南極地球物理学ノート No. 10 (2012.02.24)

TRANSIT測位2 S-H-Zルートの氷床流動速度推定


澁谷和雄

Keyword: JMR, トランジット測量, GPS 測量, WGS84 楕円体, みずほトランバースルート, 氷床流動速度



第21次越冬隊(1980)での人工地震実験では27の地震観測点をS-H-Z旅行ルートに沿って設置した。この旅行ルートには第14次隊(1973)が設置したトラバース測量点もある。両隊の測量方法が違うとはいえ、各種補正を施した位置の変化から、7年間における氷床流動量を見積もることができるだろう。この件については既にShibuya and Ito (1983), Shibuya(1986)が報告を書いているが、最近になって、楕円体の取り扱いに問題があったのではないかという疑念が生じたので再計算を行った。



1.第21次隊地震観測点と第14次隊トラバース測量点

地震観測点は図1のように、従来のみずほトラバース旅行ルート(S-H-Zルート)の地点に配置された。雪上車の距離計で測った過去の記録から、これらのルート地点(表1のcolumn 1)が約10 km間隔であることは判っていた。また、このルート地点の傍には第14次隊が測距・測角で位置を決定した測量ポールが残っていて、その時のトラバース地点名、得られた緯度・経度、高度の値もJARE Data Reports No. 28(Naruse and Yokoyama, 1975)により公表されていた。

地震観測点はNNSS測量によりWGS72楕円体上(南極地球物理学ノートNo. 9参照)で求められているので、比較のためにはトラバース地点の位置をWGS72楕円体上に変換する必要がある。問題は採用楕円体であるが、Naruse and Yokoyama (1975)には楕円体に関する記述がない。しかし、測量結果の整約は国土地理院の隊員が行ったことが判っている。測定年代と日本の状況から考えて、Shibuya and Ito (1983)、Shibuya (1986)では、ベッセル楕円体上の値であるとして、座標変換を行っている。この時、ノートNo. 9と同様の計算により、ベッセル楕円体原点のWGS72楕円体原点からの偏心座標は

δx0 = −552 m, δy0 = 42 m, δz0 = 623 m    (1)

と求められていた。

原点偏心と楕円体変換に伴う緯度・経度の補正項はHeiskanen and Moritz (1962)により、

δφ = sinφcosλ δx0/a + sinφsinλ δy0/a – cosφ δz0/a + 2sinφcosφδf ,      (2-1)

note10_01図
図1. 第21次隊による1980年設置の地震観測点(No. 1 - 27)近傍にはルート
地点を示す竹竿と第14次隊設置のトラバース測量ポールが立てられている。

δλ = sinλ/ cosφ δx0/a – cosλ/cosφ δy0/a                              (2-2)

δh = −cosφcosλδx0  − cosφsinλδy0 − sinφδz0 – δa + a sin2φδf           (2-3)

で計算される。(1)式を適用したとき、(2)式で得られる補正項は緯度について2.6" (S22-1)~2.5" (Z2)の足し算、経度については33.4" (S22-1)~36.7" (Z2)の引き算、高さについては31.7 m (S22-1)~23.8 m (Z2)の足し算により、WGS72楕円体上の位置に変換されるという結果になった。

しかし、2007年発刊の国土地理院・南極観測五十年史によると、1970年代の早い時期から、国土地理院は南極観測での測量については当時の国際標準であるGRS1967系に準拠していたとの記述がある。とすると、Naruse and Yokoyama (1975)によるJARE Data Reportの緯度・経度もGRS67楕円体上の値である可能性が高い。この場合は(1)式ではなく、ノートNo. 9で求めた偏心座標値の逆符号

δx0 = −293.8 m, δy0 = 226.3 m, δz0 = −28.7 m    (3)

を用いて座標変換する必要がある。そしてこの場合の補正項は、緯度については2.7"~2.1"の足し算、経度については32.7"~34.6"の引き算、高さについては25.2 m~17.5 mの足し算になる。表1のcolumn 2-4がそのような補正後の、「GRS67楕円体からWGS72楕円体上に変換した後の1973年トラバース測量点の」緯度、経度、高さである。

