、100 m掘った時点で終了した。その後、みずほ基地南方のZ102に移動し、10月28日にshot17用孔の掘削を開始し、143 m深度に達してウィンチ・ワイヤーが伸びきった11月5日、完了した。作業日数はいずれも8-9日であった。

Shot 17 (1.4 t)では11月12日、発破班5名、みずほ基地滞在者3名により、爆薬の開梱、装填作業を並行して行った。増ダイの装填はポリチューブを孔中に入れ、その中を落下させる方法で行ったが、3本落としたところで、ポリチューブが破れ、30 mの深 さでひっかかり、孔が詰まった。このため、みずほ基地で釣り針を作成し、孔中の爆薬とポリチューブを釣り上げ回収し、事なきを得た。孔径14 cm、深さ143 mに1.4 tの爆薬を詰めると残孔長は12 mと計算されるが、実際の残孔長は82.6 mであり、薬長は1/2に縮んだことになる。これはボール紙の包装が破れ、孔中一杯に広がって爆薬が詰まった状態とほぼ同じと思われる。親ダイはロープで吊るし静かに装填した。すべての準備作業は17時05分終了し、予定より2時間遅れの18時00分に爆破を実施した。雪塊を孔中に投入し封圧をかけたが、図7aのように噴出物を吹きあげた。Shot 18 (1.0 t)の発破では、装薬作業を11月15日に開始し、ポリチューブを孔の端に寄せ、その中を自由落下させる方法で装填した。作業は順調に進み、15時15分完了、16時00分予定通り爆破を実施した。

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図7. (a)のように第21次隊のshot 17 (1.4 t)でも、(b)のように第41次隊のshot S-5でも、発破後、残滓が噴出した。両者とも”絵”にはなるが、発破の「効き」にとっては、良いことではない。

第41次隊は中・大発破(薬量250 - 610 kg)を6回実施した。以下、宮町他(2001)を引用しつつ、その概要を記す。

掘削にはスチーム噴出式氷床掘削ドリルを使用している。発破孔のサイズは直径25-30 cm、孔長が24.0 - 27.6 m (平均26 m)であった。1ヶ所の掘削に要した時間はおよそ10時間であった。火薬が収まった長さは4.3 m (250 kg) - 14.0 m (570 kg)である。装填した火薬の最上部の地表面からの深度は12.6 m - 21.1 mで、それ以浅の空隙には不凍液あるいは雪塊、ないしは両者の混合を封入した。これらtamping材による発破の効き方に違いが出た。開放あるいは液封のみの状態では「鉄砲」となって噴出し(図7b参照)、効きが悪かった(地震波エネルギーへの変換効率が悪かった)。雪封あるいは不凍液と雪塊の混合材の場合は効きが比較的良く、発破孔からの排出物は皆無であった。しかし、浅いフィルン層内での発破はtamping材を工夫しても一般に効きが悪く、約600 kgクラスの発破だと、明瞭に初動が判別できるのは良くて120 kmまでの範囲であった。

掘削効率の点からはメカニカルドリルよりスチームドリルの方が優れている。しかし、スチームドリルが有効なのはフィルン層(約30 m深度)までであり、それ以深の掘削ではとたんに効率が悪くなる。密度が確実に0.9 g/cm3になる100 m深度の氷化層へ爆薬を装填するためには、現状ではメカニカルドリルが必須と言える。



10. これからの氷床上地震観測

南極域での野外地震観測は、設営的な労力に見合う成果を事前に期待されるようになった。10-20年前は氷床上人工地震実験はリスクはあるがchallengingと言って良かった。

しかし、海中爆破が事実上不可能となり、火薬輸送の手間、専任危険物取扱発破士の確保、氷床ボーリングの労力、地上雑音レベルが風速という自然条件に左右される、求められる環境保護対策などを総合的に考慮すると、決して割の良い実験とは言えなくなって来た。

一方この間、データ収録機器、時刻校正、観測点位置決定の面では各段の進歩があった。20 Hz sampling x 2 byte (24 bits) x 3600 s x 24 h x 60 d = ~207 MB < 1 GBなので、容積が図5程度の機器であっても1 chあたり約2ヶ月間の20 Hz サンプリング連続データ収録が可能である。以前は手間のかかったUTC時刻合わせもGPS時計の組み込みで簡便に行えるようになった。震源として人工地震ではなく遠地地震を当てにした場合、これまでの経験からすると夏季の2ヶ月で収録できる地震数はマグニチュード5クラスについて約70 event、6クラス以上で約5 event、深さ500 km以深で約11 eventにのぼる (1998-2003年のJARE Data Reports Seismologyによる)。走時・波形解析の前処理も不要である。遠地地震を対象にするとセンサーを固有周期10-20 sの上下動一成分あるいは水平動二成分を合わせた三成分地震計に振り替える必要があるが、P, S, PKP, SKS, PcPなどいろいろな相が記録できる。センサー設置、データ収録装置設定と起動、位置決定は1地点あたり3時間あれば出来るであろう(センサー設置の穴掘りに一番時間がかかる)。10 km スパン200 km長のクロス測線の場合、設置する計40地点の機器を4人チームで展開・撤収できる。1シーズンで地殻・マントル上部のP, S波速度構造やSKS splittingなどの媒質異方性に関する地域的な特徴(200 km四方)を十分把握できると思われる。



引用文献

Ikami, A., Ito, K., Shibuya, K., Kaminuma, K., 1984. Deep crustal structure along the
profile between Syowa and Mizuho Stations, East Antarctica. Mem. Natl Inst. Polar
Res., Spec. Issue, Ser. C (Earth Science) 15, 19-28.

