南極におけるオーロラ研究

文責:門倉 昭(国立極地研究所・宙空圏研究グループ)

 はじめに

オーロラは私たち人類が目にすることができる地球上の現象の中でも、最も神秘的で壮大なものの1つといえます。 凍えるような極地の夜空いっぱいに広がり、音もなく舞い、さまざまに色や形を変えるオーロラを目にすると、何ともいえない不思議な感じにとらわれます。

こうしたオーロラに出会える場所は、世界地図の中で南極、北極を取り巻く輪のように分布しており、「オーロラ帯」と呼ばれています。 北半球では、カナダからアラスカ、シベリアの北の北極海、スカンジナビア半島の北、アイスランド、そしてグリーンランドの南端を通り地球を一周しています。 南半球では、エンダービーランド、クイーンモードランド、南極半島のつけ根からマリーバードランドを通り、南極海へと続いています。

日本の昭和基地はまさにこのオーロラ帯が通る絶好の場所に位置し、南極観測開始当初から様々な手法を用いたオーロラ観測が行われてきました。

今日では、オーロラは、磁気圏と呼ばれる地球を取り巻く空間が太陽活動の影響を受けた結果生み出されることが分かってきました。 私達は、オーロラの観測・研究を通して、そうした地球の周りの環境の時々刻々の変化を知ることができるのです。

夜空に舞う神秘のオーロラ。それはまた私達への太陽からのメッセージでもあるのです。

   
 南極の昭和基地(左)とあすか基地(右)上空に現れたオーロラ

 オーロラ研究の歴史

「オーロラ」とは、ローマ神話にでてくる「夜明けを告げる女神」の名前で、名づけたのは有名なイタリアの科学者ガリレオ・ガリレイで17世紀初めのことだと言われています。 中世ヨーロッパでは、オーロラは、天上にゆらめくローソクの炎、刀がかち合うときの火花、または不吉の前兆などと考えられていました。


      
曙の女神「オーロラ」     中世ヨーロッパの人々が考えたオーロラ

オーロラが科学的に研究され始めたのは、ノルウェーのナンセンが帆船フラム号による北極探検を行った19世紀後半からで、ノルウェーの物理学者ビルケランドはみずから「人工オーロラ発生装置」を開発し、独自のオーロラ理論を発表するとともにその実証実験を行いました。

     
  ナンセンが描いたオーロラの木版画       ビルケランドと人工オーロラ発生装置

オーロラがどのような波長の光なのか、という分光学的な研究も19世紀後半のオングストロームの観測から始まり、20世紀半ばには、酸素原子や窒素分子、水素原子などからの輝線スペクトルの種類が明らかにされました。


オーロラの世界的な分布については、19世紀後半のルーミスやフリッツ、20世紀前半のベスティンらにより、磁極を取り巻くドーナツ状の地域で出現頻度が高いことが示され、この地域は「オーロラ帯」と名付けられました。

1957〜58年の「国際地球観測年(IGY)」には、北半球の約50ヶ所に全天カメラが設置され、地球規模で変動するオーロラの全体像が、フェルドシュタインや赤祖父俊一により明らかにされました。 昭和基地はIGY期間の1957年に建設され、その年からオーロラ観測が開始されました。

  
   赤祖父(1964年)によるオーロラ嵐発達のモデル    昭和基地における全天カメラ観測

1971年に打ち上げられたISIS-2衛星は高度1400kmの上空からオーロラの全体像を撮像することに成功し、その後、DMSP、きょっこう、DE-1、Viking、あけぼの、Polar、IMAGEと続く人工衛星によるオーロラ観測時代の幕開けとなりました。 昭和基地にも、ISIS、あけぼの、DMSP衛星からのデータを受信するためのアンテナが建設されました。

これらの衛星観測により、その瞬間瞬間のオーロラの世界分布は、丸い輪ではなく、昼間側がより高緯度側へシフトした卵型(オーバル)をしていることが明らかになり、「オーロラオーバル」と呼ばれることになりました。 現在、Polar衛星は約5万kmの上空から時々刻々のオーロラオーバルの様子を私達に届けてくれます。

  
   昭和基地の人工衛星受信アンテナ

       
北極と南極のオーロラオーバル(DE-1衛星による) 「あけぼの」衛星(左)とDMSP衛星(右)の観測

一方、衛星観測によっては捉えられないオーロラの微細な構造や素早い動きを観測することが出来る地上観測網も、北欧やカナダ域を中心に充実してきており、南極域でも、昭和基地をはじめ中国の中山基地、米国のサウスポール基地などにおいてさまざまな観測機器を用いた総合観測が実施されています。 昭和基地では、ロケットや大気球を用いた観測も行われてきました。最近では、天候や季節に左右されない電波を使ったオーロラ観測も行われています。