なお、地震観測点には固有のST1~ST27という番号があり、トラバースポールにもT011~T076の別の固有の番号があるが、いずれもルート方位表の対応する地点(S22-1~Z2)に近いところにある。地震観測点もトラバース測量点も、ルート地点からおよそ30 m以内の偏差で、相対的な距離・方位が測られていて、補正で位置合わせができるので、測量結果はルート地点名で代表させる。

表2のcolumn 3-5は1980年NNSS測量による同じトラバース測量点のWGS72楕円体上での緯度、経度、高さである。JMRアンテナを設置したポイントは地震計のそばで、トラバースポールから若干(遠い場合で約30 m)離れているが、その偏差を補正した後の値である。黒字の行はノートNo. 9同様、放送軌道要素を用いて決定された地点の位置を示し、赤字の行(H17, H231, Z2)は精密軌道要素を用いて決定された位置を示す。

ここで、精密軌道とは、DMAHTC (Defense Mapping Agency Hydrographic and Topographic Center)がNNSS衛星固定追跡局のDopplerデータを用いて再計算した確定軌道のことで、放送軌道を用いて決定した位置より精度が良く、X, Y, Zの各成分について2 m誤差と言われている。但し、このデータは民間利用者に公開されているわけではないので、Univ. TasmaniaのNeal Young氏の仲介でDMAHTCに送ったDoppler生データを処理して貰い、戻して貰った結果である(詳しくはShibuya (1985)を参照)。

上記の精密軌道を用いて決定された位置はNWL8E楕円体(a = 6378145 m, f = 1/298.25)上で与えられていた。従って、放送暦での測地座標が用いているWGS72楕円体(a = 6378135 m, f = 1/298.26)に変換する必要がある。両者の座標系はLeRoy (1982)を参照すると、みずほ高原域(南緯70度付近)ではNWL8E楕円体の原点シフトを

δx0 = 0.0 m, δy0 = 0.0 m, δz0 = 3.9 m    (4)


として(2)式で同様に補正項を計算すれば、近似的にWGS72系の値に変換できる。結果は緯度については0.03"の引き算、経度については補正なし(0”)、高さについては13.01~13.04 mの足し算であった。表2の赤字行はこの補正後の結果である。

表1及び表2から、7年間での各方向成分の流動量、流動絶対量、流動方向、平均流動速度を計算することができる。但し、測量精度がもともと1”より良くないことを考慮するとShibuya and Ito (1983)のようにHubeny(1959)の厳密式を用いる必要はなく、下記の近似式を用いれば十分である。

cosα = φ/V2           (5-1)
sinα = NcosφΔλ          (5-2)
α = tan-1(cosα/ sinα)     (5-3)
Δα = sinφΔλ,   αSE = α – Δα/2  (5-4)

N, Vはa = 6378135 m, f = 1/298.26, φ = 69˚01’34”S (S22-1) ~ 70˚02’12”S (Z2) を用いて計算できるが、冗長なので式は省略する。

結果を表3に示す。H93, H113-1以外の各点では2行あるが、上の黒字あるいは赤字の行が今回の再計算の結果である。赤字は精密軌道を用いた結果であり、黒字は放送軌道を用いた結果である。下の水色の行は、Shibuya and Ito (1983)によるオリジナルの結果を再掲したものであるが、両者を比較してみると、大勢は変わらなかったことがわかる。

このように、座標変換の取り違えがあったとしても、結論自体にはさほど、影響しない。しかし、高さの変化が1980年と1973年で27 m (H213)、–53 m (H174)にもなることは、現実には考えられない。さらに、高さの誤差が水平位置誤差になることを考慮すると、1973年の測量結果と1980年の測量結果の比較から流動速度を求めたこと(図2aにShibuya and Ito, 1983の結果を再掲した)には無理があったのかもしれない。

note10_02図
図2(a). Shibuya and Ito (1983)の図6の再掲によるS-H-Zルートの氷床流動速度ベクトル。1973年と1980年のトラバースポールの位置比較に基づいている。右上四角内に示すスケールに注意。

note10_03図
図2(b). 1980年と2000年の地震観測点位置の比較から求めた氷床流動速度ベクトル。右上四角内のスケール1目盛りが10 m/aになっていることに注意。

