南極地球物理学ノート No. 5 (2011.11.12)

海底圧力計で探る南極発散域(リュツォ・ホルム湾沖)の海洋変動


澁谷和雄・早河秀章

Keyword: 南極発散域 (Antarctic Divergence Zone), 海底圧力計 (OBP Gauge), Ekman 発散機構,
GRACE等価水深, ECCO 海洋同化モデル, AAO指数



1.研究の動機

南大洋の海洋物理は大局的には2つの周極流によって支配されている。一つは西風に励起され東向きに流れる南極周回流(ACC: Antarctic Circumpolar Current)で地球上、最大の海流である。もう一つは南極沿岸流(ACoC: Antarctic Coastal Current)で、地球上最南部にあり、東風に励起され西向きに流れる海流である。

西風が常時卓越するACC海域では北向きのエクマン流(Ekman drift)が生じる。東風の卓越するACoC海域では南向きのエクマン流が生じる。従って両海流で挟まれた海域(図1)では、常時、海水が外側へ逃げていくことになり、それが南極発散域(ADZ: Antarctic Divergence Zone)と呼ばれるゆえんである。しかし、ACCもACoCも一定不変ではない。西風がある海域で強まるとそこでの北向きエクマン流はより強まるし、東風がある海域で相対的に弱まると南向きエクマン流は弱まるであろう。しかも、これらの現象は時間的に同期して起こるわけではない。

news05_図1
図1. ACCとACoCに挟まれた海域をADZと呼ぶ。JARE BPRは、海底圧力計による長期連続観測点である。同種の圧力計による連続観測はACoCより大陸側の昭和基地(Syowa TG)でも継続している。

南極海域の大気・海洋相互作用は地球全体の流体ダイナミクスに直結した影響をもたらす。そのなかにおいて、ADZの季節変動、年々変動の挙動を知ることは、大気大循環、海洋大循環を知る鍵でもある。しかし、ADZは暴風圏を越えた南の遠隔地にあるので現場観測が手薄であった。

ADZの性質を知るためにリュツォ・ホルム湾沖ADZ海域での海底圧力計(BPR: Bottom Pressure Recorder)による長期観測を計画した。オペレーションの詳細は省くがBPRを2台用意し、砕氷船「しらせ」の昭和基地への往路でJARE BPR (66˚50’S, 37˚50’E)点において投入、「しらせ」復路で回収を繰り返すと、同一地点において海底圧力(OBP: Ocean Bottom Pressure)の連続測定が可能である。ACoCより大陸側の昭和基地 (69˚00’S, 39˚35’E) でも水圧計(Syowa TG)による潮位連続観測を行っているので、JARE BPRとSyowa TGのOBP比較観測から新たな知見が得られるであろう。



2.海底圧力計とGRACE

図2(a)の青丸印は2004年12月から2008年2月までの測定データを整理して得られたJARE BPR点での月平均海底圧力である。1 hPaのOBPは1 cmの水深にほぼ対応することから、便利のため、月平均等価水深(monthly mean equivalent water height)と表現している。このとき、生の観測値から1ヶ月より短い周期の潮汐成分(O1, K1などの日周潮、M2, S2などの半日周潮、Mf, Mmなどの長周期潮)は除去してある。潮汐の各分潮は数十cmの振幅を持つが、これらを除去して得られた等価水深は~±6 cm 振幅の季節変動を示している。海面高さは温度変化による体積膨張でも変化するがこのとき海水は移動しない。OBPは海水の移動によって変化する。したがってOBPの変化を観測すれば、海流などで運ばれる海水量の変動を知ることができる

海水量の変動をリモートセンシングで推定する方法としてGRACE(Gravity Recovery And Climate Experiment)衛星の利用がある。GRACEは、ほぼ同一の軌道面(地上高度~500 km)を水平距離~200 km離れて飛ぶ2つの衛星システムである。衛星間の距離とその時間変化をマイクロ波(K-band)測距で計測している。アメリカのUTEX (University of Texas at Austin) CSR (Center for Space Research) とドイツのGFZ (GeoForschungsZentrum) Potsdamが共同開発したもので、詳細は省くが、主に水質量の再配分による重力の地域的な増加・減少を1ヶ月ごとの球面調和展開係数として公表している。GRACE OBPデータはChambers (2007)が、CSRのGRACE解をもとに等価水深を1°メッシュのグリッド値として再構成したもので、GRACE Tellusというウェブサイトから公表しているものである。図2(a)の赤角印はJARE BPRに一番近いグリッド点でのGRACE 月平均等価水深の時系列である。衛星リモートセンシングの常として、空間的な平均操作が必要で、今の場合、海陸分布を考慮した500 km直径の地域フィルターをかけて海洋起源の質量変動時系列として取り出したものである。