  
全天オーロラ観測機器(左)と多色掃天フォトメーター(右)

     
  ロケット観測(左)と大気球観測(右)         昭和基地の大型短波レーダー

 オーロラ基礎知識

 オーロラの高さ

オーロラの高さは、離れた地上2点での三角測量やロケット観測やレーダー観測により求められていて、上空100kmから500kmの熱圏と呼ばれる領域に現れ、緑のオーロラの最も明るい部分は110km付近、赤いオーロラの最も明るい部分は250km付近であることが分かっています。 この領域は地球の大気が太陽からの紫外線を受けて電離している場所(電離圏)でもあります。高度200〜600km付近を飛翔するスペースシャトルはまさにオーロラと同じ高さを飛んでいることになります。

  
         オーロラが光っている高さ       スペースシャトルから見たオーロラ(NASA)

 オーロラの光

上空100kmから500kmの地球大気の主成分は、窒素分子、酸素分子、酸素分子が太陽紫外線を浴びて作られる酸素原子、からなり、上空にいけばいくほど、重さの軽い酸素原子と窒素分子の割合が大きくなります。オーロラはこの高さにある酸素原子や窒素分子が光る発光現象です。

オーロラの光のスペクトルをとると、紫や青は窒素分子イオン(N2+)から、ピンク色は窒素分子(N2)から、明るい緑や赤の光は酸素原子(OI)からのものであることが分かります。 また目では見えない紫外線や赤外線の領域の光や、地球大気の主成分にはない水素原子(H)からの光も観測されます。 このようにオーロラ光のスペクトルは太陽光のような連続スペクトルではなく、それぞれの原子や分子からの輝線スペクトルが組み合わさったものとなっています。


        地球の大気組成の高度分布



オーロラ帯には、千ボルトから1万ボルトくらいまでの電圧で加速された電子(オーロラ粒子)が、地球の外から地球の磁力線に沿って大気中に飛び込んで来ます。 飛び込んできたオーロラ粒子は厚い大気に遮られてある高さで止められ、持っていたエネルギーを周囲の大気に与えます。 これにより、大気中の酸素原子や窒素分子はよりエネルギーの高いより不安定な状態になり、再び安定なよりエネルギーの低い状態に戻るとき、その差分のエネルギーを光として放出します。それがオーロラです。


        オーロラの発光メカニズム

 オーロラの形

オーロラがカーテンのように線状に見えるのは、オーロラ粒子が磁力線に沿って動き、その途中で少しづつエネルギーを失い大気を光らせるためで、オーロラのカーテンは夜空に浮び出た地球の磁力線といえます。

  
様々な色のカーテン状オーロラ。緑や赤は酸素原子、青や紫は窒素分子イオン、ピンクは窒素分子

オーロラのカーテンは、東西方向には地平線から地平線まで1000km以上にわたって長く延びているのに対し、南北方向には非常に薄い形をしており、仰ぎ見る角度により、遠くにあるときは東西にわたる帯(バンド)か弧(アーク)のように見え、頭上近くに来ると一点から放射状に広がる形(コロナ状)に見えます。

  
  バンド状(左)、アーク状(中)、コロナ状(右) 見る角度によって形が異なる

オーロラには、カーテンや弧のように見えるはっきりした(ディスクリート)オーロラの他に、空にぼんやりと広がる拡散型(ディフューズ)オーロラがあり、それはしばしば複雑な斑点のようにきれぎれに分布し、10秒程度の周期で光の明滅を繰り返します。 そのようなオーロラは脈動(パルセーティング)オーロラと呼ばれます。

拡散型オーロラや脈動オーロラは、オーロラ嵐の発達の後半に、特に朝方に現れやすいことが分かっています。 電子の他に陽子(プロトン)もオーロラ粒子として降り込んできていますが、陽子によるオーロラは電子によるものとは異なり、空に薄くぼんやりと拡がって見え、「プロトンオーロラ」と呼ばれます。

 
              脈動オーロラ

 オーロラの動き

オーロラのカーテンはいつもゆらめいていて、明るさが増すとその動きも速くなります。 またカーテン全体がゆっくりと遠くの空から真上へと移動することもあります。 オーロラ嵐が起こると、カーテンは散り散りに壊れ、もの凄い速さで空全体に広がり、大きな渦がカーテンを巻き込んで現れ、あっという間に遠くへ走り去ってゆきます。 残された空にはあちこちで複雑に明滅を繰り返す脈動オーロラが現れ、そのぼんやりした領域全体が西や東にゆっくりと移動してゆくのが見られます。