このルートの標高は近似的に氷厚に等しいが、氷厚~2000 mで表面流動速度が20 m/a以上になることは、底面すべりを意味している。みずほ高原で底面すべりが起きているとしても(Mae et al., 1979)、表面流動速度が50 m/aにも60 m/aにもなるのは常識的には考えにくい。NNSS位置は各点独立に決まり、誤差が累積することはないが、測距・測角によるトラバース測量は1ヶ所で方位を誤ると、以後、誤差が累積して拡大して行く。表3によると経度(東西)方向の流動量がH93(No. 7)から南に行くに従って系統的に増大しているのもあやしい。

ということで、新たなデータによる検証の可能性を探ったところ、第41次隊の人工地震のセンサー位置が手掛かりになることがわかった。第41次隊では、できるだけ1 km等間隔になるように地震観測点を設置した関係上、その位置は表1,2のルート地点の位置と対応度が良く、トラバースポールからの偏差を無視しうる。宮町ら(2001)の表1-1に示された観測点リストから抽出したルート地点位置を表4のcolumn 2-4に示す。

しかし2000年のこの位置がWGS84系で表されているのに対して、1980年の表2はWGS72系で表されているので、LeRoy (1982)による変換が必要である。この場合、

δx0 = 0.0 m, δy0 = 0.0 m, δz0 = 3.2 m,   (6-1)
δa = 6378137 – 6378135 = 2 m,           (6-2)
δf  =  1/298.257 – 1/298.26 = 3.372 x 10-8   (6-3)

によってWGS72系の表2をWGS84系の位置に変換することが出来て、結果は表4のcolumn 5-7になる。(6)式は(3)式と異なり、楕円体の原点変位量が小さいので、変換に付随する誤差も小さい。

1980年の位置(表5、column 5-7)と2000年の位置(表5、column 2-4)が得られたので流動量は(5)式で計算できて、結果を表5に示す。図2bはそのようにして得られた流動量から計算した各点での流動速度ベクトルを示したものである。表5のcolumn 5に見られるように、S22—1を除き6 ~16 m/aという常識的な値に落ち着いた。



引用文献

Heiskanen, W.A., Moritz, H., 1967. Physical Geodesy. San Francisco, W.H. Freeman, 364p.
Hubeny, K., 1959. Weiterentwicklung der Gauss'schen Mittelbreiten-formeln. Z. Vermess., 84,
159-163.
LeRoy, C.F., 1982. The impact of GRS80 on DMA products. Proceedings of the Third
International Geodetic Symposium on Satellite Doppler Positioning, pp129-135,
February 8-12, Las Cruces, New Mexico, USA.
Mae, S., 1979. The basal sliding of a thinning ice sheet, Mizuho Plateau, East Antarctica.
J. Glaciol., 24, 53-61.
宮町宏樹・村上寛史・筒井智樹・戸田茂・民田利明・柳澤盛雄(2001):東南極みずほ高原における
屈折法地震探査実験ー第41次夏期観測概要ー、南極資料、第45巻、第1号、101-147頁。
(Miyamachi, H., Murakami, H., Tsutsui, T., Toda, S., Minta, T., Yanagisawa, M., 2001.
A seismic refraction experiment in 2000 on the Mizuho Plateau, East Antarctica (JARE-41)-
Outline of observations -, Antarct. Rec., 45(1), 101-147.)
Naruse, R., Yokoyama, K., 1975. Position, elevation and ice thickness of stations.
JARE Data Reports 28 (Glaciology), 7-47.
Shibuya, K., Ito, K., 1983. On the flow velocity of the ice sheet along the traverse route from
Syowa to Mizuho Stations, East Antarctica. Mem. Natl Inst. Polar Res., Spec. Issue, 28,
260-276.
Shibuya, K., 1985.Performance experiment of an NNSS positioning in and around Syowa Station,
East Antarctica. J. Phys. Earth, 33, 453-483.
Shibuya, K., 1986. Glacio-geophysical inplication of an NNSS positioning in and around Syowa Station,
East Antarctica. Journal of Geodynamics, 6, 327-346