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図2. 上図(a) JARE BPR点での月平均等価水深(青丸)と、直近のGRACEグリッド点における月平均等価水深(赤四角)。下図(b) ECCO海洋同化モデルに基づくJARE BPR点近傍グリッド点でのOBP等価水深の時系列。

図2(a)が示すようにGRACE 等価水深とJARE BPR 等価水深の変動傾向は、大局的には一致しているが、GRACEの方が全体として振幅が小さい。2006年末から2007年初頭にかけての等価水深は一見、異常に見えるがECCO海洋同化モデルに基づくOBP(図2(b))においても2007年初頭で大きな値を示しており、この異常は実際の海洋質量変動を正しく表していると見て良い。詳細な統計解析結果は省くが、この海域においてGRACE OBPはJARE BPRによる直接観測量の38%しか説明していない。

GRACE 等価水深(2004年2月―2008年12月)は1°メッシュのグリッド点の時系列として与えられるので、JARE BPR 位置でのOBP変動時系列との相関を取った地域相関図(図3)を描くことができる。JARE BPR点を挟んだ南北にわたる大陸沿岸地域にかけて、黄色から赤に着色した相関係数が高い(0.5~1.0)領域が現れるのは当然と言える。注目すべきは、20˚E, 60˚E, 360˚Eにおいて低緯度に向かって高相関域が伸びていること、また、相関値0.9以上の海域が南北方向に600 km, 東西方向に1200 kmと広域にわたることである。すなわち、JARE BPR点での等価水深変動は600 km x 1200 kmという上記周辺沿岸の広大な海域での水質量変動について代表性があることを示している。

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図3. JARE BPR点(x印)でのOBP変動とGRACEグリッド点のOBP変動の地域相関図。


3.ADZ域とACoC域の海底圧力季節変動の相関性

図4の青線はADZ域にあるJARE BPR 点で得られたOBP等価水深の月別平均を示している。全体のデータ長が約3年2ヶ月なので各月の白丸は3データの平均である。南極の夏季(11月―2月)で2-4 cmの極大になり、南極の冬季(4月―8月)で−2 ~−4 cmの極小になることがわかる。一方、ACoCより大陸側にある昭和基地(69.0˚S, 39.6˚E: 図1)での潮位計Syowa TG が示すOBP等価水深(緑線)は青線とは逆の季節変動を示している。即ち、南極の冬季で7-8 cmの極大になり、南極の夏季で−5 ~−6 cmの極小になっている。Syowa TGでのOBP変動幅は、JARE BPRのOBP変動幅の約2倍は優にある。両者は季節的にほぼ逆相関なので、両者のOBP差(Syowa TG – JARE BPR:黒線)は5月に極大で11-12月に極小という、振幅−8 ~+10 cmのきれいな年周変化を示している。

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図4. JARE BPR点(青丸)とSyowa TG点(緑丸)のOBP等価水深の偏差(黒丸)は年周変化を示す。

データ長がまだ3年2ヶ月しかないので、JARE BPRとSyowa TGの変動位相差が4ヶ月と6ヶ月の間のどこにあるのかはまだ正確にはわからない。長期に観測を継続し、時間分解能を上げて行く必要がある。



4.エクマン発散機構 (Ekman Divergence Mechanism)

NCEP/NCAR再解析データ16年分(1993-2008年)の2.5˚x2.5˚ グリッドの風速データ(東西成分:u-component)は、図5(a)が示すようにACC領域の広い緯度(40˚S-55˚S)にわたって強い (> 6 m/s) 風速変動幅(RMS値)を持っている。これは主に東向き成分で構成され、偏西風を表す。注目すべきは60˚Sから70˚Sにかけての風速分布が、大陸沿岸に沿って狭いバンド状で移り変わる環状構造を持つことである。63˚S-68˚SではRMSが <4 m/sと弱まり、ADZはこのなかでも弱風帯にある(白いx印)。しかし、さらに大陸に近づくACoC海域でRMS値は再度、4-6 m/sと強まっている。この強風帯は主に西向き成分であり極東風を表している。

図5(b)が示すように、弱風帯北側(60˚S)の平均風のPSD (power spectral density:赤線)は6ヶ月周期が卓越し、1.6年、1年、2.5ヶ月周期と続いている。一方、極東風の領域となる南極大陸沿岸に沿った風の平均(青線)は1年周期が卓越し、3年、6ヶ月周期と続いている。