こうしたオーロラの動きは、光っている上空の酸素原子や窒素分子などが実際動いているわけではなく、オーロラ粒子が降り込んでくる場所がつぎつぎに変わっているためで、オーロラ粒子を生み出している地球の周りの状態がつぎつぎに変化していることを反映したものです。

 
    ゆらめき、渦を巻くオーロラのカーテン


     オーロラブレークアップの様子 (動画)

 オーロラ粒子

地球は磁石のようになっていて、地球の周りはその大きな磁石のつくる磁場(磁力線)でおおわれています

 
 
         棒磁石の周りの磁力線

物質がプラスとマイナスの荷電粒子に分かれた状態をプラズマといいますが、地球のまわりの磁場は、太陽から吹くプラズマの風(太陽風)の圧力を受けて、太陽に向いた方向は押しつぶされ、逆の方向には引き伸ばされたような形をしています。 そうした磁場が押し込められた領域は「磁気圏」と呼ばれます。

磁気圏の中に侵入した太陽風プラズマは、南極と北極を結ぶ「閉じた」磁力線の間にたまりこんでいて、そうしたプラズマ密度の高い場所を「プラズマシート」と呼びます。 このプラズマシートがオーロラ粒子の源であり、オーロラ粒子はもともとは太陽からやってきたもので、オーロラは太陽からの贈りものといえます。


                 太陽風と地球磁気圏


            モデル計算による磁気圏(Tsyganenkoによる)

オーロラを光らせる電子や陽子は、プラズマシートから地球に向かって、磁力線に沿って動きながら南極域と北極域に同時に降り込んできます。 プラズマシートは地球をぐるりと取り囲んでいて、その磁力線の根元は南極や北極上空を取り巻く輪のような形になります。 これがオーロラオーバルです。

 
DE-1衛星(左)、Polar(右)衛星が観測した両極で同時に光るオーロラオーバル

 オーロラ帯とオーロラオーバル

地球の磁石の軸は地球の自転軸とは少しずれています。 地球の磁石の南極、北極の位置をそれぞれ地磁気の南緯90度、北緯90度とし、それぞれの磁石の極と自転軸の極を通る大円の経度を、磁気経度0度とした座標系を地磁気座標系といいます。 

オーロラ粒子は地球の磁力線に沿って極域に降り込んで来ますので、オーロラの出現領域は、地理座標系よりも、地球の磁場で決まる地磁気座標系に、より深く関係しています。 磁気緯度60度〜70度の領域は、特にオーロラ出現頻度が高いたいめ、「オーロラ帯」と呼ばれます。 下の図は南極域でのオーロラ帯を示しています。昭和基地(SYO)はちょうどオーロラ帯のど真ん中に位置し、ドームふじ基地(DMF)は、オーロラ帯の高緯度側境界付近に位置していることがわかります。



「オーロラ帯」とは、上述したように、”オーロラが出現しやすい磁気緯度帯”、を意味します。 一方、「オーロラオーバル」とは、宇宙から地球を眺めたとき、”その瞬間瞬間にオーロラが現れている場所”、を意味し、「オーロラオーバル」と「オーロラ帯」は異なるものです。 「オーロラ帯」の形は、同じ磁気緯度線に沿った円に近い形ですが、「オーロラオーバル」の形は、昼間側では「オーロラ帯」よりも高緯度側にシフトした卵型(オーバル)をしています。 下の図は、北極域でのオーロラ帯とオーロラオーバルの関係を示します。



昭和基地は「オーロラ帯」に位置していますが、下の図のように、昼間側では「オーロラオーバル」の低緯度側に位置することになり、たとえ空が暗くても、昼間の時間帯では、昭和基地ではオーロラを見ることは出来ません。



 オーロラと太陽

磁気圏の形は、太陽風の圧力や太陽風の中の磁場の向きによって常に変動しています。 太陽風磁場が南を向くと、昼間側で、北向きの地球磁場との間で「磁場のつなぎ換え」が起こり、太陽風磁場が地球磁場と結合し、太陽風プラズマやエネルギーが磁気圏の中に侵入しやすくなり、プラズマシートの密度は増加し、オーロラオーバルも明るさを増します。 このようにオーロラ活動は太陽の活動と深い関係があります。

太陽は地球から見て約27日周期の自転をしており、太陽表面に太陽風速度の速い領域や磁場が南を向いた領域があると、それらは27日毎に地球磁気圏に影響を与え、オーロラ活動にも27日周期の変動が現れます。 また地球の公転による季節変動も現れます。 太陽の活動は約11年周期の変動をしていますが、オーロラ活動にもそれに対応した11年周期の変動があることも知られています。