表1 S-H-Zルート・トラバース地点の1973年の位置

Route地点

緯度 (S)

経度 (E)

楕円体高 (m)

S22-1

69˚01'37.7"

40˚19'22.3"

789

S27-3

69˚02'30.6"

40˚34'35.2"

955

H17

69˚05'11.6"

40˚47'24.1"

1059

H48-1

69˚08'44.6"

40˚56'44.0"

1157

H74-1

69˚12'51.5"

41˚06'50.9"

1230

H93

69˚16'15.5"

41˚16'09.8"

1293

H113-1

69˚20'32.5"

41˚27'02.7"

1361

H155

69˚30'03.4"

41˚46'54.4"

1486

H174

69˚34'10.4"

41˚56'44.2"

1545

H194

69˚38'24.3"

42˚07'28.1"

1580

H213

69˚42'35.3"

42˚17'23.0"

1637

H231

69˚46'28.3"

42˚27'02.9"

1686

H253

69˚51'18.2"

42˚38'14.7"

1758

H272

69˚55'11.2"

42˚49'10.6"

1807

Z2

70˚02'11.1"

43˚10'30.4"

1944



表2 表1Route地点の1980年の位置(WGS72楕円体上に変換後)

Route地点

受信パス数

緯度(S)

経度(E)

楕円体高(m)

S22-1

4

69˚01'31.3"

40˚18'49.9"

---

S27-3

3

69˚02'29.4"

40˚34'25.3"

951

H17

8

69˚05'06.7"

40˚47'18.0"

1068

H48-1

3

69˚08'41.0"

40˚56'34.6"

---

H74-1

4*

69˚12'48.6"

41˚06'35.6"

1237

H93

10

69˚16'13.1"

41˚16'04.5"

1307

H113-1

6*

69˚20'27.4"

41˚26'52.5"

1365

H155

3

69˚29'55.2"

41˚46'34.5"

1499

H174

3

69˚34'04.8"

41˚56'37.1"

1492

H194

3

69˚38'17.3"

42˚07'11.7"

1559

H213

6*

69˚42'29.2"

42˚17'05.0"

1664

H231

12

69˚46'22.3"

42˚26'26.6"

1701

H253

10

69˚51'13.6"

42˚37'41.2"

1773

H272

4

69˚55'07.8"

42˚48'33.2"

1821

Z2

10

70˚02'13.6"

43˚09'36.7"

1953



表3 1973年~1980年(7年間)での位置変化から推定した流動量・方位と年間平均流速

Route 地点

N-S

E-W

Total

Average

Flow

Height

 

flow

flow

flow

velocity

direction

difference

 

cosα

sinα

v

αSE

Δh

 

(m)

(m)

(m)

(m/a)

(˚)

(m)

S22-1

198

–360

411

58

299

-----

 

195

–352

402

57

299

-----

S27-3

37

–110

116

16

289

–4

 

37

–101

108

15

290

–10.3

H17

149

–68

164

23

335

9

 

143

-65

157

22

335

-3.5

H48-1

112

-103

153

22

317

-----

 

109

–93

143

20

320

-----

H74-1

90

–168

191

27

298

7

 

87

–159

181

26

299

-----

H93

74

–58

95

13

322

14

H113-1

158

–111

194

27

324

4

H155

255

–216

333

47

320

13

 

257

–201

326

46

322

6.2

H174

174

–77

190

27

336

-53

 

177

–62

187

26

341

–58.8

H194

217

–177

280

39

320

–21

 