NCEP/NCAR再解析風速データを用いてJARE BPR点(66˚50’S, 37˚50’E) を含む65˚S-67.5˚S, 35˚E-40˚Eの海域のEkman pumpingを計算してみた。Ekman pumpingはある位置における風応力の回転(curl)に比例し、鉛直方向の海水移動速度として求められる。風応力によって表層の海水がエクマン流として水平方向に移動したときに失った(あるいは得た)水を補償する鉛直方向の水の流れを意味する。正の値であれば上昇流、負の値であれば下降流である。この海域には2.5°間隔でグリッド点が6あり、分解能として必ずしも十分とは言えないが、平均は常に正(上昇流)で、冬に最大、夏に最小という、きれいな年周変化を示している(図5(c))。この特徴はJARE BPRとSyowa TGのOBP等価水深の偏差に見られる年周変動(図4の黒線)と良く調和している。JARE BPR点の近傍で上昇流が強い冬には、表層水がこの海域から多く流れ去るので、大気における低気圧のような状態となり、この海域の海底圧力は小さくなる (等価水深が下がる)。そしてこの海域から南へ流れた表層水は南極大陸沿岸でせき止められる形になるので、沿岸で海水が集束する。この結果Syowa TGで測定される沿岸のOBP等価水深は上がる。観測されたOBP変動はこのようなメカニズムで説明できる。

news05_図5
図5. (a) 南極周辺海域での風速場。暖色系海域ほど変動幅(RMS値)が大きい。(b) 60˚S(赤線)の風速のPSD値は6ヶ月周期が卓越するが、70˚S付近(青線)のそれは、1年周期が卓越する。(c) JARE BPRを囲む海域内の風応力によるエクマン鉛直流は常に正符号(上昇流)である。


5.非季節性OBP変動とAAO 指数 (AAO index) との相関について

大気・海洋の季節変動は基本的には定常性を持つ。したがって季節変動からのズレを調べることが、気候変動を知る上で重要となる。ここではNCEP/NCAR再解析風速データとOBPデータから年周成分を取り除いた非季節性OBP変動との関係を考える。

南半球の大気圧は、南極大陸を覆う円状領域と南大洋上空を囲む環状領域に分かれて互いにその強弱が移り変わっている。この現象は南半球大気の主要な変動であり、南極振動(AAO: Antarctic Oscillation)と呼ばれる。AAOは南大洋自体とも関係していて、例えばAAOの強度を示す指数に対してACCの海水輸送量は正の相関を示す。また、南極の沿岸基地に設置されている潮位計の全ての潮位記録で、そのOBP等価水深がAAO指数と負の相関を持つことが確認されている。具体的にはAAO指数が正のとき偏西風は強くなり沿岸海面高は下がる。この海面高変動はAAOに似て、南極大陸を取り囲む環状の形で現れることからSouthern modeと呼ばれる。

Southern modeはADZ内に位置するJARE BPR点でも確認できるが、沿岸の潮位計記録とは異なる振る舞いをする。詳しい計算過程は省略するが、Syowa TGの非季節性OBP変動とAAO 指数は、短周期(<7ヶ月)でも長周期(7-19ヶ月)でも−0.50~−0.52という、似たような相関値を持つ。一方、JARE BPRの非季節性 OBP変動は長周期では−0.79という強い相関値なのに対して、短周期では−0.32と弱かった。ADZにおける海洋質量変動の性質は周期帯によって異なっているのかもしれない。一方、周波数応答の違いはあるが、沿岸のSyowa TG点と、より沖合のJARE BPR点の非季節性OBP変動は、どちらもAAO指数に対して負の相関を示す。すなわちAAO指数が正のとき、沿岸もADZもOBP等価水深は下降傾向を示す.

このような変動を説明するメカニズムとして考えられるストーリーは次の通りである。

AAO指数が正のとき偏西風領域の南部は強化され、南極大陸沿岸付近の極東風はやや弱くなる。このときADZより北側では北向きエクマン流が強くなり、南側では南向きエクマン流が弱くなる。従って、ADZでは北向きエクマン流により表層水を失う形となりOBP等価水深が下がる。一方、沖からの南向きエクマン流による表層水の流れ込みが弱まるため、沿岸での海水集束も弱くなり、沿岸のOBP等価水深も低くなる。

季節変動を思い起こすと、夏季に南向きエクマン流が弱くなるとADZから失われる表層水が減るので冬季に下がったADZでのOBP等価水深が戻ると考察したが、AAOに関連した非季節性変動の場合は、北向きエクマン流により失う表層水が大きいためADZでのOBP等価水深が下がったのだと解釈される。

