南極地球物理学ノート No. 1 (2011.09.15)

「南極・昭和基地の超伝導重力計で観測された2011年3月11日東日本大地震の記録について」


澁谷和雄・青山雄一

Keyword: 超伝導重力計, 昭和基地, 2011年東日本大震災, 2010年チリ地震, 2004年スマトラ地震,
STS地震計



日本時間2011年3月11日14時46分(5時46分UTC)に発生した東日本大地震(震源位置: 北緯38度6.2分、東経142度51.6分、深さ32 km、マグニチュードMw:9.0)による振動波形 が約20分後の3月11日6時6分(UTC)に昭和基地に設置されている超伝導重力計でも明瞭に観測された。昭和基地と東日本大地震の位置関係を図1に示す。昭和基地は震源から地表に沿って14431 kmの距離(震央距離)にある。昭和基地の超伝導重力計はこれまでに2004年12月26日のスマトラ島沖地震(マグニチュードMw:9.1)、2010年2月27日のチリ地震(マグニチュードMw:8.8)などの地震も捉えている。昭和基地までの震央距離はスマトラ島沖地震が9073 km、チリ地震が7119 kmである。

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図1. 2011年東日本大地震、2004年スマトラ島沖地震、2010年チリ地震の震央と昭和基地(☆)との位置関係。
各地震のマグニチュード(Mw)の下の数値は各震央と昭和基地との距離(km)を示している。

図2は得られた約4日間の1秒サンプリング連続記録波形である。図2(a)の緑線が東日本大地震、黄色線がチリ地震で、マグニチュードの大きい東日本大地震の方が減衰の仕方がゆっくりである。一方図2(b)では同様にスマトラ島沖地震(ピンク線)と東日本大地震(緑線)を比較しているが、減衰の仕方はほぼ同じか、東日本大地震の方がゆっくりである。

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図2(a):東日本大地震(緑線)とチリ地震 (黄色線)の比較
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図2(b):東日本大地震(緑線)とスマトラ島沖地震 (ピンク線)の比較

図3は、図2の記録から潮汐及び気圧に応答する成分を差し引いて得られた1秒サンプリングデータの残差時系列で、初動部分の大きな振幅変化に対しても振り切れない記録が得られている。 図3(a)が東日本大地震、(b)チリ地震、(c)スマトラ島沖地震について同じ振幅スケールで表示した。東日本大地震の場合300×10‐8 m/s2以上で、スマトラ島沖地震の230×10‐8 m/s2より見かけ上は大きいことが注目される。もっとも、地震波エネルギーの放出には方向依存性があるので最大振幅の比較は単純ではない。昭和基地では広帯域地震計(STS)、GPS、潮位計による連続観測も実施されており、それらのデータは、超伝導重力計のデータとともに、詳しい解析に使用される。

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図3(a)
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図3(b)
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図3(c)


Q and A

Q1:「超伝導重力計」と,「地震計」との違いは何か?
A1: 昭和基地には広帯域地震計が3台あって、東西、南北、上下の3方向の地動変位速度を測っています。一方、超伝導重力計では、重力と同じく上下方向の加速度一成分を測ります。この点が異なります。
超伝導重力計は、重力センサーを安定な超伝導磁場の中で磁気浮上させ、フィードバック制御して極めて微小な重力変化を検出することができる装置です。超伝導状態を保つため、センサーを液体ヘリウムの入ったデュワー(魔法瓶のようなもの)内に設置しています。重力加速度 (9.8 m/s2) の10-12倍以下の微小かつ速い周期の変動 (10数秒) から極めてゆっくりした周期の変動(1年以上)まで、広い周期帯域の加速度変動を捉えることができます。
図3(a)の3月9日03時付近の小さな振動は、三陸沖で発生したMw 7.2の地震(今になって見ると前震だったと思われる)ですが、振幅の比較から、3月11日の地震がいかに大きな規模だったかおわかりいただけると思います。



Q2: Mwとは何か?
A2: モーメント・マグニチュードの単位で
log Mo = 1.5Mw + 9.1
で定義します。金森博夫博士(カリフォルニア工科大学・教授)の考案・提唱した量です。
ここで地震モーメントMoは
Mo=μSU(μは剛性率、Uは断層のずれの量、Sは震源断層の面積)
で表され、エネルギーの次元を持ち、地震の規模に対応します。
従来使用されていた実体波マグニチュード、表面波マグニチュードはマグニチュード8以上になると頭打ち(8.7より大きくならない)になることが知られていましたが、Mwはそのように頭打ちになることがなく、断層運動としての地震エネルギーの規模を正しく反映すると考えられています。観測史上最大のMwはチリ地震(1960年5月22日発生)の9.5です。



Q3: 東日本大震災による超伝導重力計の振動はどれくらい継続したのか?
A3 : 地震は過渡的な現象なので必ず発現(現象が現れる)時刻があります。昭和基地では3月11日6時6分頃です。発生時刻から約20分遅れで到着した実体波は、伝播に時間のかかるPKIKPやSKKS波(図4(a)参照)であっても1時間以内には昭和基地に到達します(図3の波形を示す時間軸で1目盛以内です)。ただし昭和基地は東日本大地震の震源から見ると、シャドーゾーンと呼ばれる領域(震央距離が103~143度)に入るので、実体波のなかで最も有名なP波、S波は到達しません。
地球表面を伝播する縦波(Rayleigh波と呼ばれる)、横波(Love波と呼ばれる)は実体波より減衰が遅く、図3でも2/3日くらい地震による振動として認識できます(地球を5周しています)が、これらの過渡現象がおさまり検知できなくなっても、約100秒~1時間周期の地球自由振動と呼ばれる現象がさらに継続します。

これは大きな力で揺すられた弾性球がねじれたり、伸び縮みしながら変形を繰り返す現象で、超伝導重力計は特に0S0と呼ばれる、地球全体の伸び縮み振動をとらえるのに適しています(図4(b)参照)。図2及び図3で雑音のようにしか見えない震動であっても、データを解析することで詳しい地球内部構造を調べることが出来ます。
2010年のチリ地震 (Mw 8.8)の場合、昭和基地では、約70日間この自由振動0S0が観測されました。今回の東日本大地震による0S0はチリ地震より10日程度長く検出されています。

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