223

–161

275

39

324

–27.6

H213

189

–193

271

38

314

27

 

195

–176

263

37

318

20.8

H231

186

–389

431

61

295

15

 

186

–300

353

50

302

–0.6

H253

143

–358

385

54

291

15

 

152

–339

371

52

294

8.8

H272

105

–398

412

58

285

14

 

115

–378

395

56

287

7.7

Z2

-79

―569

574

81

262

9

 

-25

―474

475

67

267

-0.7



表4 2000年1月のWGS84楕円体上の位置(column 2-4)と1980年1月のWGS72→WGS84変換後の位置(column 5-7)

Route 地点

緯度(S)

経度(E)

高度(m)

緯度(S)

経度(E)

高度(m)

S22-1(a)

69˚01'32.0"

40˚19'49.5"

789

69˚01'31.3"

40˚18'49.9"

---

S27-3

69˚02'26.9"

40˚34'07.9"

947

69˚02'29.4"

40˚34'25.3"

952

H17(b)

69˚05'04.5"

40˚48'20.3"

1056

69˚05'06.8"

40˚47'18.0"

1069

H48-1(c)

 

 

 

69˚08'41.0"

40˚56'34.6"

---

H74-1

69˚12'44.7"

41˚06'24.2"

1225

69˚12'48.6"

41˚06'35.6"

1238

H93

69˚16'12.4"

41˚15'46.4"

1288

69˚16'13.1"

41˚16'04.5"

1308

H113-1(d)

69˚20'24.8"

41˚26'24.0"

1358

69˚20'27.4"

41˚26'52.5"

1366

H155

69˚29'53.5"

41˚46'17.1"

1484

69˚29'55.2"

41˚46'34.5"

1500

H174

69˚34'00.5"

41˚56'10.8"

1546

69˚34'04.8"

41˚56'37.1"

1493

H194

69˚38'13.4"

42˚06'55.4"

1583

69˚38'17.3"

42˚07'11.7"

1560

H213

69˚42'24.0"

42˚16'41.8"

1639

69˚42'29.2"

42˚17'05.0"

1665

H231

69˚46'17.7"

42˚26'12.2"

1691

69˚46'22.5"

42˚26'33.1"

1694

H253

69˚51'09.3"

42˚37'20.8"

1763

69˚51'13.6"

42˚37'41.2"

1774

H272

69˚55'03.0"

42˚48'10.5"

1812

69˚55'07.8"

42˚48'33.2"

1822

Z2

70˚02'09.6"

43˚09'19.3"

1947

70˚02'13.6"

43˚09'36.7"

1961

Z11-1

70˚06'16.2"

43˚17'41.4"

2004

70˚06'16.1"

43˚17'54.2"

1961

(a)2000年の位置(column 2-4)はS22で、1980年の位置(column 5-7)はS22-1で実際にはoffeset
が大きかったと思われる。表5から計算したベクトルは図2(b)には記入していない。
(b) 2000年の位置はH15とH21の位置から内挿
(c) 2000年はこの場所には地震計設置が行われていないのでcolumn 2-4はno data
(d) 2000年の位置はH110とH114の位置から内挿



表5 1980年-->2000年(20年間)での位置変化から推定した流動量・方位と年間平均流速

Route 地点

N-S

E-W

Total

Average

Flow

Height

 

flow

flow

flow

velocity

direction

difference

 

cosα

sinα

v

αSE

Δh

 

(m)

(m)

(m)

(m/a)

(˚)

(m)

S22-1

-21

662

662

33

92

----

S27-3

78

–193

208

10

292

–5

H74-1

121

–125

174

9

314

–13

H93

22

–205

206

10

276

–20

H113-1

81

–312

322

16

285

–8

H155

53

–189

196

10

286

–16

H174

133

–285

314

16

295

53

H194

121

–182

219

11

304

23

H213

161

–250

297

15

303

–26

H231

149

–224

269

13

304

–3

H253

133

–218

256

13

301

–11

H272

149

–242

284

14

302

–10

Z2

84

–256

270

13

288

–14

Z11-1

–3

-135

135

7

269

43



Q and A

Q1: 1980年代後半にはGPSはシステムが完備していたはずです。2-3年、間をおいてGPS測量すれば0.1 m/a程度の精度で、このノートに出てきたルートでの流動速度を正確に測定できたはずではないですか?