  
日食時の太陽コロナ(左)、X線で見た太陽(右)。太陽風は太陽コロナが外側に吹き出したもの


昭和基地のオーロラ活動(Kインデックス)の季節変動(1966年〜2004年の平均)


太陽活動度(黒点数)と昭和基地のオーロラ活動(Kインデックス)の関係

 オーロラ関連現象

オーロラ粒子が上空の大気と衝突すると、中性の大気が電離され、プラスのイオンや電子が生成されます。 つまりオーロラが光っている場所は電子密度が増加し電離度が高く電流の流れやすい場所でもあるわけです。 実際、激しくオーロラが光ると強い電流が高度120km付近を流れ、その電流により地上の磁場が大きく変動します。 逆にその磁場の変化からどれくらいの電流がどちらの方向に流れているかを知ることが出来ます。 大きなオーロラ嵐の時は、西向きに「オーロラジェット電流」と呼ばれる強い電流が流れ、全電流量は数千万アンペアにも達することがあります。

オーロラが光っている場所で電子密度が増加すると、特定の周波数の電波を反射したり吸収したりすることになります。逆に電波の反射や吸収量の変化によってオーロラ活動の変化を知ることが出来ます。


電波で電離圏を観測する大型レーダー(トロムソ、ノルウェー)

オーロラ粒子の源はプラズマシートなので、オーロラの変動は、磁気圏内のプラズマシートの変動をあらわしていることになります。 オーロラ嵐の時は、磁気圏の中でも「磁気圏嵐(サブストーム)」と呼ばれる激しい現象が起きています。逆に、オーロラ嵐は、磁気圏嵐の地球側への投影、ともいえます。



         オーロラ嵐が起こると地上や磁気圏の磁場が大きく変動する

 他の惑星のオーロラ

オーロラは、光る大気があり、光らせるオーロラ粒子があり、オーロラ粒子をためておける磁場を持つ惑星であれば、地球以外の星でも見ることが出来ます。 実際、木星や土星でも南北両極に光るオーロラオーバルが、ハッブル宇宙望遠鏡により観測されています。

 
ハッブル宇宙望遠鏡による木星(左)と土星(右)のオーロラ(NASA)


 オーロラ研究の最前線

 オーロラ嵐(サブストーム)の研究

地上観測、あけぼの、Polar、IMAGE衛星などによるオーロラの全体像の観測、Geotail衛星などによる磁気圏の観測、を組み合わせた総合的な研究が行われていますが、サブストームがいつ、どこで、どのようなメカニズムで始まるのか、など未解決な問題も数多く残されています。


地上全天カメラで観測されたオーロラサブストーム


地上全天カメラで観測されたオーロラサブストーム(動画60倍速)


DE−1衛星が観測したオーロラサブストーム


モデル計算による磁気圏サブストームの発達(Tsyganenkoによる)

 オーロラの共役性の研究

同じ磁力線で結ばれた昭和基地とアイスランドとの間でオーロラの同時観測を行い、両観測点でのオーロラの位置、形、動き、明るさなどを比較し、相互の違いやそれをもたらす要因を明らかにすることを目的とした研究を行っています。 オーロラ帯でこのような観測が行える観測点のペアは現在世界で唯一つです。

 
昭和基地−アイスランドオーロラ共役点観測


地磁気共役点位置関係


アイスランドのチョルネス(左)と昭和基地(右)で同時に観測されたオーロラ(動画)


 オーロラの微細構造の研究

視野が非常に狭いテレビカメラを使って、オーロラのカーテンの厚さや細かい構造を観測し、そのような微細構造を作り出すメカニズムについての研究を行っています。




    狭視野カメラの視野(上)と観測例(下)

2005年8月に打ち上げられた日本の科学衛星「れいめい」は高度約600kmからオーロラの微細構造を観測することを目的としたもので、2006年には昭和基地でのオーロラ観測との同時観測が行われました。



れいめい衛星によるオーロラの連続写真

 オーロラの3次元立体構造の研究

特にスウェーデンに展開されている地上多点オーロラ立体観測ネットワーク(ALIS)により、オーロラの3次元立体構造を再構成する研究を行っています。

 
地上多点観測により求めたカーテン状オーロラの3次元構造

 高緯度オーロラの研究

国際大型短波レーダーネットワーク(SuperDARN)や、米国の南極点基地、中国の中山基地、スピッツベルゲン島での地上観測により、オーロラ帯よりも高緯度に現れるオーロラの研究を行っています。


国際大型短波レーダーネットワーク(SuperDARN)

  
南極点基地で観測された昼間のオーロラ



[参考文献]

・「オーロラ―太陽からのメッセージ」、上出洋介著、山と渓谷社、ISBNコード:978-4-635-06254-1(4-635-06254-6)、1999年12月