伊藤潔・伊神輝・渋谷和雄・神沼克伊・片岡信一(1983):南極における人工地震観測の概要(続)、
南極資料、第79号、107-133頁。(Ito, K., Ikami, A., Shibuya, K., Kaminuma, K., Kataoka,
S., 1983. Field operation of explosion seismic experiment in Antarctica (Second paper),
Antarct. Rec., 79, 107-133.)

宮町宏樹・村上寛史・筒井智樹・戸田茂・民田利明・柳澤盛雄(2001):東南極みずほ高原における
屈折法地震探査実験ー第41次夏期観測概要ー、南極資料、第45巻、第1号、101-147頁。
(Miyamachi, H., Murakami, H., Tsutsui, T., Toda, S., Minta, T., Yanagisawa, M., 2001.
A seismic refraction experiment in 2000 on the Mizuho Plateau, East Antarctica
(JARE-41)- Outline of observations -, Antarct. Rec., 45(1), 101-147.)

Shibuya, K., Kaminuma, K., 1982. Utilization of an NNSS receiver in the explosion seismic
experiments on the Prince Olav Coast, East Antarctica. 1. Recovered
UTC. Antarct. Rec., 76, 63-72.

Tsutsui, T., Murakami, H., Miyamachi, H., Toda, S., Kanao, M., 2001. P-wave velocity
structure of the ice sheet and the shallow crust beneath the Mizuho traverse route,
East Antarctica, from seismic refraction analysis. Polar Geosci., 14, 195-211.



Q and A

Q1: 20年経って、実験が簡便かつ効率的に実施できるようになったのは判りました。しかし、第21次隊と第41次隊が同じルートで同じような実験をやる(やった)意味がよく判りません。観測点間隔が1 kmおきだとどういう効果があるのですか?また、第21次隊に比べ、第41次隊の測線長が短いのは何故ですか?

A1: 第21次隊の実験は薬量も多く(3 t)距離も長い(270 km)ので、Moho面からの屈折波(refracted wave)初動時刻が得られました。図2aは南極大陸でMohoからの屈折波が記録された唯一(これまでも、そしておそらくこれからも)の例です。第41次隊の実験は1 shot当りの薬量が約500 kgだったので、到達距離は~120 kmでしたが、境界面からの広角反射波(wide-angle reflection wave)の到達時刻が得られました。shotが~30 km間隔で6発あったので、図8のようにほぼ測線長全体の地殻にわたって、下部地殻上面、Moho面からの波線で埋め尽くすことができました。図は示していませんが、氷層内、上部地殻からの直達波、屈折波、反射波を合わせれば、読み取れる時刻は合計で1259になりました。

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図8. 下部地殻上面からの広角反射波及びMoho面からの屈折波・反射波を利用したray-tracingによる地震波速度構造解析。詳細はYoshii et al. (2004)を参照。

図8の波線については波線追跡法(ray-tracing)で走時(Travel time)を計算できます。また、同じ数だけ観測走時(Observed travel time)があるので、走時残差O-Tが計算できます。Yoshii et al. (2004)は地殻の速度構造について水平方向、深さ方向にブロック的な分布でモデル化してZelt and Smith (1992)の方法で理論走時を計算し、try-and-errorで全体的な走時残差が出来るだけ小さくなるように地下構造モデルを求めました。この時、上層側から速度モデルを決め、その層内でのTravel timeを引き算し、次々に下層の速度構造モデルを決定して行く「はぎとり法(layer stripping method)」を適用しています。この詳細や得られた結果の解釈は、下記論文を読んで下さい。

Yoshii, K., Ito, K., Miyamachi, H., Kanao, M., 2004. Crustal structure derived from
seismic refractions and wide-angle reflections in the Mizuho Plateau, East
Antarctica. Polar Geosci., 17, 112-138.

Zelt, C.A., Smith, R.B., 1992. Seismic traveltime inversion for 2-D crustal velocity
structure. Geophys. J. Int., 108, 16-34.



Q2: 人工地震が「労力対期待される成果」の観点から難しくなって来たことは判りました。しかし、最後のまとめ10.を読むと、氷床上での地震観測の意義が薄れたとは思えません。現状、どのような試みがあるのですか?

A2: 図9はAGAPという国際プロジェクトで、南極大陸上に展開した地震計列で観測した合成波形記録を示しています。2008年5月12日、中国の四川省で発生したM = 7.9の地震を捉えています。震央距離112.5°から116°までの400 kmスパンに置いた9台の上下動地震計記録になります。自然地震の場合、震央距離や震源深さの関係から、様々な特徴的な波の到来(相)を観測できる場合があります。この例の場合、図中に書き込んであるように、主なものでもPdiffから始まりSSまで、実体波の8つの相がわかります。もっと沢山のEventを観測して、PREMという標準モデル(南極地球物理学ノートNo. 2を参照)から出発し、走時と波形を同時に説明できる地域的なモデルの詳細化が可能です。

note11_11図
図9. 2008年5月12日、中国四川省で発生したM = 7.9の地震を南極大陸上9点の地震計列(震央距離112.5°から116°までの400 kmスパン)で観測し、Pdiff, PKiKPなどを明瞭に記録した(相の同定は豊国源知博士:東北大による)。