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図6. 風応力によるEkman pumpingとAAO指数の相関係数についての地域分布。鉛直速度について、暖色系は正(上向き)、寒色系は負(下向き)の相関を示す。

このEkman mechanismによるOBP等価水深の変化を確かめるためNCEP/NCAR再解析データを用いて風応力によって生じる表層水の移動に伴う鉛直方向の海水移動速度(Ekman pumping)を計算してAAO指数との相関図を求めた(図6)。AAO 指数の値に対し、暖色系の海域は正の、寒色系の海域は負の相関を持つことを示す。白の海域は統計的に有意な相関係数が得られなかったところである。AAO 指数が正のときは上向き鉛直流成分が強まり、負のときは下向き成分が強まる。大陸沿岸はAAO 指数との相関がほとんどなく、ここではAAOに関係した湧昇が起きていないと見られる。黒い矩形海域に注目すると、62˚S付近からJARE BPR点の付近まで上向き鉛直流成分が強くなり、ここから北側または南側にエクマン流が流れ出すことになるが、上述したように沿岸のOBP等価水深が上がらないので、北向きエクマン流が優越していると考えられる。

非季節性OBP等価水深のAAO 指数に対する応答は、ADZ海域でも沿岸域でも、ともに負(negative sign)であるが、寄与するところは異なっている。すなわち、沿岸域の負応答は南向きエクマン流による水の集束が弱いことに起因するが、ADZでの負応答は北向きエクマン流による水の発散が強いことに起因している。

AAO 指数が急変する時、ADZでも沿岸でもOBP等価水深の変動は大きくなる。しかし、応答が同相(same sign)なので、両者の偏差は思ったより変化しない。このため地衡流の増減も少ないのでACoCの水輸送、特にリュツォ・ホルム湾沖での水輸送は、AAO 指数変化にさほど影響されない。そして長周期変動ほど、影響されにくい。一方、ACCがAAO 指数変化の影響を大きく受けることは既に知られているが、上記の結果からすると、60˚S前後の緯度(リュツォ・ホルム湾付近の経度では62˚S)のACC輸送量に変化が出やすい。



6.OBP高さ変動の模式図

これまでに判ったことを模式図で説明すると以下のようになる。

図7(a)は冬季における海の断面図である。図の左側は高緯度の南極大陸沿岸、右側は低緯度の南大洋である。大陸沿岸のACoC海域で強い東風(画面に垂直下向きに矢羽根が進むように)が吹くと強い南向きエクマン流(太い水色の矢印)が生じる。そのためSyowa TGではOBP等価水深が上昇する(茶色の太い上向き矢印)。一方、ACC海域で吹く西風も冬季は強くなるが、東風と比べると弱いため(画面から上向きに矢が向かってくるが円の大きさは小さい)、北向きのエクマン流は強くなるものの、南向きと比べると弱い(細く短い水色の矢印)。この両側で生じるエクマン流に伴い、ADZ海域に置かれたJARE BPR の等価水深は低下する(下向き茶色の矢印)。沿岸域での上昇、ADZでの低下がほぼ同期して起きるので、図4の黒線が示すように両者のOBP高さの偏差は、振幅で20 cm近くに達する。

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図7. ADZにおけるOBP等価水深低下を説明する模式図。(a) 冬季の風系によるエクマン流鉛直成分は沿岸とADZでは異なる符号を持つ。(b) AAO指数への応答による非季節性OBP変動は沿岸とADZで同符号(同相)である。

図7(b)はAAO 指数が正の時の応答である。東風はほぼ通常通りだが、西風はAAOに対する相関性が高いので強くなり、左図の場合とは反対に右円が左円より大きくなる。するとADZ海域での南向きエクマン流は通常より弱いので(細い水色の矢印)、Syowa TGではOBP等価水深が低下する(茶色の下向き矢印)。一方、北向きエクマン流は通常より強くなり(太い水色の矢印)、ADZ海域にあるJARE BPRのOBP等価水深が低下すること(下向き茶色の矢印)に変わりはない。しかし、Syowa TGでもJARE BPRでも矢印は下向きなので、相対的なOBP高さの偏差は小さめになる。

JARE BPR点では現在も2台交互のBPR による観測が継続していて、2011年11月現在、5年分のデータが得られている。観測をさらに継続することにより、ACC海域とACoC沿岸域をつなぐADZの役割がより詳しくわかるだろう。



このノートは下記論文をもとにまとめた。

Hayakawa, H., Shibuya, K., Aoyama, Y., Nogi, Y., Doi, K., 2012. Ocean bottom pressure
variability in the Antarctic Divergence Zone off Lützow-Holm Bay, East Antarctica,
Deep Sea Research Part I, vol. 60, 22-31, DOI10.1016/j.dsr.2011.09.005.