A1: 原理からすればおっしゃる通りです。この種の観測の難しさはしかし、もっと泥臭い別なところにあります。ルート上を旅行して測量するのに雪上車1台、最低2名が掛かりきりになれば、1回目の測量は1週間で出来るでしょう。しかし、雪上車1台の単独行動は避けるべきことで、安全を見込めば雪上車2台、4人になります。1回目の旅行で設置した測量ポールには、第何次隊の誰誰が設置したポールであることを明記するぶた札を付ける必要があります。ルートにある、由来の判らない他の類似ポールあるいは竹竿と区別するために写真を撮り、ログノートもつける必要があります。さて、3年後に同じチーム(あるいは測量を主導している研究者が最低1人)が再測定に出かけなければなりません。2-3年経つと、ポールが雪で埋まったり、風で折れ飛んだりして、見つからないことがままあります。ポールを同定できず、間違えたポールを選んだりすると、真のポールからのoffsetがそのまま、誤差になります。年数が短いほど誤差の影響は大になります。一方、どのような簡単な測定が目的でも、観測隊に参加することは、準備その他を含め1年がかりになります。再測含め2回となると足かけ4年越しになります。20年前はいざしらず、今、このようなregionalな測定に専念するのは労力対効果の面で二の足を踏むことになります。観測隊報告やData Reportの照合といったデータの二次利用に頼らざるを得ません。



Q2: 表5を見るとΔh(column 7)はH174(53 m), Z11-1 (43 m), H194(23 m), H93(–20 m), H213(–26 m)と相変わらず表3と同じ位ばらついていますね。これはどういうことですか?

A2: 水平位置にくらべ、高さの決定精度が衛星測位の場合、良くないことが根本にあります。先に述べたように衛星測位では高さの誤差は水平誤差になりますから、表5の平均流速(column 5)には10-20%の誤差があると思った方が良いでしょう。ここで、Mae (1979)に従い、

∂H/∂t = ∂a/∂t – ∂ε/∂t H + Usα – Ubβ   (7-1)

を考えます。Hは氷厚、∂a/∂tは表面での雪層の堆積速度、∂ε/∂tは深さについて一定と仮定した氷の歪み速度、Usは表面での流動速度、Ubは底面すべり速度、αは表面傾斜、βは基盤での傾斜になります。column 7のΔhには真の高さ変動∂H/∂tも含まれているはずです。底面すべりがなければ、(7-1)式は

∂H/∂t = ∂a/∂t – ∂ε/∂t H + Usα     (7-2)

のように単純化されます。今Z2を例にとった時、Us = 13 m/a、∂a/∂t =0.13-0.14 m/a, H =1423 m, α = –5 x 10-3です(JARE Data Reportsを基に推定しています)。∂ε/∂tの実測は難しいですが、3-5 x 10-4 1/aと思われます。右辺にこれらの数値を代入すると

∂H/∂t = –0.59 ~ –0.30 m/a           (7-3)

で、20年で–12~–6 mになります。しかし、∂a/∂tは毎年、あるいは毎月、雪尺の高さを途切れることなくつないで測る必要があります。埋まってしまったポールのそばに別のポールを立てると、つなぎ目にギャップが出てしまいます。雪は降った当初porosityが大きく、圧密で厚さが減りますが、年数が経つと厚さの減り方も変わります。時間をおいた高さ計測では、誤差要因がいろいろあるので、理想的には10 m以上の長いロッド状の標尺の目盛りを刻むやり方で、間違いのない∂a/∂tと∂H/∂t(氷厚を近似的に氷床表面高度とみなした時の高度変化)を求める必要があります。