Q and A

Q1: いろいろなデータセットの名前が出てきますが、どういう意味合いがあるのか良く分かりません。
A1: 詳しい説明は省いたので無理もありません。概要のみ説明するので、関連の論文やweb siteを調べて下さい。

(a) NCEP/NCAR reanalysis data:

NOAAのNational Center for Environmental Projection (NCEP)とNational Center for Atmospheric Research (NCAR)が、現場観測データと気象予測モデルにより風向・風速、気圧などを6時間毎、1日平均、月平均値として求めたものである。2.5˚ x 2.5˚ グリッド点での時系列データ(1948 - 現在)として与えている。データを使用するとき、次の引用を推奨している。
Kalnay et al., 1996. NCEP/NCAR 40-year reanalysis project. Bull. Amer. Meteor.
Soc., 77, 437-470.
http://www.esrl.noaa.gov/psd/data/gridded/data.ncep.reanalysis.html


(b) ECCO (Estimating the Circulation & Climate of the Ocean):

1998年より、MIT, SIO, JPL, GDFLのコンソーシアムが開発してきたGCM (Global Circulation Model)。このGCMを用いて、月平均、10日平均、1日平均、12時間ごとの海洋場の状態、風の駆動場、等価水深などの時系列を計算できる。よく引用されるのは次の文献である。
Fukumori, I., 2002. A partitioned Kalman filter and smoother. Mon. Weather Rev.,
130(5), 1370-1383.
http://ecco.mit.edu/products.htm


(c) GRACE重力場の球面調和展開係数はCSR, JPL, GFZ Potsdamがそれぞれ、独自に計算し、並行して公表している。発表機関により値が異なるので、どのデータセットを使用したかによって、結果も異なる。また、GRACE Tellusのように、派生する2次データセットも複数、存在する。

http://www.csr.utexas.edu/grace
http://www-app2.gfz-potsdam.de/pb1/op/grace
http://grace.jpl.nasa.gov/


(d) AAO (Antarctic Oscillation) index:

AAO(南極振動)は南半球における極渦の強弱を示すパターンでSAM (Southern Annular Mode)とも呼ばれる。AAO指数は南極振動の強さを表現する指数で、南半球における700 hPa等圧面高度偏差場の主成分解析により得られる第一主成分(EOF1)の得点として定義されている。
http://www.cpc.ncep.noaa.gov/products/precip/CWlink/daily_ao_index/aao/aao.loading.shtml



Q2: 2台のBPRを交互に投入・回収して、同一地点での長期間観測データとして良いのですか?
A2: 2台のBPRは同じ緯度・経度、水深に着底するわけではないので測定される海底圧力にはoffsetが生じます。また、センサーの温度が海底で安定するまでに指数関数的な見かけの経時変化が生じます(センサーdriftと呼びます)。従って、2台のBPRがほぼ同一場所に一定期間、同時にあることが、offsetと経時変化を合わせるために必須です。しらせ往路でADZ海域に到着するのが12月中旬、しらせ復路でADZ海域を離れるのが2月上旬で、ほぼ60-70日同時観測ができます。毎年、offsetと指数関数の時定数が異なりますが、これら補正を加えれば、長期時系列データを作成できます。



Q3: 2頁目に「衛星間の距離とその時間変化を計測すれば重力場が判る」ととれる記述がありますが、何故そうなるのかがわかりません。
A3: 図8を用いて、簡略化した説明をします。衛星は基本的には、地球の質量分布によって決まるポテンシャル場に従って運動します。今、図の斜線域が、中心に行くに従って周囲より重たくなる物質がある場所とします。(1)の衛星配置の場合、衛星Aは万有引力の法則で斜線部中央の上空に引き寄せられるように強く加速しますが、衛星Bが受ける加速は弱いものです。従って、AB間距離は長くなります。距離の時間変化(速度)を観測することにより、衛星移動方向のポテンシャル場の変化に対応した加速の強弱の度合を知ることができます。斜線部上空を過ぎて、(2)の位置に来た時、衛星Bは斜線部中央の上空に止まろうとする力を受けますが、衛星Aは(1)の配置の時のBと同じ速度を保とうとするので、AB間距離はやはり、長くなります。衛星A,または衛星Bが斜線部上空にかかっている限り、衛星間距離は大なり小なり、長くなります。このように、2衛星間距離の変化を、重力場の強弱と対応させることができます。

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図8. GRACE衛星による重力場強弱検出の原理。